第六章 マンション住民から相談される
警察官との会話を聞いていた住民たちは、「えっ!?詩穂さんがレッドデビルだったの?」と驚いていた。
「ええ、そうよ。狂暴な女で悪かったわね。主人は私を応援しているだけよ。結婚前から私を応援していたわ。高校時代の同級生でもあるファンの一人と結婚したと理解して下さい。」と説明していると春樹が帰って来た。
話を聞いた春樹は、「レッドデビルが狂暴なのはリングの上だけです。普段は見た通りお淑やかな女性で、高校時代は男子生徒の憧れのマドンナでした。マドンナの正体が狂暴な女性だと知った私がマドンナを射止めました。これに懲りずに詩穂の事をよろしくお願いします。」とあいさつした。
「そうね。この近くにレベルの低い高校があり、不良少年も多いのよ。今のように不良に絡まれた時など頼りになりそうね。」
「私の娘が女だてらに女子プロレスラーになりたいと言っているのよ。相談に乗って頂けませんか?」
「一度娘さんに会わせて頂けませんか?レッドデビルが話を聞いてくれるので、赤黒レスリングジムを訪ねるように伝えて下さい。」と助言した。
「わかりました。伝えます。娘は私には、「私の勝手でしょう!」となぜ女子プロレスラーになりたいのか理由を話してくれないのよ。レッドデビルには話をすると思いますのでよろしくお願いします。」
雑談も終わり住民たちと別れて春樹と帰った。
マンションの住民とうまくいきそうだと安心した。
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翌日住民の娘がレスリングジムに私を訪ねてきた。
千代子が、「詩穂さん、星野裕子と名乗る女性が訪ねてきたわよ。母からレッドデビルが相談に乗ってくれると聞いたらしいのよ。」と私に伝えた。
応接室で話を聞くと、マンション住人の娘さんだった。
いつもはチンチクリンな恰好をしているのに、今日は正装であることからして、女子プロレスラーになりたくて面接のつもりで来たようだ。
女子プロレスラーになりたい理由を聞いた。
「私は見た通り太っていて、皆から百貫デブとからかわれています。社会人になっても同僚とうまくやっていく自信がないのよ。」と悩みを打ち明けた。
「以前私が倒した女子プロレス世界チャンピオンのマリを知っていますか?」と同じ体系だったので同じ悩みを持っていたのか相談に乗ってもらおうとした。
「ええ、知っています。同じ体系だったので応援していました。でもあれ以来プロレスは引退したのか全然見ないわ。」
「いいえ、今も最前線で戦っているわよ。マリはダイエットして現在はブラックデビルと名乗っているわ。以前は裕子さんと同じ体系だったので、裕子さんの悩みは理解できると思います。私と同じこのジムに所属していて今日も来ているので紹介しましょうか?ここで待っていてね。」とブラックデビルの元に向かった。
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理由を説明して協力依頼した。
「わかったわ。詩穂には恩があるのでマンションの住民とうまくいくように協力するわ。」と応接室に向かった。
応接室でお互いに自己紹介した。
「昔は私も同じだったので、あなたの悩みは理解できるわ。私もあなたと同じようにからかわれて、プッツンと切れてケンカばかりしていて警察沙汰になった事があるのよ。親が大金を出して示談にしたから私には前科がつかなかったわ。その後親から、弱い者いじめをするのは最低だ!体系など関係ない!そんなに暴れたかったらプロレスラーにでもなれ!と怒られたわ。売り言葉に買い言葉で、ええ、プロレスラーになってやる!と親と喧嘩別れしてプロレスラーになって世界チャンピオンにまで上り詰めたけれどもレッドデビルに倒されたのよ。やはり動機が不純だとダメでした。快復してからしばらくプロレスから離れていたけれども、ある事が切掛けになり真剣に修行して復帰したのよ。」と説明した。
同席していた私は、「裕子さん、今の話を聞いてどうですか?今日のところは一旦帰って考えてみて。それで不純な動機ではなく真剣に女子プロレスラーになりたいのだったら再度私を訪ねてきて下さい。その時は喜んで裕子さんを受け入れるわ。何か質問はありませんか?」と話を終わらせた。
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裕子は帰ってから母に、「お母さん、良い人を紹介してくれてありがとう。レッドデビルの話は大変役に立ちました。女子プロレスラーになるかどうか再度考えてみるわ。」とお礼した。
母は喜んで翌日マンションで、「詩穂さん、裕子の事ありがとうございました。いままで口もきいてくれなかった裕子が私に話しかけてくれたのよ。」と喜んでいた。
「お役に立ててよかったです。」と安心した。
その会話を近くで聞いていた裕子が帰宅後母に、「何私の事を他の住民に言いふらしているのよ。」と不機嫌そうでした。
