第一話:自宅警備員からスーパーマーケットの警備員になった
一月。
自宅警備員からスーパーマーケットの警備員になった。
俺の名前は佐藤健二。
二十六才。
都内に家族と住んでいる。
Fラン大学から金融業界の中小企業へ就職。
しかし、そこはいわゆるブラック企業。
上司と大喧嘩になってわずか十か月で退職。
その後、ニートの道を歩む。
親父は激怒している。
「お前には気合と根性が足りん!」とか騒いでいる。しかし親父はバブルの時に就職したバブル世代。大企業に就職。何だか新規採用者はハワイ旅行に連れて行ってくれたらしい。面接も一分で終わったとか。
本当かよ。
天国みたいな時代だ。異世界みたいだな。『異世界就職活動』って本を書きたくなるね。なぜかその世界では就活生が面接する側になって、各有名企業の社長たちをズラッと並ばせて、片っ端から必殺の最強魔法である圧迫面接攻撃をくわえる。それに耐え残った企業の社長の中で、一番多くの美女を連れてきた会社に入ってやるというハーレム状態。入社後も仕事はハンコを押すだけ。おっと、最近はハンコ文化は消滅しつつあるんだっけ。しかし、こんなの書いたら氷河期世代の方々が発狂しそうなのでやめておこう。
それに俺はハーレムってあんまり好きではないんだな。どうでもいいか、そんな事は。
それにしても、氷河期世代の悲惨さを見ろよ、バブル親父。偉そうにすんな。楽して就職しやがって。そこで、ショートヘア美人のおかんを捕まえ、高級マンションも購入。高級自動車も購入。
おまけに、このバブル親父の趣味はバイクでツーリングなんだよな。
高価なバイクを何台も持ってやがる。最近もホンダの排気量四百CCの最新ヴァージョンも購入。
おっさん、似合わないぞ。
まあ、最近はさすがに年を取って、あまり乗ってないようだ。たまに休日にカッコいいバイクを綺麗に洗浄している程度だな。全く、氷河期世代は貧乏で自動車もバイクも買えない状況になってるってのに。電動自転車でさえ超高級品と思える生活だぞ。
とは言え、俺は氷河期世代ではなく、Fラン大学にしか入れなかったのもブラック企業にしか入れなかったのも俺のいい加減な性格が原因だ。まあ、性格はおとなしいけどね。ぼんくらでぐうたらなだけだ。つーか、頭は悪いね、生まれつき。
一流大学出身、一流企業に就職した兄貴は、すでに我が家から独立して結婚しており、仕事と子育てで忙しく俺の現状には、「頑張れ!」の一言のみ。
母はかばってくれて、最初はわりと優しかった。しかし、二年間ぐうたら自宅警備員のニート生活をしている俺についに怒り出し、働かないと家を追い出すとか言われてしまった。
しょうがないのでとりあえずバイトでもしようかと就いたのが、地元近くのスーパーマーケットの警備員の仕事。年中無休で二十四時間営業のスーパーだ。なぜ警備員になろうかと思ったかと言うと学生の頃も遊園地の駐車場で警備員のバイトをやっていたので割と慣れているかなあと思ったからだ。特に資格は必要無し。
俺の外見は中肉中背で、ごく普通。顔もまあ普通だな。良くも悪くもない。存在感無しのこの現実世界のモブキャラだ。すぐに警備員として採用された。仕事は主に施設内の見回り。学生の頃はイベント会場の駐車場整理が主な業務だったので、たまにこちらの言うことを聞いてくれないドライバーもいて割と大変だったが、今回はそれよりも楽だ。
勤務時間は基本は午前六時から午後三時まで。時に午後三時から午前零時。週休二日。しかし、シフト勤務制である程度こちらの希望通りに勤務時間をずらすことも可能だ。長時間立ちっぱなしなのでぐうたら生活を続けていた結果、萎えていた脚が疲れるがブラック企業の営業の仕事に比べれば天国だ。まあ、ちょっと孤独な仕事でもあるがな。
さて、俺の趣味とは言うと、まずはネットで無料の異世界小説を読むこと。
