第一章2-2
借り物競走は学年混合の対抗レースの借り人競走だ。出場選手は箱からカードを選び、そこに書かれた人物を連れて来て、審判員が認めれば、ゴールだ。「校長先生」「来賓者」のカードなら楽だ。グラウンドの正面奥にあるテントから連れ出してくればいい。「イケメン」「推しの人」なんかは厄介だ。以下略。ただしここは観客席にも近いから、目当ての人物は連れて来やすい……。
って俺はなにと比べているんだ。競技場でやった体育祭だ。観客席が1,2階席にあって、遠くて……いや、あれは夢で……。
校舎裏で佐藤が話しかけた、中村部長が俺の隣に並んでいる。どうやら中村部長もじゃんけんに弱いらしい。いや、こいつは目立ちたいだけかも。
中村部長は俺のゼッケンに目をやってから、話しかけてきた。
「鈴木君?さっき会ったよねー?佐藤君の友達だっけ?」
「はい」
「そんな睨まないでよー。君もテニス部に入らない?って話なんだけど……」
頭がぼ~っとする。まだ目が覚めないみたいだ。はっきりしない。
はっきり?なんだ?はっきりって……。
__そうだ、はっきりするんだ。もうお前は前の俺じゃない。
「おい、大丈夫か?」
「え?……はい」
声を掛けられはっと我に返った。俺はスタートラインに立っていた。
パンとスタートの音が鳴る。赤、青、黄、緑、紫のタスキをした5人がスタートラインから走り出し、わらわらとカードの入った箱に群がる。お互いのカードを見比べながら、「え~!優しいイケメン教師!?きっつ!」「地学の先生って誰だか分かんないんだけど!」なんて声が上がる。
「んー、『校長先生』……普通?ま、他のせんせーより目立てるよね」
『選手が走り出しました。あーっと、一番早く観客席に着いた緑の伊藤選手、意中の女性に断られています!これはイタイ!』
選手が動き出すと、放送部の実況に熱が入り、観客席がざわついた。
「なんだったー?へ~良いカードじゃん」
中村部長はにやにやと俺のカードを見る。
『赤の一年生鈴木君と、青の三年生中村君がまだ動きませんが……ここで実行委員からの情報です。鈴木君のカードは、『大切な人』ということです。さあ、だれを選ぶのか……ここは空気を読んでほしい!』
実況はいじり倒せるようなことをしてほしいという期待を隠さない。観客席に苦笑が広がった。歓声も大きくなったが、心臓の音の方が早く聞こえる。
「俺のカードです。交換は断ります」
「するわけないっしょー。俺って博愛主義者だからさ、一人だけ選ぶって難しいっていうかー」
こいつ、彼女が来てるんじゃなかったのかよ。
「俺はできる。先輩と違って一人だけしかいませんから」
「えー?それすごくない?ガチでやるってことだよね?」
ああ、今度こそはっきりさせる。
俺はカードを握りしめて走った。
俺に声援を送っている佐藤の元に。
読んで頂きありがとうございます。自話で一章が終わります。