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 朝から悩んでいたことだが、会ったところで何を話そう。僕は顔が見られればいいと思って来たのだ。お姉さんが帯刀の病室に入っている間に、僕はドアの横の壁に寄り掛かってぼんやりそんなことを考えていた。帯刀は僕にとって相即不離の存在だ。こんなところで帯刀を失いたくない。天井の蛍光灯を見上げていると横のドアが開いた。お姉さんが出て来て頭を下げた。僕は微笑を浮かべる。

「ごめんね。会えないって。あなたが来てくれて喜んでいたけど怖いって。でもね、ぬいぐるみを見たときは久し振りに笑ってたな」

 僕は頷いた。良かった。

「仕方ないので帰ろうと思います。その前に栞さんの様子をよかったら教えてくれますか」

 そうでもしないと来た意味が無い。手土産は本当に買っておいて正解だった。

「うん、そうだね」

 お姉さんは明らかに顔色を暗くさせた。嫌だったか。

「ねえ、あなたは栞を嫌いになった?」

 どういう意味だろう? 僕は帯刀を嫌いか? 僕は九月のあのときから確実に変えられた。帯刀はどうだろうか。あいつはずっと同じ信念を持って生きていて、それはあの日も今日も変わらない。そういう考えをするなら答えは簡単だった。

「いいえ。僕にとって栞さんはずっと変わらないです」

 お姉さんは首を縦に振った。そして少しだけ話してくれた。

「体は……一旦は大丈夫なはず。どんどん痩せて弱っているけど。心の方も不安定でね。最初は人と会うたび泣いたり、怒ったり、わめいたり。最近は憔悴しきって口数少ないの」

 お姉さんは誰かに聞いてほしかったのかもしれない。僕の頷きに反応して笑みを見せる。僕は正面を向き、静かに聞いている。

「でも、栞はあなたが来ることを伝えたら少しだけ明るくなって今日を楽しみにしてたの。だから頑張っていたの。色んな人に会えるように」

 僕が帯刀に会いたかったように帯刀も僕に会いたかったのだろうか。それが事実だとすればどんなに良いことか。

 話を終わらせたお姉さんは僕にお礼をして、お詫びをした。僕も同じようなことを返した。それで病院を出た。帰りは真っ直ぐ家に向かうだけ。冷たい乾いた風を受けて一人で歩く。今日は何となく帯刀との出来事が思い出される。よく覚えている感情や場面もあれば、意外と明確でないものもあった。

 元気だった帯刀を思い起こすと、あいつの境遇を思いやらざるを得ない。帯刀は血を流して倒れているところを家族に発見された。

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