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大賢者の屋敷に到達し、玄関口から顔を出した大賢者に勇者アレックスは言った。
「お願いします。どうか我々と共に魔王を倒してください」
「なるほどのぉ。あの魔王が復活するのか。それは興味深い」
他人事のようにつぶやく大賢者クロコダイル。
「どうしても魔法の力が必要なんです」
僧侶が口を挟む。
「ワシに魔王を退治してほしいとな。ふむ。この黒の大賢者と言われるワシになぁ」
「どうでしょう? ぜひ協力していただけませんでしょうか?」
勇者アレックスの問いかけに対し、大賢者クロコダイルは答えた。
「断る!」
「えっ!?」
「お主らで倒せばよかろう。ワシの力など借りずともな」
「そんな……」
「まあよい。せっかくここまで来たのだ。少し話をしてやろう」
そう言うと、大賢者クロコダイルは屋敷の中に招き入れた。
「まず初めに言っておくことがある」
椅子に座って話し始める大賢者クロコダイル。
「何でしょうか?」
「ワシもかつては勇者一行の仲間じゃった」
「はい」
「実はのう……魔王を倒す前にワシを倒した者がいるんじゃ」
「えっ!?」
驚く勇者アレックス。
「かつてワシを倒したのは、この国の王子じゃった。彼は勇敢で正義感の強い若者であった」
「王子様が……」
「ああ。その当時、ワシはまだ大賢者と呼ばれるほど強くはなかった。しかし、ワシには優れた仲間がいた」
「優れた仲間ですか?」
「そうだ。その者は魔法使いでありながら剣の腕も優れていた。さらに、とても心優しい性格の持ち主でもあった。そして彼女は、どんな魔物にも優しく接し、慈愛の心を持っていた」
「素敵な方ですね」
「うむ。彼女のおかげで我々は魔王を討伐することができたんじゃ」
「それで、その方は今どちらに?」
「もういない。彼女は戦いの最中に命を落としたのじゃ」
「そうなんですね……。すみませんでした。辛いことを思い出させてしまって」
「いいのじゃよ。もう昔のことじゃからな」
微笑みながら答える大賢者クロコダイル。
「さて本題だ。ワシはその彼女のことが好きだった。愛していると言ってもいいだろう」
「はい」
「だからこそ、魔王が復活した時に備えて彼女を蘇らせようと考えた」
「えっ!?」
驚きの声を上げる勇者アレックス。
「もちろん最初は無理だと諦めていた。しかし、ある日奇跡が起きた。なんと彼女が生き返ったのじゃ! ワシは喜び勇んで会いに行った。すると彼女はこう言った『私もあなたを愛しています』とな。これは運命に違いないと思ったワシは彼女と結ばれた」
「そ、それは良かったですねぇ」
苦笑いする勇者アレックス。
「それからというもの毎日幸せだった。ずっと一緒に暮らしたいと思っていたのだが、残念なことに寿命が来た。そこでワシは考えた。せめてもう一度だけでも彼女に会ってみたいとな」
「はい」
「そのためにワシは禁断の魔法を使った。寿命が尽きた人間を甦らせるという禁忌を犯したのじゃ」
「そんなことが……」
「だが失敗した。失敗作として生まれてきたのは醜悪な怪物じゃった。ワシはそれを処分した。二度と復活しないように粉々にしてやったわ」
「……」
黙り込む勇者アレックス。