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第3話

「ところで、ドロップキックは教わってたかしら?」

唐突にそんなことを聞かれました。プレデビューの話があってから渡辺さんにしっかり教わっていますが、ちゃんとできてるかはまた別の話なのかな?改めて横田さんに見てもらいます。


コーナーの金具を隠しているカバーの一番上のところをマトにして、腕を振り上げた反動を使ってその場でジャンプ。両足を揃えて自分の胸元まで引きつけてからマトめがけてキック!その後に体をひねって前受け身を取ります。


「うん。威力、高さ、フォーム、着地とまあまあできてるわね。ただちょっと距離感があってなかったかな?止まってる相手にはドンピシャで当たるようにしないとね」

そうですね、ちょっとタイミングが悪くて体が伸びきったところで当たってしまった感じがちょっとしました。これは今後の課題ですね。


「それじゃあ次はキックを受けてみましょうか」

と言われました。チョップであの威力だったのにキックとなるとさらに強くなりそうです。でもここまできてムリです〜とは言えないですよね。


「まあ最初だからそんなに力を入れないし背中で受けさせることもないから安心して」

あれ、不安になったことを気づかれちゃったかしら、そうだったらすみません。でもそんなに力が入らないなら大丈夫かな?どちらにしてもデビューしたら嫌でも受けることになるんだから、今から慣れていかなければなりません。


「じゃあいくわよ?蹴られる瞬間はチョップの時と同じようにね、せーのっ!」

ドスッと体の中まで衝撃が走り、思わずうっとなってうずくまってしまいました。そうだ、豊田さんのタックルを受けた時のことを忘れてましたよ。あの時は2割の力だったのに吹っ飛んでたじゃないですか。私の力を基準にして横田さんの「そんなに力を入れない」っていうのを考えてちゃダメでした。豊田さんとか横田さんとか、もしかしたら上田さんや萩原さんも、2割くらいとか、そんなに力を入れなくても私の全力くらいの力がありそうです。


「ちょっと、大丈夫?そんなに強く蹴ったつもりはなかったんだけど」

「はい、大丈夫です。あまりの力にびっくりしただけです。まだ続けられます」

「よし、よく言ったわね。蹴られる瞬間に目をつぶってなかったのは良かったわよ。あとは飛ばされないようにインパクトの瞬間に胸を突き出す感じで力を入れるのと、いつでも後ろ受け身を取れるように準備をしておくようにね」


先ほどのアドバイスを心の中で繰り返しもう一度確認してから「お願いします!」と声をかけました。

ドスンという衝撃に耐えながらうずくまりそうになるのをなんとか我慢します。さっきのよりかはうまくできたと思いますがどうでしょうか。


「そうやって耐えていけば打撃にも慣れていくし、力の入れ方も自然に体が覚えていくものよ。受け身と同じね」

そこから何回か繰り返して、今のところの合格をいただけると、今度は私が横田さんにチョップしたり蹴ることになりました。自分で言うのもなんだけど大丈夫かな?


「やり方はさっき見てたでしょ?あの通りにすればいいのよ。佐藤さんは人を叩いたり蹴ったことがないっぽいから怖いかもしれないけど、とにかく全力でね。佐藤さんくらいの打撃じゃなんともないから遠慮せずに!カッコ悪くてもいいから!さあ、ドーンといらっしゃい!」


ホントに子供の頃にお菓子の取り合いや見たいテレビ番組が違ってリモコンの取り合いくらいの兄妹喧嘩しかしてこなかったからなー。お父さんもおじいちゃんもすぐに手をあげるようなこともなかったし、今を思えば少しくら蹴飛ばしておいた方が良かったかもしれないです。練習とはいえ初めて叩いたり蹴ったりする人が技を教えてくれる先輩っていうのが引っかかりますけど。遠慮するなとは言ってくれますけどかなり躊躇してしまうのですよ。一応サンドバッグのような物は叩いたりしたことはあるんですけどね。


「いきなりは難しいかな?だったら叩くんじゃなくて軽く当ててみましょうか」

私のモヤモヤした気持ちを察してくれたように提案をしてくれました。本当なら叩かなきゃいけないことなんですけどね、今まで大人しく過ごしてきた私にはちょっとハードルが高いと申しましょうか。


「いい、チョップする時の手は指をくっつけて。体をひねって腕をムチのように振ってインパクトの瞬間に力を入れるの。さあやってみて」

ただ当てるだけだと思うと気持ちがちょっと楽になります。教わった通りにチョップを当てていきます。ノドへの攻撃は急所で反則なのと胸は天然のクッションがあるので効果がなさそうなのでそこらに当たらないように気をつけないといけませんね、そんなことを考えながら繰り返していきます。


「それだと手だけしか使ってないわね。もっと体のひねりもっと生かさないと相手に効かないわよ」

体のひねりと手の動きを連動させてチョップが当たる瞬間に力を入れるっていうのはショルダータックルの時も教わったけど、ずっと力を入れるんじゃないんですね。知らなかったなー。


