2、
ありがとうございます
ー風が暖かい
ー知らない匂いがする
ー眩しい…
いつもは壁におでここすりつけて、必死に光から逃げていたけど、今日は光から逃げる手段がないみたいだ
二度寝を諦めて、意識を起きる方へ向ける
微睡んだ意識の中、起きているとも寝惚けているとも言える状態で、深呼吸
すぅぅううー、はぁ!
ゆっくり肺に空気を送り込んで、一気に吐き出す
何回か繰り返していると、お尻が痛いことに気が付いた
何と言うか、嫌な痛さだ。意識するとどんどん痛くなって…
立ち上がるのも億劫だが、お尻の痛みには耐え難い
立ち上がると足にも違和感
なんだろう?靴?履いたまま寝てた?
「あぁ、そっか」
声を出してようやく思い出す
「電車で寝落ちしたら車庫に輸送された件ってツイートしたら炎上するかな」
まあ、反応してくれるアンチもいないか
意識も覚醒してきた
昨日の事も思い出せる
現状認識も出来ている、はずだ
「電車ってこんな森の中に停めてあるモノなのか?」
電車に詳しくはないけど、さすがに野ざらしではないだろう
いや、でも線路に置きっぱなしみたいな車両も見るし…うーん?
でも違う、外なら昨日の夜も民家とか、なんらかの光は見えたはずだ
昨晩のうちに動くのを諦めたのは、真っ暗で何も見えなかったからのはず
というか、車庫ならメンテナンス機材とか、そんなのがあるんじゃないのか?知らないけど
窓の外には木が何本も立って…って、あれ!?
窓がない
慌てて近寄ろうとして、振り返る
俺が寝ていた側の窓も無いみたいだ
正確に言うと、無いのはガラスだ窓枠はある
本来、窓ガラスがあったであろう空間、穴?隙間?にガラスがはめ込まれていないのだ
首だけ表に出して上下左右を見渡しても、めぼしい物は見つけられなかった
というより、線路すらなかった
線路なしで、どうやってここまで、こんなでっかい金属の塊が動いたんだ?
それにやっぱり
「どこなんだよ、ここは…?」
とりあえず何か人工物を見つけなければ
表に出ようとして…
「ドアが開くわけないよな」
そりゃそうだよ
ドアに手をかけて全力で
ーっく、かたいな…でも動かないほどじゃ…ないッ!
なんだろう、こんなに頑張って開けたのに ゴン とも ガン とも ゴゴゴ ともならないとやりきった感がないな
自分の非力さ突きつけられた気分だ
開いたからよしとしよう
本当に非力な人なら、ドアが開けられなくて餓死エンドだろうしね。うん
さて、降り……る前にもう一度周りを確認
電車の下にも…何も無いね
よし、降りるか
足元には雑草が生い茂っている
高さもそんなにないし、跳び降り…て転んだ
低い所から降りてorz の体勢になるのはなかなかに恥ずかしい
「あー、眩しいなー」
誰に聞かせるでもなく、まだ寝起きですよアピール
立ち上がるときにも多少フラつく演技を忘れない
土はすごく柔らかい
天然の腐葉土になっているみたいだ
外に出てみると、森の木がさっきよりも高くなったような錯覚に陥る
電車内の方が目線が高かったんだから当たり前か
しかしこうして見ると
「こんなに大きかったんだな」
電車の大きさは理解していたつもりだけど、駅のホームからは足場の高さは揃えられていた
車輪は少し地面にめり込んではあるものの、同じ高さに足をならべてみると大きさに圧倒される
改めて現代の技術というものには頭が上がらない思いを感じる
電車が置いてあるのは、いわゆるギャップが形成されている場所みたいだ
電車の周りは芝っぽい草が生えているのに、少し離れれば電車よりも高い木しかない
もう太陽は出ているのに、木々の下は薄暗い
多少、木漏れ日はあるがマイクラなら敵MOBがPOPしそうな程だ
出来れば行きたくない
行きたくないが……完全に木々に囲まれている
高い所から進む方向を確認しようにも、この木は7mくらいあるし、5〜6m程の高さまで枝がない
木肌もツルツルでぶきっちょな俺には登れる要素がゼロって事だ
うーん
とりあえず、少しでも高いところに…電車の上に登ろう
特に苦もなく登れた
目が覚めてきたんだろう
窓枠に足がかけられたのも大きい
というか、さっきもドア開けないでも窓から出れば良かったんじゃ…
いやいや!
