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 帯刀とは以前こんな話をしたっけ。

「お腹鳴った?」

「恥ずかしい。聞いてたの? やっぱりこんな私でも鳴るのね」

「自分は美人だからそういう所は無いと言いたいのか。アイドルは大便しない、みたいな」

「女の子に汚物の話をしないの。でも私が可愛いって認めてるな」

「世間一般の評価の反映だ」

「ふーん。ま、その話だけど食べるって生きてるって感じだな、なんて」

「昼は駅前で食べる?」

「いいね。ねぇねぇ、私の話聞いてよ」

「いつも散々聞いてるよ」

「今日も。あのさ、お腹鳴って恥ずかしい思いしたことない?」

「何回かあったと思う」

「中学生の頃に模試受けたでしょ? 私はその五時間目の英語の時間によくお腹鳴っちゃってさ。別に休み時間とか、テスト終わった後は鳴らないんだよ。静かで、お願い鳴らないでって思ったときに限って鳴るんだよね。何だろう、あれ」

「わからなくもない」

「でしょ? あるときには前に好きな男子が座っててさ、赤面して帰ったなぁ。本当に嫌だった。私は皆と協調したいと思ってるのに、体が拒絶してわざと目立とうとしてるみたいで、すごく気持ち悪かった」

「点数取れたの?」

「いつもよりは集中できなかったよね。三回目からはゼリー飲料持って行った」

「へぇ。好きな男子はどうなった?」

「結局お話もほぼできてないの。私には高嶺の華だったかな」

「男にも華って使うんだったか?」

「男女同権だよ」

「そうとは言え、くよくよした男は呆れられるし、下品な女は敬遠される」

「身分相応だよね」

「その男子の話題がどっか行ったな」

「ああ。覚えてるのはね、美術で描いた私の風景画を彼が『色が好きだ』って評価してくれたこと。あの記憶は宝物ね」

「宝? デッサンが駄目だって言われたのさ」

「なにぃ。嬉しかったんだぞ!」

「他に褒める所がありそうなもんだけどね」

「あら」

「食欲とか声量とかさ」

 もう何も面白くない。思い出は全てモノクロだった。これからは誰も信じない。誰も彼も死んでしまえば善い。そうだろ、帯刀。

 リビングの壁には月めくりカレンダーがあって、日付の上に著名な絵がプリントされている。今月の絵はヴァン・ゴッホ作『アルルの部屋』だった。なんて綺麗な絵だろう。

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