9
ペコリと頭を下げる僧侶。
「許してくれないと、困ります」
「……」
無言になる人々。
やがて一人の男性が前に出てきた。
「まあまあ、落ち着けって」
男は言った。
「俺たちは別にあんたらが悪いと思ってるわけじゃない。ただ、この街には貴重な素材を扱う店もあるし、冒険者ギルドだってある。もしここで暴れられたら、迷惑するのはこっちなんだ」
「そうか……悪かったな」
「だから損害賠償をしてもらうことにした」
「賠償金……だと?」
「ああ、金貨十枚払ってもらおうか」
「き、金貨十枚……」
アレックスは絶句した。
「さあ、早く出せ!」
男が催促してくる。
「わかった……すぐに用意しよう」
勇者は財布を取り出した。
「俺が出す」
「アレックスさん?」
「悪いのは俺だしな」
勇者は懐から袋を取り出すと、その中から金貨を一枚取り出し、男に手渡した。
「確かに受け取った」
「では、これで失礼する」
「まて、残り九枚の金はどうするつもりだ?」
「今は無い。後で払う」
「そうはいかんね」
「何?」
「残りの九枚分は、これから働いて返してもらおうか」
「どういうことだ」
「つまり、お前さんたちにはしばらく街に滞在してもらう。その間、毎日街のために働いてもらうからな」
「街のためだと?」
「ああ、例えば食堂の皿洗いとか、街の清掃活動とか、ゴミ拾いとか、あとそっちの娘さんはウェイトレスとして働いてもらおうか……」
「待ってください。この方は勇者様で、魔王を倒すために旅立たなければならないのです」
「いや、これは俺が悪い。指示に従おう」
勇者が答えた。
「そうですか……」
こうしてアレックスとソラリスはしばらくの間、街で暮らすことになった。
「お待たせしました」
ソラリスは笑顔で料理を持ってくる。
「こちらが、当店の名物・焼き肉定食になります」
「おお……」
テーブルの上に並べられていく。
「では、ごゆっくりどうぞ」
ソラリスは一礼すると去って行った。
「いただきます」
客たちは目の前に置かれた鉄板を見る。
ジューッ!! 美味そうな音を立てている。
「ソラリスちゃん、今日も可愛いねぇ」
「ありがとうございます」
ソラリスは愛想よく応じる。
「ところで、ソラリスちゃんは何歳なんだい?」
「十六歳です」
「そうかい、若いのにしっかりしてるんだねえ」
「いえ、そんなことありません」
「そういえば、この間の大会で優勝して賞金もらったんだろう?あれで何か買ったのかい?」
「いいえ、特に何も」
「もしかして、まだお金が余っているのかな?だったらおじさんがいくらかあげようか?実はちょっとだけなら持ってるんだよ」
「いいんですか!?」
「ああ、もちろんだよ。ほれ……」
男は財布の中から数枚の硬貨を取り出し、ソラリスに差し出した。
「どうだい?結構な額だろう?」
「はい、とても助かります」
ソラリスはにっこりと微笑む。
「それじゃあ、また来るよ」
「はい、お待ちしております」
男は店を後にした。
「はぁー……疲れるなぁ」
アレックスはため息をつく。
「すみません。私があんなことをしてしまったせいで……」
「いや、君のせいじゃない。悪いのはあいつだ」
「でも、私のせいで……」
「気にするなって」
アレックスは積み上げられていく皿を必死に洗いながら言う。