3、
よろしくお願いします
結論から言うと、何も見つからなかった
もしかしたら、南に向かって歩いていればもう街…とは言わなくても、道には辿り着けたかもしれない
考えてもしょうがないが、後悔が尾を引く
ただ、ほんの僅かだけど小さな発見もあった
この森に入ってすぐは、何が住み着いているか、どんな森かも分からなかったが、暗くなる前にうさぎの耳っぽいものが逃げていくのが見えた
とてもじゃないが追いつけそうになかったから諦めたが、後ろ姿からは角が生えてるようには見えなかったのでアルミラージでは無いだろう
異世界である可能性はまた少し小さくなった
それに俺の足音で逃げるくらいの動物がいるという事は、生きて森から出られる可能性もあるって事だ
空が見えないから分からないが、薄暗い森がさっきよりもやや赤味がかっている、恐らくもう夕方だ
頑張って火を起こすべきか、諦めて真っ暗闇の中で過ごすか決めなければ
幸いここは森の中だ、燃料ならその辺にいくらでも落ちている
問題は種火だが…火起こし器をこの場で作る以外に考えは浮かばない
野生動物は火を怖がると言うが、もしも嬉々として人を食べるヤツがいたら、場所を教えるだけになる
暗闇で過ごす場合は、完全に身動きが取れなくなるというのが痛い
木に背中をつけて一晩過ごすしかないだろう
夜行性の動物には見えているだろうから、俺が寝ている間に喰われない事を神に祈るしかない
どちらもリスクが大きいが、火起こし出来る自信がないのでこのまま寝る事に…ん?
ーーーポトリ
肌が粟立つ
上から何かが落ちてきた
気持ち悪い
ソイツはウゾウゾ動いていて
恐怖ではなく嫌悪で顔が引つる
穢れしかない黒光り
ゴキブリだとおもった?
残念、ムカデだ
かなりデカい
ゴキブリが急に降ってきたら発狂する自信があるが、ムカデの方が毒持ちだし危ないまである
この森に入る前までは、直前で「上から来るぞ!気をつけろ!」みたいな声が聴こえていたんだが、どうやら本当に聴こえなくなったみたいだ
冷静に状況を把握しているように見えるが
「うぅわぁああぁあぁああぁ!!」
絶叫してるし、よくわからん方向に全力疾走している
「はぁ…はぁ…」
疲れるまで走り、少し落ち着いてきた
ムカデごときに足の速さで負けるわきゃないので無駄に体力を消耗したが、これは仕方がない
虫はダメなんだ、お化けと同じくらい無理
森の中なんだから、あんな虫が出てくるのは当たり前だが、見てしまったらもう無理だ
疲れているが、虫対策として火は起こす事にする
辺りはもう暗くなっているが、目が慣れているおかげか、まだ真っ暗ではない
近くに落ちている枝をかき集めて…どうすりゃいいんだ?
平べったい枝に尖った枝を突き刺して、凹んだ部分に先の丸い枝を当てる
これで擦ればいいんだろうか?
手のひらを合わせて間に枝を挟み、擦り合わせて枝を回す
やりずらい!
真っ直ぐになってる枝なんてなかったし、カクカクした弓なりの形状は全く安定しない
折れば真っ直ぐになるが、短くなりすぎる
文句ばかり考えつくが、虫と出逢いたくない一心でひたすら手を動かす
そしてーーーー
夜の闇に包まれた
…途中何回か焦げたような臭いはしたけど、そこから進展がなかった
綿みたいなのでくるんで息を吹きかけるって、前に何かで見た事があるけど、綿なんてないし、臭いがした時にはもう真っ暗だった
火をつけるか付けないか、そんな事を考えている時間は全部無駄だった
虫は怖いが明日も歩くだろうし、今日はもう寝よう
木にもたれかかって、座ったまま眠る
地面に直では寝れなかった
虫に通り道にされそうで
ーー
深夜…だと思う
疲れもある程度取れてるし、それなりの時間眠っていたとは思うが、辺りはまだ真っ暗だ
目覚ましもかけていないのに、こんなに早起きしたのは久しぶりだが、三文の徳どころか損をした気分だ
何か音がする
ヒタヒタという足音と、ザリザリと何かを引き摺るような音がする
ヒタヒタって、平べったい地面と少し湿った足とでなるような音だと思うんだが、ここは森の中で地面はまんま土だぞ?
目を覚ました時には聞こえていたこの音、周りが真っ暗なのを確認してからは冷や汗が止まらない
かなり嫌な予感がする
普段なら絶対に目を覚ますような音量じゃない
これはきっと生存本能が警告しているんだと思う
足音はヒタヒタ以外にネチャネチャと粘着質なものも混ざり始めた、近づいている…気がする
暗闇の恐怖、隠れる恐怖
極度の緊張、止まらない冷や汗
心臓の音はまだ小さいが、鼓動に合わせて両腕がやや痙攣しているのがわかる
左頬を通る汗がくすぐったくて、汗を拭う
瞬間、体が凍った
見られている、気がする
こちらからは何処にいるか分からないが、完全にコチラのことを捕捉している
その証拠に手を動かした時から、足音が聞こえなくなった
しばらくすると、またヒタヒタとネチャネチャ、ザリザリが混ざった音が聴こえる
正面からだ、真っ直ぐ歩いてきている
汗を拭った手は、そのまま頬に張り付いてしまったかのように動かない、動かせない
瞬きの音や、風すらも居場所を教える材料になるとすら思えて、目は直ぐに閉じた
近づいてくる
息を潜めて口を閉じ、鼻呼吸
可能な限り身体から力を抜いて、背中に感じる木と一体になる感覚
臭い
ニキビを潰した時にでる膿のような臭いが、生あたたかいにのってやってくる
目の前にいるんだ、息が当たるほどの近くに
脚に何かが垂れてきた、生ぬるい温度が徐々に広がってくる
ズボンが気持ちの悪い液体に侵食されている
いつの間にか鼓動は五月蝿くなっている
それ以上に血液が耳の中を流れるゴウゴウという音や、一度意識すると止まない耳鳴りがきこえる
耳に意識を集中する
コイツが近づいてきてから臭いが酷いが、こんな空気をくちに入れたら嘔吐する自信があるため鼻呼吸はやめられない
しばらくして、臭いとプレッシャーを感じなくなった
足音はしなかったが、立ち去ったのだろうか?
頭の中で100数えてからゆっくりと目を開ける
目の前にはただの森
安堵のため息をついて下を向くと、赤い瞳と目が合った
どう見てもただの球が浮いているだけだが、俺にはその時眼に見えたんだ
そこから先は何も覚えてない
夢だったのかもしれない
ただ一つ感触としては、、、
へそから、自分の体をひっくり返したような、そんな違和感があってから、意識を失った
ありがとうございました