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鈴木君の借り物競争  作者: こま々
第一章
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第一章2-1

 6月×日、晴天。おなじみの音楽と、笑い声が少し遠くで聞こえる。

 本日ここ櫻朋高校では体育祭が開催されている。

 櫻朋高校は公立の男子高校だ。創立……何年か忘れた。とにかく長い。県でも有数の進学校だ。最近は時代に合わせて共学校にしようという動きが加速しているが、伝統ある「男子校」を守ろうとする卒業生や保護者からの反対の声も大きい。

 在校生は当事者のはずだが蚊帳の外だ。多くの生徒の本音は、共学校が羨ましい、彼女がほしい、女子と喋るだけでもいい、いやいるだけでいい……そんなところだ。在校生の声が参考にされないのも致し方ないだろう。

 今日も観客席に女の子がいるというだけで、無駄にテンションが高く、バカ笑いしている生徒もいる。


 俺は校舎裏で、佐藤と一緒にさぼっていた。うとうと居眠りをしていたが、そんな笑い声に起こされたようだ。

 佐藤が心配そうに俺の顔を覗いた。


「鈴木、大丈夫?うなされてたけど」

「うん……変な夢だった……」


 校舎から笑い声と共に人が出て来た。佐藤がその人物に声をかける。俺はその名前に驚いて、思わず上半身を起こした。


「中村先輩!お疲れ様です」

「佐藤君、お疲れ~じゃなさげ?」

「へへ、さぼりです」

「クラブ対抗リレーはさぼらないでねー」

「はい!」


 佐藤に歯を見せて笑い、中村先輩は後から出て来た生徒と一緒にグラウンドへと去って行った。先輩を見送る佐藤に、俺は声をかけた。


「中村先輩って、佐藤と仲良いの?」

「他の先輩よりは良いけど。でも部長だから1年にもよく話しかけてくれるってだけ」

「ふ~ん……」

「……他校に彼女がいるんだって。今日も見に来るって聞いた」

「ならいい 」

「ならいいって……それってさ……どう……」


 尻すぼみに小さくなっていく佐藤の声を聞きながら、俺はクラスで回されている漫画雑誌を枕にして、また寝転がった。

 雲一つない青空だ。時折心地良い風が吹く。


__あのときはこんな余裕もなかった。忙しいし、うろうろしている佐藤が腹黒い理事長や誰にでも口説く会計の気を引かないか心配で……差し入れなんかしなくていいから席でじっとしてほしかった……。


 ってなに考えてんだ、俺は。あれは単なる夢じゃないか。


 視界が人の顔で遮られる。副担任だ。仕方なくまた起き上がった。


「鈴木はこんな所でさぼっているのか」

「さぼりじゃなくて休憩です」

「下手な屁理屈を言うんじゃない。佐藤も一緒か?」

「へへ、すみません」

「二人とも午後の種目には出ないのか?借り物競走に出る生徒は入場門に集まってるぞ」

「あ、俺行かないと」

「待って、僕も」


 俺に続いて、佐藤は慌てて立ち上がった。

 副担任は佐藤の頭をぽんぽんと撫で、笑いかけた。


「佐藤はいつでも一生懸命だな。頑張れよ」

「はい」


 雑誌は副担任に没収され、俺達はグラウンドに向かった。俺はいらいら してつい口走った。


「うさんくさいやつ。あいつ佐藤にかまい過ぎだろ」

「別に普通でしょ。ってか鈴木の方こそかまわれてんじゃん」

「佐藤にへらへら笑って頭撫でてきもちわりぃ」

「なにそれ。怒ってくれてんの」

「そうだよ。俺以外の人間が気安く触るなっつーの」

「え……」


 佐藤は顔を赤くして俯いたが、ちろちろと上目を使う。


__こういうところは変わらないな。



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