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「勇者様、少し休憩しませんか?」
僧侶が声を掛けた。
「ああ、そうだな」
木陰に移動する二人。
「はい、水ですよ」
僧侶がコップを差し出した。
「ありがとう」
受け取る勇者。
「どうぞ召し上がれ」
「いただきます」
勇者は水を飲んだ。
「うまいな」
「それは良かったです」
微笑む僧侶。
「ところで、お腹が空いてはいませんか?」
「そういえば、朝ごはんを食べてから何も食べてないな」
「実は……お弁当を作ってきました」
「おお! それはありがたい!」
「どうぞ」
僧侶はリュックサックの中から重箱を取り出して開けた。
中にはおにぎりと唐揚げが入っていた。
「おいしそうな料理じゃないか」
「えへへ、そうでしょう」
照れる僧侶。
「勇者様に食べてもらうために作ったんです」
「俺のために?」
「はい。勇者様がおいしいと言ってくれる顔を想像して作りました」
「嬉しいよ。早速食べるとするかな」
「はい、ぜひ」
勇者はおにぎりを一つ取った。
「うーん、このツヤといい、形の良さといい、とてもいい感じだな」
「味の方も期待できそうだ」
「ふふっ、きっと満足できるはずです」
「それじゃあ、遠慮なく頂くことにする」
勇者はおにぎりを一口食べた。
モグモグ……ゴックン!!
「うん、これはなかなか美味しいぞ」
「やったぁ!!」
喜ぶ僧侶。
「勇者様、もう一ついかがですか?」
「もちろん、もらうよ」
「はいっ!」
僧侶はもう一つのおにぎりを取って勇者に差し出す。
「はい、どうぞ」
「どうも」
勇者は受け取って口に運んだ。
「うん、これも悪くないな」
「本当ですか? よかったです」
「いや、本当においしいと思う」
「えへへ……」
嬉しそうにする僧侶。
そんな彼女の顔を見て勇者アレックスは思った。
(ソラリスの笑顔って、なんて可愛らしいのだろう)
勇者アレックスは僧侶ソラリスのことを好きになっていたのだ。
だが彼はまだ自分の気持ちに気づいていない。
僧侶もまた同じだった。
勇者アレックスに恋をしていた。
しかし彼女は気づいていないフリをしている。
勇者アレックスへの想いを胸に秘めたまま、彼の隣を歩いている。
二人の旅はまだ始まったばかりだ。
「うーん……」
悩んでいる勇者アレックス。
「どうかしましたか?」
僧侶が尋ねる。
「実はさ、レベル上げの方法について考えていたんだよ」
「レベルを上げる方法……」
首を傾げる僧侶ソラリス。
「ああ。俺たちの今の実力だと、魔王を倒すにはまだまだ足りないだろう? だから、少しでも強くなっておきたいと思ってね」
「なるほど、そういうことでしたか」
「何か良い方法はないかな?」
「そうですね……」
僧侶ソラリスは考えた。
「やっぱり、もっと魔物のいる魔界に行くしかないんじゃないでしょうか」
「やっぱりそれが一番早いよね」
「でも、危険じゃないですか?」
「そうだな。でも、いつまでもここにいても仕方がない」
「それもそうですけど」
「俺は行くつもりだよ」
勇者アレックスの目つきが変わった。
「僧侶さんはどうする?」
「私は……」
ソラリスは僧侶として勇者を死地に向かわせることに疑念があった。
しかし勇者として成長してもらう必要もあった。
そして勇者のことが大好きで勇者と離れたくないという想いが彼女を動かした。
「勇者様が行くのなら、私も行きます」
「ありがとう!」
「いえいえ、勇者様のお役に立てるなら光栄ですよ」
二人は立ち上がった。