表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/48

それぞれの対策

成都の王宮会議室では、重臣達が集合して緊急(きんきゅう)評議(ひょうぎ)招集(しょうしゅう)されていた。

「本当ですか? 魏が市場街に軍を向けていると言うのは...?」

夏侯覇(かこうは)の問いに、苦虫(にがむし)()むような顔で姜維(きょうい)(うなづ)いた。

それを見た夏侯覇が、地団駄(じだんだ)()んだ。

「馬鹿げた事を。正々堂々と(いくさ)(いど)むならまだしも、多くの商人が集まる市場街を(ねら)うなどとは。これでは野盗(やとう)と同じではないか...。いつから魏軍は、このような愚劣(ぐれつ)な集団に()()がったのだ。」


そんな夏侯覇を見て、華真(かしん)(うつむ)いた。

迂闊(うかつ)でした...。魏が今夏(こんか)干魃(かんばつ)飢饉(ききん)が避けられない事には気が付いておりました。危険な事は察知(さっち)していましたが、まさかこのような行動に出るとは...」

その横で、王平(おうへい)が報告の声を挙げた。

「長安の司馬炎(しばえん)殿から急使(きゅうし)が来た時は、何かの間違(まちが)いではないかと思い、直ぐに確認しました。確かに長安より軍勢が(すで)出立(しゅったつ)して荊州(けいしゅう)に向かっているようです。その数約三千。兵数から見て、全軍が動いている様子ではありません。」


王平の報告に、華真が顔を上げた。

「恐らく、賈充(かじゅう)王沈(おうちん)麾下(きか)ですな。飢饉(ききん)によって一揆(いっき)頻発(ひんぱつ)すれば、国は一気に(かたむ)く。しかも冬の間に食料庫が(から)となれば、兵達の不満も増大する。王沈と賈充は、それを(おさ)えきれないと見たのでしょう。」

それを聞いた一同の皆から嘆息(たんそく)()れた。


「それにしても愚挙(ぐきょ)ですな。(ひん)すれば(どん)すると言いますが。これでは、もはや国とは言えない...」

「しかし、どうします。市場街の守兵(しゅへい)は、百名足(ひゃくめいた)らずに過ぎません。」

姜維が、眉間(みけん)(しわ)を寄せて腕組みをした。

「司馬炎殿は、(あら)ゆる手段で行軍を遅らせると言って来てはいますが、今から成都から援軍(えんぐん)を仕立てても間に合うかどうか...」


その時、華真が立ち上がると、周囲の皆を見渡(みわた)した。

勿論(もちろん)救援(きゅうえん)は直ぐに手配せねばなりません。呉の志耀(しよう)様も、(すで)にこの事は知っておられましょう。彼方(あちら)でも何らかの手を打つ(はず)です。呉蜀の救援が駆けつける迄は、市場街は(みずか)防衛策(ぼうえいさく)(こう)じるしかありませんね。司馬炎殿が時間を(かせ)いでくれてる間に準備をするのです。」

華真がそう言う横で、夏侯覇が首を(かし)げた。


「しかし、自衛(じえい)と言っても、何か特別な手段(しゅだん)があるのですか?】

【今月の市場街の守備指揮官として、潘誕(はんたん)殿が出立(しゅったつ)していますね。至急(しきゅう)に連絡の早足(はやあし)を手配して下さい。私に考えがあります。非常(ひじょう)の際を考えて、準備した策が...」

華真の声に、夏侯覇が直様(すぐさま)立ち上がった。

「それならば、救援隊(きゅうえんたい)の指揮は俺に任せて欲しい。まずは騎馬隊だけを先行させる。魏の愚行(ぐこう)、何としてでも止めてみせる。()れは俺の責任でもあるのだ。」


呉の建業にいる志耀の元にも、司馬炎からの急使(きゅうし)到着(とうちゃく)していた。

「うむ....。()れは(まず)いですな。蜀が始めた市場街というのは、物産(ぶっさん)の流通を促進(そくしん)し、各地に良品(りょうひん)普及(ふきゅう)させる為には欠かせぬもの。それが(ようや)軌道(きどう)に乗って来たと言うのに…。今こうした事態(じたい)(さら)されれば、商人達の足も(にぶ)ってしまいましょう。国の(さか)えを(さまた)げる事となります。早急(そうきゅう)に手を打たねばなりませんな。」


陸遜(りくそん)の言葉に、張休(ちょうきゅう)途方(とほう)()れた声を挙げた。

「しかし、どうしたら(よろ)しいでしょう? (すで)に魏軍は、長安を出発しております。今から荊州(けいしゅう)援軍(えんぐん)を差し向けても、追いつく事は出来ませんぞ。」

