14
ソラリスが連れていかれた部屋の扉には『使用人用』と書かれた札がかけられていた。
「よし、まずはお掃除ですね」
ソラリスは雑巾を手に取り床の汚れを落とし始めた。
ここが新しい我が家になるのだと、そう思いながら……。
それからソラリスは忙しく働いていた。
城のメイド長から仕事を教えてもらい、慣れないながらも城内の清掃、食事の準備、洗濯や買い物など、家事全般をなんとかこなしていく。
もちろん仕事の合間には魔法の練習も欠かさない。
「ふう、これで終わりっと」
最後の仕上げに窓拭きをしていた。
その時だった。
ドォンッ!と轟音が鳴り響いた。
「なっ、何事!?」
急いで外に出る。するとそこには、大きなドラゴンが立っていた。
「きゃあああっ!」
ソラリスは腰を抜かし、その場にへたり込んでしまった。
ドラゴンは大きな口を開け、今にも襲いかからんとしていた。
「くっ、こっちに来る……」
恐怖で足がすくんで動けない……。
「はぁーっ!!」
突如、横から誰かが現れ、剣を振りかざした。
「えっ!?」
勇者様!?
ソラリスは目を見開いた。
しかしそこには女騎士の姿があった。
「ここは私に任せなさい!」
騎士はそう言うと、素早い動きで次々と攻撃を繰り出していった。
そして、ものの数分もしない内に、ドラゴンは倒れてしまったのである。
「すごい……」
呆然と立ち尽くすソラリス。
「ふぅ、なんとか倒せたわね」
「あの、あなたは……」
「ああ、私は……」
「ソフィア・アイネストさん!?」
「あら、知ってるの?」
「は、はい!あなたは私の憧れなんです!」
「そうなの?ありがとう!あなた名前は?」
「私はソラリスと言います」
「ソラリスさん、あなたって可愛い名前ね」
「そ、そんなこと……」
顔を赤らめるソラリス。
「ねえ、よかったら一緒に旅をしてみない?」
「えっ?」
「実は私、仲間を探しているんだけど、なかなか見つからなくて困っていたところなのよ」
「でも私には……アレックスさんが……」
「アレックスさんって投獄された彼よね?」
「はい……」
「あの人のことは忘れて、私と一緒に行きましょう」
「でも……ごめんなさい……」
「どうして!?」
「あの人は私の、かけがえの無い存在だからです」
「……かけがえの無い存在……そう……分かったわ」
「すみません……」
「いいのよ、気にしないで、それより早く片付けちゃいましょ」
「はい!」
二人は協力してドラゴンの死体を解体した。
そして、城に戻ると、メイド長が出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、ソラリスさん」
「ただいまです」
「お疲れでしょう、お茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
ソラリスは出された紅茶を一口飲んだ。
「おいしい!この味、とても落ち着く……」
「それは良かった、では明日からもよろしくお願いしますね」
「はい!こちらこそお願いします!」
こうしてソラリスの新たな生活が始まったのであった。
一方アレックスは牢獄に入れられていた。
冷たい石壁に囲まれた狭い空間だ。
ベッドもトイレも無い、本当に寝るためだけの場所だった。
(ソラリスちゃんはどんな酷いことをされているんだろう……)
そう思うと胸が痛む。
だが、自分にはなにも出来ない。
今はひたすら耐えるしかないのだ。
アレックスは目を閉じて眠りについた。