母は、「裕子の事をお礼するのは当然でしょう?彼女がレッドデビルよ。」と私の正体を教えた。
裕子は、「えっ?嘘。このマンションの住民だったの?だから母ちゃんはレッドデビルの事を知っていたの?」と確認した。
母は、「最初から知っていたわけではないわ。先日私が不良に絡まれた時に助けて頂いて、その時、偶然にレッドデビルの正体を知り、裕子の事をお願いしたのよ。しかし、レッドデビルって、あんなに強かったのね。体のがっしりした男子不良高校生数人をあっという間に倒したのよ。将来進路が決まれば、裕子もお礼したら。」と説明した。
その後、裕子はプロレスラーにはならずに一般企業に就職して、レッドデビルにお礼と報告をした。
いままでは百貫デブとからかわれて自分に自信がもてなかったが、レッドデビルと直接話をした事が自分の自信につながり同僚ともうまくいっているようだ。
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ある日、貞一から着信があった。
「詩穂さん、高校時代、お淑やかな詩穂さんと張り合って、私がこの高校のマドンナだとPRしていた女性がいた事を覚えていますか?」と確認した。
「ええ、覚えているわ。確か坂之下由美さんだったかしら。それがどうかしたのですか?」と何かあったのかと心配していた。
「実は刑事になった私の教え子から、その坂之下由美さんが詩穂さんに復讐しようとしているらしいと聞きました。充分注意して下さい。」と私に伝えた。
「由美さんが勝手に張り合っていただけで、私は何とも思ってなかったわよ。私はマドンナになんかなりたくなかったわ。狂暴な女がマドンナだなんて笑っちゃうわね。貞一さんたちが勝手に騒いでいただけじゃないですか。」と面倒だなと思った。
「詩穂さんは何もわかってないようですね。詩穂さんがなんとも思ってなかったことは由美さんもわかっていると思うよ。だから詩穂さんの腰巾着だった、私たち不良グループと晴美さんたちスケバングループが、詩穂さんをマドンナに祭り上げたとして狙われる可能性がある。不良グループには私が伝えるから、スケバングループの事はお願いします。」と説明した。
「貞一さん、晴美はあんたの女房でしょう。自分で伝えなさいよ。」
「いや、男は男同士、女は女同士というでしょう。」と消極的でした。
「なんか消極的ね。噂で聞いたけれども、貞一さん晴美の尻にひかれているらしいわね。言いづらいの?仕方ないわね。晴美には私から伝えるわ。」と諦めた。
私は晴美に事情を説明してスケバングループの事は任せた。
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数日後、ゴミ出しにいった時にマンションの住民と井戸端会議をしていると晴美が来た。
「詩穂、先日の件、弘子が調べてくれたわ。由美さんの狙いは私たちではなく詩穂のようよ。不良に色目つかいやがってと誤解しているようよ。貞一さんとは別グループの不良グループで、私たちスケバングループを襲って退学になったのは、詩穂が貞一さんたち不良グループだけではなく、春樹にまで色目使った事が原因だと唆して手なずけたようだから、襲ってきたらやっちゃいな。」と笑っていた。
晴美たちも気になり私の様子を窺っていた。
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数日後、晴美の予想通り高校時代の不良グループに囲まれた。
その中に由美がいた。
由美は、「詩穂、高校時代不良グループに色目使いやがってマドンナになって汚いぞ!」と誤解していた。
「詩穂が色目?狂暴な女がそんな事をしないわよ。」と晴美がでてきた。
由美は、「詩穂が狂暴?そんな事はないだろう。そういうのだったら、お前ら、狂暴かどうか詩穂をやっちゃいな。」と信じられずに指示した。
私は高校時代の不良たちを全員倒した。
由美は、「えっ?嘘。」と信じられない様子でした。
晴美は、「これでわかったでしょう?貞一がなぜ警察学校で格闘技の指導をしているのか。高校時代、詩穂に仕込まれたからよ。格闘技だけではなく、勉強も仕込まれて貞一の不良グループは全員大学に進学したわ。私たちスケバングループが全員大学に進学した理由も同じよ。」と笑っていた。
由美は、「格闘技が強いだけで、狂暴かどうか・・・」と詩穂の感想を述べている時に、私はコートを脱いでマスクをしてレッドデビルの姿になった。
晴美がその様子を見て、「みんなレッドデビルは狂暴だと言っているわよ。女子プロレス世界チャンピオンが詩穂と争って死にかけた事は知っているわよね。命がある間に、しっぽ巻いて逃げる事を勧めるわ。」と由美と不良たちを睨んだ。
由美と不良たちは、「嘘だろう。」と予想外のレッドデビルの正体に、私を襲う事は諦めて逃げ帰った。
その後、私は春樹と、晴美は貞一と何事もなく幸せに暮らした。