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「ふう……」
僧侶は息をつく。
「なんだか緊張してきたな」
「私も同じです」
「こういう雰囲気の食事処は久々だからね」
「そうですね、普段は冷たい食べ物ばかりですから」
「温かい料理を食べるのはいつぶりだろう」
「たまには温かい食べ物もいいものだね」
「はい」
僧侶は微笑んで答えた。
「それにしても……ここは静かで落ち着く場所だね」
「はい」
「こんなところにも魔物がいるのだろうか?」
「さぁ? 私にはわかりません」
「こうしてみると、みんな普通に暮らしてるのにな」
「私も不思議に思います」
「でも、そういうものなのかもな」
「どういうことですか?」
「平和に暮らしているように見える人たちも、心の中では何かと戦っているのかもしれない」
「なるほど」
「俺だって、こうして僧侶さんと話をしながら食事をしているけど、本当は魔王を倒す旅をしているんだよ」
「そういえばそうでした」
「魔王を倒した後は、勇者なんて呼ばれずにただの人になると思うけど、そうなっても僧侶さんとは仲良くしていたいな」
「勇者様……」
勇者の言葉に僧侶の顔が赤くなる
それからしばらくして料理が運ばれて来た。
僧侶の前にハンバーグ、勇者の前に置かれたのはオムライスである。
「おお、これが勇者様が頼んだものですか」
興味深げに見る僧侶。
「そうだ。俺の大好物だ」
「そうなんですね。楽しみです」
僧侶は目を輝かせている。
「それじゃあ、早速食べようか」
「はいっ」
二人は食べ始めた。
「うん、おいしいな」
勇者は幸せそうにしている。
「本当ですか?」
「ああ、すごくおいしいよ」
「それは良かったです!」
僧侶は微笑んでいる。
「はい、勇者様」
僧侶は自分のフォークで料理を刺して勇者に差し出した。
「どうぞ」
「えっ、いいのか?」
「はい。ぜひどうぞ」
「わかった。では、ありがたく頂こう」
パクッ!!
「どうでしょう?」
「うーん……最高だ!!」
「わぁ、嬉しいです!!」
喜ぶ僧侶。
「ふふふっ……」
笑う勇者。
「はい、勇者様」
今度は僧侶が自分のスプーンで料理をすくって勇者に向けた。
「これもおいしいですよ」
「おお、いいのかい?」
「もちろん」
「じゃあ、遠慮なく頂くとするよ」
勇者は僧侶の差し出すスプーンを口に含んで食べた。
「うん、こちらもなかなか美味しいぞ」
「よかったです!」
喜ぶ僧侶。
こうして食事は終わった。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
会計を終えて店を後にする二人。
「ふう……結構おいしかったな」
「はい、満足です」
「少し薬草を買い足しておこうか。先日のオオサソリには苦労したからな。他に何かいいものがあるかもしれない」
「そうですね」
勇者たちは露店や道具屋をまわり、いくつかの回復薬や触媒を買い足すことにした。
「僧侶さん、この前の魔物は魔法が効かなかったんだけど、こういったものにも同じ効果はあるのかな?」
「ええ、ありますよ」
「そうか。じゃあ、買っておこうかな」
勇者は杖を指差した。
「すみません。これとこれとこれください」
「はい、まいど!!」
店主は元気よく答えた。
買い物を終えた勇者と僧侶は、日々の疲れを癒すためにホテルにチェックインした。