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翌日。
「勇者様、おはようございます!」
僧侶は元気よく挨拶した。
「ああ、僧侶、おはよう!」
それに答える勇者。
二人は宿屋を出たところだ。
「ところで私たち、お互いの呼び方を変えてみませんか」
「ああ、確かに変えてみたいな」
「なので、私のことをソラリスと呼んでください!」
「わかったよ、ソラリス」
「はい、アレックスさん!」
嬉しそうな僧侶。勇者アレックスことアレックス・モーガンは思った。
(ふむ……そういえば、俺は僧侶のことを"僧侶ちゃん"、"僧侶くん"と呼んでいたが……)
ちなみに勇者は僧侶を名前で呼ぶことは今まで一度もなかった。
なぜなら、彼女はまだ幼い女の子であり、女として見るのは少し抵抗があったからだ。
しかし昨日のキスによって、彼は僧侶に対する気持ちに変化が生じていた。
「では、改めてよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
二人は握手をかわした。
そして手を放すと、僧侶は言った。
「ところでアレックスさん、今日は何をするんですか?」
「とりあえず街を見て回ろうと思っている」
「わかりました」
「それで、まずは武器屋に行きたいのだが」
「はい、案内いたします!」
こうして二人は街中を歩き始めた。
しばらくして、勇者は尋ねた。
「そう言えば、ソラリスはいつも回復系と補助系の魔法を使うけど、攻撃系はどんな魔法が使えるんだい?」
「えっと……」
僧侶は少し考えて答えた。
「光系統の回復系と補助系の呪文が得意なんですけど」
「なるほど……」
「それと、一応攻撃系の精霊魔法のファイアボルトも使えます」
「ほう……」
勇者は興味深げにソラリスを見た。
「それはぜひ見せてもらいたいな」
「いいですよ。それじゃあ、ちょっと試してみてもいいですか?」
「もちろんだ」
「では……」
僧侶は右手を前に突き出した。
そして、詠唱を始める。
「天より来たれ光の精霊たちよ」
すると、僧侶の手から光があふれ出した。
「我に力を貸せ」
次の瞬間、手の中に炎の玉が現れた。
「我が敵を撃て」
その言葉とともに、炎の玉は勢いよく飛んでいった。
ヒュン!! ドゴォーーン!!! 轟音と共に爆発する。
煙が立ち込め、視界が悪くなった。
やがて煙が晴れると、そこには巨大なクレーターができていた。
「うわぁ……」
思わず声を上げるアレックス。
ソラリスは得意げな表情を浮かべている。
「どうですか?すごいでしょう?」
「ああ、すごかったよ」
素直に感心しているアレックス。
「誰だ、街中でこんな強力な魔法を使う奴は!?」
「この辺りであんな威力のファイアーボールが打てる魔法使いなんて聞いたことがないぞ!!」
街の人たちは騒然としていた。
「やべぇ……やっちまった」
焦る勇者。
僧侶はそんな彼に向かって微笑みかけた。
「大丈夫です。きっと皆さんわかってくれるはずですから」
「そ、そうかな?」
「はい!」
自信満々に言う僧侶。
「おい、お前たちか、ちゃんと説明しろ!!」
誰かが叫んだ。
「はい、私がやりました」
堂々と答える僧侶。
「私の名前はソラリスと言います。職業は僧侶です。特技は回復系統の魔法です。あと、攻撃魔法のファイアボルトも使えます。それから、こう見えても私は大賢者クロコダイルの弟子です。だから、その……」
「それとこれとは話が別だろう!!」
「そうだそうだ!説明になってないじゃないか!!」
「というわけで、すみませんでした」