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鈴木君の借り物競争  作者: こま々
第二章
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第二章1

 やっと一人になれた。

 僕は保健師の先生に挨拶するから残ると言って、弟の拓人と佐藤君を保健室から追い出した。

 僕は内心動揺してしばらくベッドに腰を下ろしたまま固まっていた。平常心を取り戻そうと、保健室に誰もいないことをいいことに、声に出して文句を言った。


「佐藤君のお側付きは僕だっつうの!拓人はヘタレの生徒会長だっただろ!?やっぱりムカつくやつだな!」


 拓人は寝不足がたたって、前世のことを夢に見て、思い出したようだ。

 ただ拓人の夢は根本的なところで間違っている。拓人は前世の自分のことを、佐藤君のお側付きだと思っているが、佐藤君のお側付きだったのはこの僕だ。


 僕の弟、鈴木拓人は、前世で生徒会長の中村拓人だった。拓人の友達……ついさっき友達以上の存在になったようだが……佐藤祐里(ゆうり)君は、前世では佐藤(ゆい)、中村会長の許婚だった。


 その認識の間違いを除けば、拓人が話した夢の内容は、僕の記憶とだいたい合っている。前世、僕達が通っていた学園の体育祭が競技場で開催された。僕は佐藤君のお側付きだから、その日も佐藤君と行動を共にしていた。借り物競走で、中村会長と僕は同じ出場組だった。「大切な人」というカードを握って立ちすくむ中村会長を、僕は隣で見ていた。僕は「できない」と言う会長に腹が立ち、会長のカードを奪って、北ゲートへと走り出した。


 しかし拓人が自分のことを僕だと思っているなら、つじつまが合わない点がある。

 夢から覚めた拓人は、今度()()佐藤君を選ぶと言っていた。つまり、夢の中では佐藤君を選ばなかった、選べなかったと認識している。夢の内容を話すときも、カードを巡る僕と会長との一悶着についてはひどくあやふやだった。しかも拓人は佐藤君に自分の思いを伝えられなかったと言っていた。まあ僕も好きな人に告白なんてできなかったけど。

 夢の中で僕になったものの、完全にはなりきれず、中村会長としての意識もあったということだろうか。それに……


「僕に告白を聞かせたのは、牽制のつもりか?無意識に僕のことに気付いているのか?」


 中村会長はイケメンのくせにヘタレで余裕がなかった。

 僕に佐藤君の様子を聞いては、それに答える僕を睨んだ。イライラしていた。お側付きとはいえ佐藤君の近くにいる僕を妬み、警戒していたんだろう。


 拓人が夢の中で僕になっていたのは、佐藤君と一緒にいたかったという願望の表れに違いない。中村会長は僕になりたかったのだと思うと気味が悪いが、弟の拓人の願望だと思うといじましく感じる。年の離れた弟はなんだかんだ言ってかわいい。


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