覚醒
目が覚めると、僕はどこかの部屋にいた。
はわわわわわわわ――
そうだ、ここは僕の部屋だった。
気が付くと、そこは僕の部屋だったことを、思い出した。
誰もが自分の部屋を思い浮かべた時、最初に浮かんでくるような部屋。そんな部屋だ。
なんで僕は、自分の部屋にいるんだろう。
わからないね。
そうか。昨日、あれがあれして、アレだったんだった。
誰もがアレと聞いて思い浮かべた時、真っ先に思い浮かんでくるようなこと。それがアレだった。
アレのあれは、あのあと、どうなったんだろう。
僕は、アレのことが気になった。
「ニャア」
うわ!
僕は、驚いた。
ああ、なんだ。
猫か。
その猫は、誰もが猫と聞いた時、真っ先に思い出すような、そんな猫だった。
しかし、なんで猫が。僕の部屋にいるんだろう。
気がつくと、僕の家は猫を飼っていたことを、思い出した。
そうだ。みんなが自分の小説で猫を書きたくなるぐらい、みんな猫が好きなんだった。
だからうちも、こうして猫を飼っているんだった。
「ニャア」
可愛いなぁ。
猫って。
可愛いなぁ。
そうしている内に、時間が過ぎていった――
「晩ご飯用意出来たよー! 早く降りて来なさいー!」
誰だ!!
目を覚ますと、僕を呼ぶ母親の大声がした。
そうだ、母親だった。
気がつくと、僕には母親がいることを、思い出した。
誰もが母親と聞いて思い出す時、すぐに思い浮かんでくるような母親。そんな母親だった。
気がつくと、もう晩ご飯の時間になっていた。
時が過ぎるのは、早いもんだぁー。
「ニャア」
うわ!
猫か。
可愛いなぁ。
そうして、また時間が過ぎていった――
「晩ご飯早く食べないと冷めるよ! もう片付けるよ!」
誰だ!
目を覚ますと、晩ご飯の時間だったことを、思い出した。
僕はその言葉に従って、晩ご飯を食べに降りて行った。
――誰もが晩ご飯を思い浮かべた時、最初に浮かんでくるような、晩ご飯のメニュー。
そんな晩ご飯を食べ終わり、僕は自分の部屋に戻ってくると、突然にアレのことを思い出した。
そうして、僕はまた寝床についた。
――僕は、目を覚ました。
気がつくと、僕はどこかの部屋にいた。
僕は、自分が目を覚ましたことに気づくと、そうして目を覚ますことに気づく自分に、初めて気がついた。
そうやって目を覚ましたことに気づいた僕は、自分が目を覚ましたことに気づいた旨が書いてある、小説の書き出しを読んでいることに、気づいた。
だって、これを読んでいる君も、そうだろう?
「ニャア」
誰だ!!
初の実験作です。解説します。
『目が覚める』『気がつく』『夢から覚める』という様な書き出しから始まる掌編が多いです。
かく言う僕も、そういう『意識を取り戻すと』系のネタはこのサイトで二つ書いてます(内一つは気づいた後なので書き出しを工夫した)。
そうした最近気になってる事を元にして、実験的なメタフィクション(詳しく検索で)で第四の壁(詳しくは検索で)を突破しました。
夢オチ的なラストを匂わせてますが夢オチには批判的な意見もあろう筈なので、夢オチか定かではない構造にしました。
全体的に幻覚的なメタフィクションですが、深読みすると、すぐ寝ちゃう症候群やすぐ忘れちゃう記憶障害ですかこれ。ただ面白可笑しいメタフィクションじゃなく、病人の話として重く取れますね。
何も考えずに賑やかしでコミカルに書いてたら不謹慎かなぁとも思いました。そういう事で一応関連キーワードは入れてます。
更に踏み込んだ解説。
主人公は記憶への依存度が低い記憶薄弱な人です。物事の認知度がスカスカな分、描写を読者の想像に全て委ねてるってメタフィクション性は主人公の精神面に起因します。
特に前者は主人公と読者をリンクさせて=にしていく目論見で、最終的に極めて=になるという仕組みを図ってます。
お笑いでいう所の天丼も盛り沢山に入っています。これ、書いてる時は書こうとすればもっと書けると思いながら書いてました。
けど『~と聞いて誰もが最初に思い出すような』という読者委任描写なんて、自分でもしつこいぐらいだと思います。これ以上やるとクド過ぎるなと。
そういう意味でも1000文字ならではの物です。
タイトルは本来の夢から覚めるという意味合い、主人公と読者がフィクションの世界から目覚める意味にかけてます。