第二章4
「拓人君と仲が良いんですね。……鈴木君も前世とずい分感じが違う」
小林先生は僕の話を黙って聞いた後、ぽつりと感想を述べた。
僕は少し拍子抜けしたが、すぐ気恥ずかしくなってしまった。
小林先生は、というか高橋副会長は、僕のことをどう思っていたんだろう。
「そうですか?僕はあまり変わったつもりはないんですが」
「鈴木君はあまり喋らないし笑わない、まるで武士とかお坊さんみたいってみんな……」
なんだ。みんなが言っていた、か。調子に乗って喋り過ぎたな。
にしてもそんなこと言われてたっけ?お坊さんって髪はあっただろ?あれ?どうだった……?
小林先生は拓人のことに話題をかえた。
「今の拓人君も会長に似ている、というか会長そのままなところもありますが、素直で屈託のないところは、前世と違うと思うんです。ご家族や友達に恵まれているからでしょうね」
「いや、僕は兄として力不足でした」
「そんなことは……」
そんなことはあると、拓人の夢の話で思い知らされた。
「拓人は前世で自分が誰だったかもはっきり思い出せていません。自分のことを僕……佐藤君のお側付きだったと勘違いしているくらいなんです。それなのに借り物競走で佐藤君を『大切な人』に選べなかった後悔だけははっきり思い出したんですよ。佐藤君に対する執着心が異次元です。育て方を間違えました」
「ハハハ。それは私にはなんとも。その執着心のおかげで彼は私が副会長になっても変わらなかったんですから」
「ああ、なるほど。それでも強制力が作用して、会長はあんな態度だったわけか」
「それも私が副会長になっていなければ……」
「あの世界がおかしかったのは副会長の責任じゃありません。会長も元々ヘタレですし 」
「フフ、今の会長……拓人君にはよく睨まれますよ。佐藤君に近付くなって無言で言われています」
「あいつ、先生になんて態度を……。申し訳ありません」
「いえ、僕も悪いんです。二人を見ると構いたくなるんですよね。今日も一緒に仲良くさぼっていて……」
拓人のやつ。前世では佐藤君にも厳しすぎるくらい真面目だったのに、反動か?
小林先生は柔らかく笑って、拓人と佐藤君のことを話した。小林先生は緊張が解れると、私、僕と一人称を変えながら話した。
「僕は教師ですから見逃すわけにはいかないんですけど、放っておいてあげたいって気持ちもあるんです。会長も本当はこうやって一緒にいたかったんだろうと思うと、私が言っていいものかと」
「一緒にいたかったって、会長はなにか言ってたんですか?」
「佐藤君は生徒会室にも来て差し入れをしてくれたじゃないですか。会長は佐藤君が来た後、必ず機嫌が悪くなったんですよ。庶務の田中君達が嫌なら来ないように言えばいいのにって言ったら、会長はそうじゃない、できないんだって」
「できない……」
「みんな佐藤君の家が特別だから言えないのか、会長は立場の弱い許婚なんだなって、からかったり同情したりしていました。でも会長の言ってることはそういう意味じゃなくて……」
「……自己嫌悪か。ヘタレの自覚はあったんだ」
「そう。本当は佐藤君に優しくしたいのに、できない自分に怒っていた」
できない、言えない、選べない……。
拓人は「なにかに阻まれていた」って言っていたな。
攻略対象の中村会長には強い強制力がかかっていたということだろう。
中村会長が借り物競走に出たのも、「大切な人」というカードを引いてしまったのも、そんな強制力が原因だったのかもしれない。小林先生の言う通り、副会長か佐藤君か、どちらが「大切な人」なのかを中村会長に選ばせるために。
あのとき僕がカードを奪わず、拓人が……中村会長が副会長を『大切な人』に選んでいたら、佐藤君はどうなっていただろう?反対に、佐藤君を選んでいたら、副会長はどうなっていただろう?どんな強制力が働いたんだろう?
中村会長は、なにが起こるかを感じ取って、選べなかったんだろうか。
そうだとしたら、僕は中村会長の悩みに気付かず、ひどいことを言ってしまった。本人……拓人は自分がなにを悩んでいたのか覚えていないようだけど。