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其の拾

 駅前にある喫茶店だ。内装も照明も、そして接客態度までも、全てが昭和のそれも五十年代にタイムスリップしたような店だ。

 ウマはまたビールを注文し、小さなグラスに手酌で注いだ。ビールの小瓶自体が珍しくなっている。

「役者は揃った、かな」

 飲みほしてからウマが、息と一緒に吐き出すように言った。

「そうだね。踊り手は桜子さんの弟と小場という社長。コンサルタントの石井は振付師だね。アケボノ企画の片岡は興行主と言った所かな」

 トオルが、飾り気のないコーヒーカップを持ち上げながら言う。

「なんか、無理矢理だが、そんなもんだろう。調べてみて思ったんだが、ボン、お前の言う交換殺人はあり得るな。釣り船アリバイの作り方が完璧すぎるものな。だとすれば弟が狙うのは小場の女房だ。そしてやるのは今度の土曜日だ」

「どうして?なぜ土曜日だってわかるの?」

「小場の会社の慰安旅行だ。会社が苦しいのに良くやるなあと思っていたが、アリバイを作るのに必要だとすれば納得だな。一泊で熱海だとさ」

「間違いないね。でも困ったな」

「何がだ?」

「弟が小場の奥さんを殺そうとするでしょう。それを止めることは出来ても、逮捕する権利はないんだよね、僕らには。現行犯というのも難しいよね、シラを切られたらそれまでだもの。実際に襲わせるしかないのかなあ」

 たとえナイフを握っていても「リンゴの皮を剥く」と言われればそれまでなのだ。一般人の目撃は証言にはなっても証拠にはならない。

「頼もうかなあ、洋子さんに」

「だれだ、洋子って?」

「桜子さんの知り合いの婦警さんだよ。刑事が恋人なんだ」

 警察官の目撃証言は証拠として採用される。

 洋子に頼んでみようと考えたが、別の問題が生じることに気がついた。

「しかし、警察は標的が襲われるまで待ってくれないぞ。何かあったら責任問題だ。その前に逮捕すると、中途半端になるかもな」

 ウマがトオルの心配を見抜いたように代弁した。

「襲わせようよ、だったら良いでしょ?」

「どうやって?」

「小場の奥さんの身代わりを用意するの」

「その婦警にやらせるのか。おとり捜査だぞ。第一危なくねえか?」

「違うよ、洋子さんじゃなくてさ……」

「あっ、おりんか」

 おりんは元柔道の五輪強化選手で、今は一座の裏方だが、トオルたちと一緒に何度か事件を解決している。

「逮捕するにはやっぱり刑事にいて貰わないとね。洞口って言うんだけど、洋子さんの恋人の刑事を納得させるのが大変だよね、やっぱり」

 言いながらも何とかなるだろうとトオルは考えていた。

 桜子に対する洋子の思いの深さは見て来ている。それに賭けてみようと考えていた。

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