ドアが開いてなかったら、窓が高くて電車内に戻れなかったかもしれない
俺の行動は間違ってなかったさ
さて、登ったはいいものの木しか見えない
そりゃそうだ、電車よりも高い木々に囲まれてるってさっきも思ってたんだから
登るときに、車内からカバンを取ってきておいた
中身を確認しておこうか
とは言っても、大学に持っていくものしか入っていない
ふで箱(シャーペン2本、ボールペン赤、青、緑、橙が各1本、消しゴム、定規、コンパス、分度器)
クリアファイル3枚目、レジュメはたっぷり
教科書が2冊とルーズリーフが…50枚くらい
あとは、折りたたみ傘、通帳(残高51万3267円)、財布(4362円)、ピクリとも動かないスマートフォン
それと、紅茶の入った水筒とグミだ
命の紅茶 と 命のグミ を食べ切る前に何とかしないと
当面の目標としては…
ここが日本国内なのであれば、「人を探す」だな
海外だったとしても、下手くそな英語で話せば分かってくれる人はいるだろうから、これも「人を探す」
ここに来て焦りとともに、ワクワクしつつ、自分がなると最悪である可能性
ここが異世界とかだったら、どうしよう…
一番バカっぽいが、現状では一番ありえそうな話だ
少なくとも、ここが日本だとは思えない
日本ではどこにいても聴こえた声が、ここでは聴こえない
霊の声が聴こえるとか、霊視が出来るとか、そんなに大層なものじゃないが、俺には未来を教えてくれる声が聴こえていた
少し先、知っていても回避できないくらいの直前に聴こえる声
正直、役立った事はあまりない
一度だけ、驚かされる前に声が聴こえたおかげでビビらなかった事がある程度だ
それも、急に声が聴こえた事に驚いたから無駄だったがね
まあ、要するに、ずっと聴こえていたほんの少し先をただ読み上げているような声が聴こえなくなったという事はそれ相応の
それこそ、声が届かないくらい遠くに跳んでしまった
もしくは、声の主はついてこられなかった
なんて可能性があるし、直感でしかないが、何かが根本的に変わってしまったかのような、そんな喪失感にも似た予感がするんだ
考えが脱線し過ぎたな、
とにかく、普通に人種族が存在するような世界ならまだマシだが、人間は奴隷だったり、殺戮対象だったり、主食だったり、そんな立場だったら、人を探す事が自殺行為になりかねない
もしくは、知的生命体の存在しない世界かも…
いやいや、そんなものは考えたって仕方がない
とりあえずの目標は「人を探す」事にしよう
ただ、日本か海外か異世界かでこの森の危険度が変わってくるんだよな
うーーん、気は乗らないけど、テキトーに方向を決めて運任せにするしかないかな?
善は急げだ、そうと決まれば朝のうちにここを発とう
食べられる野草なんかも知らないし、ここで留まるだけじゃあ緩やかな死だ
森で敵性体に出会ってぽっくり死ぬかもしれないが、直ぐに死ねるならその方が気持ちも楽だろう
「よし、じゃあ太陽に向かって進も…いや、太陽に背を向けて進んでいこう」
どっちに行こうが変わらないし、分からない
森の中は薄暗いし、太陽の位置なんて確認できないだろうから結局はテキトーに進むことになるのだ
夜までには発見があるといいんだけど…
お疲れ様でした