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第十八話:兄貴がうつ病だった

 自宅に帰ると、なぜか独立して家を離れた兄貴がいた。

 下の名前は元気。げんきと読む。

 最少は元って名前にするつもりだったらしい。はじめと読む。

 どうでもいいですか、そんなことは。


 しかし、兄貴は全然元気そうではない。

 スポーツマンでいつも日焼けしてたのが、すっかり青白く痩せている。

 顔色が悪い。

 今日は平日なんだが、仕事はどうなってんだ。


「よう、健二。元気にしてたか」


 声も小さいな。


「兄貴こそ、今日は仕事どうしたの」

「今は休職中さ」

「え、どうしたの。どっか悪いの」

「うつ病だよ」

「マジ、いつから」

「三年前からさ。その頃から休職したり復帰したりを繰り返していたんだよ」


 何でも就職後五年目あたりから調子が悪くなって、ついに職場でダウン。

 そのまま休職。

 最初は気遣ってくれた嫁さんも、一向に治らない兄貴を見放して、家から追い出され離婚届も突きつけられたって話だ。

 そんな深刻なことになっているなんて全く知らなかった。


「で、どうしたの」

「それを両親に相談に来たのさ」

「嫁さん、なんて言ってるの」

「しょうがないよ、精神病者には付き合えないとさ」


 厳しいなあ、確か恋愛結婚じゃなかったっけ、兄貴。

 あっさりと捨てられてしまうとは。

 愛も冷めるのが早いのか。


「お子さんの親権問題とかどうなってんの」

「まあ、あいつはバリバリ働いているから向こうにいくだろうな。俺は下手したら退職になってしまうかもしれない。多分、そうなるよ。そういや、お前警備のバイトは」

「今日はシフトの都合で休み」

「そうか、とりあえず元気でよかったな」


 そう言いながら、兄貴がプラスチックケースから精神薬を何種類も出してこたつのテーブルに並べる。

 水でいくつも飲み始める。


「こうなっちゃ、お終いだよな」


 兄貴がポツンと言った。

 よく見ると高橋さんが飲んでいた薬と同じものも混じっている。

 母が心配そうに言った。


「そんなにお薬飲んで、身体がおかしくならないの」

「おかしくならないために飲んでるのさ」


 なんとなく投げやりだなあ。

 兄貴、大丈夫かなあ。

 そこへ親父が帰って来た。


「なんだよ、あの嫁は」と怒っている。

「しょうがないよ、俺が不甲斐ないからさ」


 元気兄貴はすっかり元気がない。

 当分、実家に居候って話だ。


 俺は自分の部屋のパソコンでうつ病やパニック障害について検索した。

 うーむ、うつ病やパニック障害になりやすいのは、基本的に真面目な人ってことだ。

 また多くの場合、ストレスがピークに達したときに、病気が起こりやすくなるって書いてある。


 兄貴も真面目な人だよなあ。

 高橋さんも本来はそんな感じがする。

 真面目な人が、がんばって病気になってしまうのって理不尽な気がする。

 甘えとは思えないな。


 精神薬ってのも危険らしい。

 依存症になったりするようだ。

 抗うつ薬と精神安定剤ってのは全く違うもんらしいが、特に精神安定剤ってのがやめるのが難しいようだ。


 治療のための精神薬をやめたくて、でも結局やめられなくて、その結果自殺したりする人もいるみたい。治療薬飲んで病気を治そうとして、結局、依存症になって自殺してしまうなんて、本末転倒じゃないのか。

 こりゃ、ますます大変な病気だなと俺は思った。


 世界で生産される精神安定剤の七割が日本で使用されているって書いてある。

 やばくないか、日本。

 安易に薬を処方するんじゃなくて他の方法はないのだろうか。

 まあ、俺は精神科医じゃないからよくわからんが。


 それにしても、高橋さんは不倫してふられてパニック障害。

 兄貴は仕事のストレスでうつ病。で、嫁さんと離婚騒動。

 いとこのお姉さんは産後うつ病になって飛び降り自殺。


 なんちゅうか、わざわざ恋愛やら結婚とか子供産むとかしなくてもいいんじゃないかと思い始めた俺。

 苦労するだけだな。

 まあ、そもそも相手はいませんけどね。


 異世界小説を読んでいる方がいい人生送れるんじゃないか。

 最近は、異世界恋愛小説ってのも流行ってるけど。

 妄想に浸っているほうが健康的じゃなかろうか。


 それにいずれAI使ったセクサロイドとか出来るんではないだろうか。

 フェミニスト団体が抗議しそうだけど。

 まあ、俺はそれでいいよ。

 値段高そうだけど。

 買えるかなあ。

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