異世界に行って、いや逝ってかな。とにかく異世界で最強の剣をキンキンキンキンキンと振り回し片っ端から敵を倒して多くの女性からモテモテ。周りの登場人物からは絶賛、絶賛、大絶賛。全くストレスフリーな世界観。
読んでて気持ちが良い。
但し、女奴隷とか出てくるのは苦手だな。女性を虐待する描写が出てきたら、即、ブックマークを外す。後、さっきも言ったがハーレムものもあんまり好きじゃないんだな。女性とは相思相愛がいい。
けど、しょうがないか。作家さんも、「うーん、この後の展開が全然浮かばない。ああ、どうしよう。もうこうなったら新キャラを出してストーリーを引き延ばすしかない!」って感じで、次から次へと女性キャラが出現。なぜ、女性ばかりかと言うと、男が増えるとむさ苦しいからね。気が付けば主人公の周りは女性だらけのハーレム状態と現実にはありえない世界となってしまう。そして、最初に大活躍していたヒロインがモブキャラに降格していくんだよな。それはそれで悲しい。
俺としては一人の女性、しかも優しい女性と優しい世界で優しい生活がしたい。もちろん、今まで恋人なんていたことはない。自慢じゃないが、真性童貞である。二十六才童貞、どうだ、まいったか! 自分では神聖童貞と言っている。俺の脳内には神聖童貞帝国が存在するのであーる。俺は童貞が君臨する帝国の童貞剣士だ。いずれは神聖童貞帝国の皇帝を目指すつもりだ。後、十四年経てば魔法も使えるようになる。クラスチェンジだな。今の日本にはライバルが多そうだが、皇帝になる自信は充分にあるぞ。フォースと共にあらんことを! そして、このまま生涯を閉じれば、あの世で吉田松陰先生や同志ロベスピエールが褒めたたえてくれるだろう。
まあ、他人には隠しているけどね。聞かれたら、「いやあ、かなり前に先輩にソープに無理矢理連れてかれてさあ、けど、最近ご無沙汰だなあ。あはは」とか言って、ごまかしている。情けないですな。まあ、そういう事を聞いてくる友人もいなくなったんだけどね。
他の趣味はネトゲかな。
最近はカードバトルゲームにはまっている。
これは、まあ普通ですね。
基本無料コースで遊んでいる。
後、インドア派の俺にしては珍しくたまにバブル親父のバイクを借りてツーリング。子供の頃は恋人を後ろに乗せてバイクで疾走とか想像してたもんだ。もちろん、今までの人生でそんなこと一切無し。一人で走らせていても孤独なのでごくたまにやったりするだけだ。ガソリン代もかかるしね。
そして、それ以外に俺には特殊な趣味がある。
俺は女性が好きだ。
そんなの普通だろって言われそうだが、俺は特に女性の脚が好きだ。脚線美が大好きだあ! と世界の中心で叫びたいほどだ。パソコンにはそういう画像がいっぱい保存してある。まあ、他のエロ画像もたくさん保存してあるけどね。
十代の頃はネットで全裸女性のモロ出し画像を探しまくった。しかし、だんだんと趣味が変わっていった。ハイレグ競泳水着の女性とか好きになり、その次はSMの女王様みたいな黒い格好とかも好きになった。おっと、SMと言っても女性を虐待したいとかそんな願望は全然ありません。かわいそうじゃないですか。ムチで叩いたら痛いじゃないか。おっと、女性から虐待されたいとも思わないけどね。要するに黒い衣装って身体が引き締まって見えてカッコいいんだよな。俺はカッコいい女性の姿も好きなんだな。それだけですよ。
そして今は普通の服装を着ている女性の画像が好みに変わった。肌を見せている面積がどんどん少なくなっていく。男とは不思議ではある。どうやら俺の変態度もレベルアップしたようだ。オーイェー!
なお、先程、神聖童貞帝国の話をしたが、俺の脳内には神聖変態帝国ってのもあって、こっちではすでに皇帝として君臨している。神聖童貞帝国と神聖変態帝国が同時に存在しているわけだ。オーストリア・ハンガリー二重帝国みたいなもんか。なんか自分でもわけのわからないことを言ってるな。
そう、この話は変態の物語である。ジャーン! ガオー! 開幕!