ふと思ったのですが、立野さんや山田さんも相手を叩いたり蹴ったりする競技じゃなかったから、最初のうちは大変だったかもしれませんね。

「あー、彼女たちは初めからできてたわよ?こっちで教えなくても何の問題もなかったわね。他の子たちもうまくできてたわよ。あの堀田っていう子が一番センスがあったんじゃないかしら?」

な、なんてことでしょう!人を叩くようなこととは正反対にいるであろうアイドルの堀田さんも問題なかったなんて。しかもセンスがいいなんて見かけによりませんね。私ももっと頑張らないと。


次はハンマーパンチを教わりました。前かがみになって横田さんのハンマーパンチを背中で受けます。チョップと比べると鈍い痛みが背中に広がります。続いて胸元へ、息が詰まってうずくまってしまいました。

「どお?結構効くでしょ。でもうずくまってると次に何をされるか分からなくなるからなるべく相手を見るようにしないとね」というアドバイスをいただきました。


それから私から横田さんにハンマーパンチの形で打ち込んでいきます。前腕全体を使って背中や胸元を当てていきます。チョップと同じように腕だけじゃなくて体重を乗せるように当てるんですが、体重を乗せるってどうやるんですかね。教わった通りにやってるんですがなんか違うんですよね、と思いながらしばらく続けていきます。


「まあこんなところでいいかしらね。じゃあ最後に、今日やった打撃技を織り交ぜて軽く対戦形式でやってみましょう。と言っても私が佐藤さんにかけた技をそのままやり返すだけなんだけどね」


そういうとリングの中央に移動して向かい合います。ロックアップからロープに押し込まれ、ブレイクした直後に胸元にチョップを受けました。痛っターイ!ちょっと油断してました。

「さあ戻ってきて!次は佐藤さんの番よ」

リング中央に戻りロックアップをします。横田さんをロープへ押し込み、同じようにチョップをします。これでいいのかな?


「そうよ、その調子。ドンドンいくわよ!」

その場でまたロックアップ、フライングメイヤーで投げられたと思ったら背中にキック!息が詰まるのを我慢して何とか立ち上がりロックアップからフライングメイヤーで投げて私がキック!横田さんはスクっと立ち上がりロックアッ…かと思ったらお腹を爪先でちょこんと(でもそれなりに痛かった)蹴られ、うずくまったところに背中にハンマーパンチ!

何それ、爪先のキックは教わってないんですけど?と思ったけど何とか立ち上がり横田さんのお腹にキックからハンマーパンチで...って、うずくまってくれませんよ?それどころか、どうしたー、効いてないぞー、かかって来なさい!みたいに両手を広げるジャスチャーをして私を見ています。


もう一度さっきより強めにキックすると少しうずくまってもらえたのですぐにハンマーパンチ!

「そうよそうよ、1回目でダメなら何回でも繰り返すの。まだ続けるわよ」


そう言って私をロープに投げて、返って来たところにチョップを打たれたりヒザ蹴りを受けたり、同じように技を返していくうちにだんだんと腕や足が痛くて重くなってきました。横田さんと叩くのが怖くて、いわゆる寸止めのようにしていたのがいつの間にか本気で叩いたり蹴ったりしていたようです。叩かれたところも叩いたところも痛くなるなんてプロレスって厳しいなー。


それでも横田さんは技をかけ、私は何とか返していく状態が続けていましたが痛いのと苦しいのでとうとうマットにうずくまるように倒れてしまいました。すると、左肩あたりを足の裏を使って押すように蹴られ、ひっくり返されてしまいます。


「ホラ、こちらを見てないと。疲れてるのも痛いのもわかるけど相手が次に何をするか見ないとって言ったでしょ?」


それをこの疲れてる状態でもしないといけないってことですか。セコンドで先輩たちを見ていると、うつぶせに倒れたらすぐに仰向けになるのってどうしてなのかなーって、そのまま倒れてた方が楽なのになーって思ってたんですよ。そういう事だったんですね、また勉強になりました。


その後、ちょっと休ませていただいてから最後の仕上げとばかりにとスパーリングを続けていきます。倒れた時はすぐに仰向けになるのもきちんとできてると思います。思いますけど、せっかく仰向けになっても蹴られるんですね。でもどこを蹴られるか分かるのでちょっとだけ怖くないし力を入れられるので良かったと思います、痛いけど。


「未来〜、そろそろ時間よー」「はーい、最後にひとつやったら終わりにしまーす」

横田さんと渡辺さんのそんなやりとりに、疲れたー、もうそんな時間かーと思っていると

「最後にその場跳びでいいからドロップキックを打ってみて」

と言われました。とにかく今残ってる力を振り絞ってやってみますが、ドロップキックとは言えないお粗末な技になってしまいました。ジャンプしても横田さんの胸元に届いてません。


「試合の終盤でも胸元に当てられるように体力とスタミナも鍛えるようにね。それじゃあお疲れ様ー」


ヘトヘトになりながらありがとうございました、と横田さんを見送ってからリングを降りて次の準備をしていきます。あれ?何だか右腕と右足がプルプルしてきましたよ。あれかな、急に叩いたり蹴ったりしたからでしょうか、思った以上に負担だったんでしょうかね。

次話は12月15日を予定しています

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