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「これで話は終わりじゃ。分かったであろう? ワシが協力しない理由がな」
「はい。よく分かりました」
「では、ワシは失礼させてもらうぞ」
立ち上がって部屋の奥に向かおうとする大賢者クロコダイル。
「待ってください!」
勇者は叫んだ。
「どうやって魔王を倒しましたか?」
「ん? それはな……秘密じゃ」
ニヤリと笑う大賢者クロコダイル。
「えっ!? どうして教えてくれないのですか?」
「ワシが倒した方法を教えれば、お主らも真似してしまうであろう。だからダメなのじゃ」
「そんなことは……」
「ないと言い切れるか? お主らは強いのか?」
「それは……」
「はっきり言おう。お主らに魔王は倒せん」
「……」
「それどころか足手まといになるだけじゃ。悪い事は言わぬ。すぐにここから出て行け」
「……」
何も言い返すことができない勇者アレックス。
「もしどうしてもと言うなら、お主らが魔王を倒すしかない」
「えっ!?」
「ワシの力を借りずともお主らだけで倒すのじゃ。そうすればワシはお主らの望み通りに協力してやろう」
「意味が分かりません」
僧侶は首を傾げた。
「魔王を倒せるかどうか分からない相手に命懸けで挑めと言っているのじゃ。つまりそういうことじゃよ」
「……」
絶句する二人。
「ワシはこの世界で最強の魔法使いじゃ。しかし無敵ではない。ワシに勝てる者がいるとすれば、それは魔王だけじゃろう」
「ワシが勝つためには、お主らのような弱者の力など借りずとも十分ということじゃ」
「そんな言い方はないと思います」
「ふむ。ワシは事実を言ったまでじゃ」
「それでも、もう少しオブラートに包んだ表現をしてもいいじゃないですか」
「なるほど。ならば分かりやすく説明してやるとしよう」
大賢者クロコダイルは指を立てた。
「魔王を倒すために必要なのは力でも知恵でもない。勇者としての勇気じゃ」
「えっ!?」
驚く勇者アレックス。
「魔王は恐ろしい相手じゃ。しかし、それは恐れる必要のない弱き者のことじゃ。お主にその覚悟があるのか?」
「……」
「勇者として戦うということは、常に死の危険に晒されるということだ。ワシには分かる。お主はまだ弱い。その心も体もな」
「確かにそうかもしれません」
「勇者とは魔王を倒した者に与えられる称号。その意味が分からぬような者に魔王と戦う資格はない」
「……」
黙り込む勇者アレックス。
「それに、この世界で一番強いのは誰なのか分かっておるか?」
「魔王に決まっています」
「違う。この世界で最も強いのは、このワシじゃよ」
「……!!」
「ワシは今まで多くの強敵と戦ってきた。時には強大な力を持つドラゴンと戦い、またある時は伝説の魔獣と戦ったこともある」
「そしてワシは勝ち続けてきた。ワシの強さは本物じゃ」
「魔王は別格じゃ。あれは人間の手に負える存在ではない」
「そんな魔王を倒さねばならぬという現実から目を背けるな。ワシはお主らを試しているのじゃ」
「ワシはもう行くぞ。邪魔をしたな」
大賢者クロコダイルは奥の部屋へと入っていった。
「どうしますか?」
僧侶は勇者の顔を見た。
「私は、あの人の言う通りだと思います」
「えっ!?」
「私たちはまだまだ未熟です。もっと強くなってから挑むべきです」
「そうですね……。私も同感です」
「これからも一緒に頑張りましょうね」
「はい!」
笑顔を見せる僧侶ソラリス。
「では、今日は帰りましょう」
二人は屋敷を出て行った。