その時志耀が顔を上げて、陸遜に(たず)ねた。

陸路(りくろ)ならば、追い付く事は出来ぬ。しかし水路(すいろ)を使えば話は別だ。例の鉄甲船(てっこうせん)だが、今の建造状況(けんぞうじょうきょう)はどのようになっている?」

「千名の兵を運べる船が一艘(いっそう)完成し、(すで)山賊退治(さんぞくたいじ)の為の兵を()せて出軍(しゅつぐん)途上(とじょう)にあります。」


一艘(いっそう)だけか?」

「残り四艘(よんそう)は、建業にて完成手前まで()ぎ着けてはいますが、その完成(かんせい)を待つ時間は有りますまいな。」

すると、志耀は即座(そくざ)決断(けつだん)(くだ)した。

(すで)に出軍させている一艘(いっそう)だけで良い。千名の兵が乗っているのであろう? その船の進路(しんろ)を、急遽(きゅうきょ)荊州(けいしゅう)に向けさせるのだ。船の指揮(しき)は誰が()っている?」

志耀の問いに、張休が答えた。

水軍大提督(すいぐんだいていとく)大史享(だいしきょう)(みずか)ら乗っております。しかし魏軍の数は三千ですぞ。三倍の数を相手に....。」


躊躇(ちゅうちょ)する張休に対して、陸遜が毅然(きぜん)とした声を挙げた。

「それは(わか)っている。しかし、蜀には姜維殿と華真殿が居る。あの二人が、むざむざと市場街を蹂躙(じゅうりん)させる(はず)はない。必ず何か手を打つ(はず)だ。更には司馬炎殿自身も動くと言って来ているのだ。稀代(きだい)智慧者(ちえしゃ)が、これだけ(そろ)っているのだ。簡単(かんたん)に市場街は()ちぬ(はず)だ。(みかど)(おっしゃ)る通り、此処(ここ)で呉だけが何もせず静観(せいかん)を決め込むなど有り得ぬ。早急(そうきゅう)に大史享に指示を出します。」


荊州(けいしゅう)の市場街では、先行した鐘風(しょうふう)達が、守備隊(しゅびたい)指揮(しき)する潘誕と顔を合わせていた。

「鐘風殿。またお会いしましたね。霊鳥山(れいちょうざん)(ふもと)で別れた時には、このように早く再会(さいかい)出来るとは思っておりませんでした。」

「貴方の予想(よそう)が当たりましたね。若殿は言われました。志耀様の世を(つく)る為に全てを(ささげ)げると...。その為には、夏侯舜殿に、魏を(まと)めて(もら)わねばならぬ...そう(おっしゃ)いました。俺は、司馬の若殿の命を受けて此処(ここ)に来たのです。」


潘誕は、鐘風を見詰(みつ)めると、やや声を(ひそ)めた。

「昨日、華真様からの使者(ししゃ)が来ました。この市場街を防衛(ぼうえい)する策を送って来て頂いたのです。そんな中で貴方達(あなたたち)に来て頂けたのは。まことにに心強い。是非(ぜひ)協力(きょうりょく)をお願いします。」

潘誕に頭を()げられた鐘風は手を振った。

「当然の事をする迄です。そう言えば、霊鳥山(れいちょうざん)でご一緒(いっしょ)した美しくも凛凛(りり)しい女子(おなご)。今では貴方の女房殿(にょうぼうどの)だとか...。(うらや)ましい限りですな。貴方もこんな(ところ)で死ぬ(わけ)には行きませぬな。それで...その策とは、如何(いか)なるものなのです?」

潘誕から、華真が(さず)けたという防衛策(ぼうえいさく)を聞かされた鐘風は思わず(うな)った。

「そこまで考えて、この場所に市場街を建設(けんせつ)したのですな。司馬の若殿は、華真殿を諸葛亮孔明(しょかつりょうこうめい)殿そのものと言われていた。その意味が良く(わか)りました。」


「華真殿が伝えて下さった防衛策(ぼうえいさく)には、大量の木材(もくざい)が必要となりますね?」

鐘風に問われた潘誕は、身体を(ほぐ)すように両腕(りょううで)を回した。

木材(もくざい)調達(ちょうたつ)の為に、俺は明日から、兵達を(ひき)いて山に(こも)ります。(しばら)くは剣を(おの)に持ち替えての木こり仕事です。それでも必要な量の木材(もくざい)()り出すには、かなりの日数が必要になると思います。司馬炎殿にその時間を(かせ)いで頂ける事が頼りです。」

祈るような表情の潘誕に向かって、鐘風が力強く(うなづ)いた。

「若殿を信頼して下さい。あの方も華真殿に決して負けることの無い智慧者(ちえしゃ)ですぞ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