最近の俺は美しい女性がカッコいい洋服を着ていて素敵な脚線美を見せている画像を積極的に漁って、パソコンに保存している。
くだらないことが頭に浮かんできた。
ハイレグ競泳水着を着た女性の画像「モロ出し画像がやられたようだな……」
SMの女王様着衣の女性の画像「ククク……奴はエロ画像四天王の中でも最弱……」
ダサイ赤ジャージ姿の女性の画像「脚線美ごときに負けるとはエロ画像四天王の面汚しよ……」
アホですね。さすがにジャージ姿の女性の画像はいらないな。
あ、けどそれでもかっこいいジャージ姿の女性の画像ならパソコンに保存。
それに、脚が一番好きだが、女性の胸や腰のくびれ、お尻も好きだな。色っぽい首筋好き。ハイヒールを履いた足も好きだなあ。この場合は脚じゃなくて足ね。そう、つま先も好きなんだな。ストッキング履いたつま先画像もたくさんあるぞ。二の腕も好き。脇の下も好き。流れるような肩の線も好き。背中も好き。まあ、はっきり言って全部好きだ。
健康な男性なら普通ですね。普通だよな。そう、普通と言ってくれ。
だいたい、女性の身体に興味を持たない方がおかしいよな。おかしいですよね。おかしいと言ってくれ。
みんな女性の身体が好きなんだ。本当の事を言わないから戦争が起きるんだ。プーチンよ、お前も御託を並べてウクライナに侵攻なんてしないで愛人と遊んでろって。
おっと、同性愛の方もいるか。まあ、それはそれとして。とにかく、女性の身体は全部好きではあるが、その中でも一番は脚! とにかく脚! 脚なのだ! 但し、もちろん綺麗な脚です。そうでない女性の方、すみません。
え? うわ! キモイ! ジロジロと女の身体を見るな、この変態! 気持ち悪い! 不愉快よ! 東京タワーから飛び降りて死ね! と言うのですか。
そうですか。
じゃあ、世の中の男性が一切女性への興味を失ったらどうなるんだ。例えば、全男性が全女性を全く無視して、その代わりに電柱をジロジロ見るようになったらどうすんだ。電柱を盗撮するとか、電柱を触るとか、全く女性に関心を抱かなくなったらどうすんだ。少子化どころか人類滅亡だぞ。いいのか、それで。
変な言い訳すんな、この変態! って声が聞こえてきた。申し訳ありません。
さて、今、俺は警備員。綺麗な脚の若い女性が歩いているとワクワクする。スマホで撮影したくなるが、さすがに我慢する。生足もいいが、黒いストッキングが最高ですね。後、網タイツとかもいいなあ。網タイツ履いている人はめったに見ないけどね。
まあ、あまりジロジロと見ると変に思われるので自重している。とは言え、ほんの数秒なら見続けても悪くはないだろう。なんせ、警備員なんだからね。仕事熱心と思われるだろう。ボケーっとしていたら、むしろさぼりになってしまう。
さて、今日は平日の午前中。まだ客は少ない。
今は冬なので厚着のロングコートを着ている人が多い。女性の脚線美が見れなくて残念だ。早く夏が来ないかなあ。まあ、コートの端からちらりと見える脚もなかなかいいけどね。
そんな事を思っていたら、グレーのチェック柄プリーツミニスカートで黒いタイツ、黒いハイヒールを履いた若い女性が入って来た。
入る寸前になにやらポシェットから小さい白い飴を口に入れた。フリスクかな。
俺としては、出来ればストッキングの方がいいが、冬なので黒いタイツでもミニスカートを履いているので、よし、合格だ! 今日はいい日だなあ。おまけに美人だ。顔が小さい。髪の毛は長くてちょっと野暮ったいなあ。ほぼすっぴんのようだ。かなりの美人さんだ。横顔が素敵。鼻筋通って、目が大きい。あどけない感じの顔。これでちゃんとメイクしたらかなりの美人さんになるんでないかい。十代後半か二十代前半くらいか。身長は百六十三センチ前後。上は黒っぽいセーターで胸もかなり大きいぞ。Dカップじゃないか。よく見るとカシミアのセーターを着てるなあ。ブランド品で三万円はするぞ。ファッションサイトの画像を漁っていたらいつの間にか少しファッションにも詳しくなってしまった。自分は全く買いませんけどね、ブランド品なんて。このモブキャラ男がそんなもの買って一体全体何をすりゃいいのかって。
さて、この女性、どこぞのお嬢様かな。セーター着ているのに腰のくびれが目立つ。スタイルいい女性だなあ。もうちょっと背が高ければモデルさんとかやれそうだ。実際、モデルさんかもしれない。人生勝組ですな。顔の表情を見るとなんとなく性格も優し気な感じがする。子供の頃、俺の事をものすごく可愛がってくれた従妹のお姉さんを思い出した。面影が似ている。清楚系美人だ。
その女性が化粧品のコーナーへ行く。思わず、巡回の振りをしてついていった。で、肝心の脚だが太くもなく細くもなく、太股から流れるような曲線で足首まで続く脚線美。脚長いっすね。小顔で手足の長さのバランスが良い。素晴らしいの一言に尽きる。イッツ・ア・ビューティフル・デイ! いやあ、マジ綺麗。めったにいないんじゃないか、こんな綺麗な脚の女性は。本当に全くもって綺麗だなあ。目の保養だ。ちょっとでもいいからお話したいなあ。おっと、違うぞ、これは芸術活動です。美術館で素敵な美術作品を鑑賞しているのですよ。人類の宝を鑑賞しているのです。いやあ、本当に素晴らしい。今日は最高の日だ。天赦日だ。思わず、スキップしたくなるね。ダンス、ダンス、ダンス!
うわ、とにかくキモイ、気持ち悪い、お前は変態か! 自らボールペンで目を突き刺して失明しろ! ついでに華厳の滝から飛び降りろ! って罵声がまた飛んできた。
いや、変態ですが、何か?
とにかく綺麗なものを綺麗って言って何が悪いんだ!
素晴らしいものは素晴らしいんだ!
なんて、綺麗だ、綺麗だ、素晴らしい、素晴らしいと俺が勝手に盛り上がっていたら、その女が一瞬の速さで口紅をスカートのポケットに入れた。
なんと、この女、万引きしやがった。