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鈴木君の借り物競争  作者: こま々
第一章
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第一章2-3

「ユイ……ユウリ……」

「おい、拓人、いつまで寝てんだ」

「……」

「拓人……タクト!さっさと起きろっ」

「うっせーな」

「お前、貴重な休日を潰して見に来てやった兄ちゃんに向かって言うことか?」


 俺はベッドに寝ていた。乱暴に 俺の肩を揺さぶっているのは兄の継人(けいと)だ。継人の隣には佐藤が座っている。

 今日は、体育祭だ。俺は借り物競走に出てたんだよな。


「俺、また寝てたのか?借り物競走は……」

「終わった。鈴木はゴールした後顔が真っ白で……保健室に入ったら、寝るってだけ言って、ベッドに倒れ込んだんだよ。保健の先生は熱中症じゃなさそうだからこのまま寝かせておけばいいって」

「まったく。心配して見に来たら熟睡してるんだからな。どうせ昨日もゲームして寝てないんだろ」


 佐藤が状況を説明して、継人が小言を言いデコピンをかましてくる。俺はまだ佐藤に聞かなければならないことがあった。


「借り物競走で、俺は佐藤を選んだんだよな」

「う、うん」

「そうか。よかった」


 俺は起き上がり、佐藤の手を取った。


「佐藤、俺は佐藤が好きだ」

「うん……えええぇ!?いきなり!?お兄さんの前で!?」

「継人にも聞いてほしい」

「拓人、呼び捨てはやめろって何回も……」

「借り物競走が始まる前、変な夢を見た。競技場で体育祭をしていた。俺達は高校の同級生だったけど、妙な関係だった。佐藤は金持ちの家のぼっちゃんで、俺は佐藤の取り巻きだった。佐藤の護衛係みたいなもんだった」

「はあ!?お前にお側仕えができるわけないだろ!」


 継人が妙なところで話を遮るが、無視して話を続ける。


「夢の中でも俺は借り物競走に出ていた。佐藤の許婚ってやつと同じ出番で……」

「僕に許婚!?」

「ああ、男だけどな。むかつくやつだった。佐藤を誰にも取られたくないくせに、他の女と噂になっても否定もしないで、佐藤を邪険にしていた」

「ムカつく ってのには賛成だな」


 また妙なところで継人が話の腰を折る。


「そいつは『大切な人』ってカードを引いて、選べない、できないって言ってた。俺は腹が立って……たしかカードを……奪って……走って……佐藤がいる北ゲートに……」


 夢の内容はもうぼんやりとしていた。思い出そうとすればするほど、カラーだった光景は白くなって消えていく。

 継人が神妙な顔つきで、聞いてきた。


「それで?どうなった?……()()()? 佐藤君は?」

「分からない。そこで目が覚めたんだ」

「そうか……」


 佐藤が夢の話を現実に引き寄せた。


「じゃあさっきの借り物競走で引いたカードは夢と同じだったってこと?予知夢だったのかな」

「ああ……だから今度ははっきりさせる、今度こそ佐藤を選ぶんだって……」


「今度()()?今度()じゃないの?」


 佐藤が首を傾げた。


「夢でも僕を連れて来ようとしたんでしょ?僕を選んだんじゃないの?」

「あ……?いや……あれ?どうなって……」


 そう言われると、おかしい。

 夢の中で俺は北ゲートに走ったはずだ。佐藤がいる北ゲートに。

 なのになんで北ゲートに走っていく黒のTシャツを見ていたんだろう?

 俺はカードを奪って……奪った?……いや、奪われた?


 俺は自分の手を見た。今は佐藤の手を握っている。

 あのとき俺の手首には、たしか青の……リストバンドはクラスじゃなくて生徒会で作った……。


 継人は眉間に皺を寄せて両手を組んでいたが、俺の思考を断ち切るように、強い口調で言った。


「まあどっちでもいい。単なる夢だろ。とにかくさっきの借り物競走で拓人は佐藤君を選んだ。それは拓人の本心ってことでいいんだよな?」

「うん。だからさっきも佐藤に告白した」

「しつこいようだが、拓人は本気なんだな?周りはそうは受け取らなかったが」

「ああ。本気だ。周りは関係ない。……夢の中で俺ははっきり自分の思いが伝えられなかった。なにかに阻まれて……。でも現実は違う。俺は言えるんだ。何度でも言える。佐藤が大切だって。大好きだって。佐藤……祐里、これからも俺の隣にいてほしい」

「僕も!……タタタ、タク……タク、ト……が……」


 拓人が好き、と佐藤が囁くように言った。顔を真っ赤にしていてるが、真っすぐに俺を見つめている。

 俺の祐里。俺だけの……。


 せっかくの雰囲気をぶち壊したのは兄の継人だ。


「あ~もういいよな。続きは二人だけでやってくれるか」

「うん、継人はもういいから帰ってくれ」

「お前こそさっさとグラウンドに戻るんだ!体育祭はまだ終わってない。佐藤君もクラブ紹介とクラブ対抗リレーに出るんだよな?」

「はい。そろそろ着替えに戻らないと」


 は?そんな話聞いてないけど。


「着替えってユニフォームだよな?」

「うん、上はね。一年生はスコート履くんだ」

「は!?そんなリレー出んなよ!」

「え~せっかく買ったのに。僕のスコート姿、見たくないの?」

「そうじゃなくて……俺は別に……見たくないわけじゃ……どっちかっていうと、その……」

「なに?はっきりするんじゃなかった?」

「そ、そうだな……俺は見たい。でも他のやつに見せたくない。俺だけが見たい」

「へへへ。大丈夫。リレーで履くスコートはスパッツ付きなんだ。今度プリーツのスコート見せてあげるね。拓人だけだよ」

「うん。楽しみにしてる」


 なんだか思っていた「はっきり」と違うが、祐里が喜んでいるからいいだろう。

 プリーツか……。


「拓人……お兄ちゃんそういう告白は聞きたくないんだが……佐藤君も……」

「お兄さん、ごめんなさい。でもあと一つだけ。拓人、素足がいい?靴下履く?」

「あ~!二人ともさっさとグラウンドに戻りなさい!」


第一章拓人の話が終わり、物語も折り返し地点です。次話から第二章です。1-1と1-2が短いので二話分投稿します。ひき続き読んで頂ければ幸いです。

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