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初勝利するまでの話 その2 第1話

いつもと同じリングなのに今日はなぜか不安でしょうがないです。一番下のロープをまたいでリングに入ると、思った以上に大きく感じてしまいます。そして今まで意識してなかったんですけど、どこに何があるかとかスタッフさんの姿や表情とかよく見えます。

そこに渡辺さんがリングに入ってくると一層不安感が高まってきます。緊張かな?


「今日の課題はいつものスパーリングがいつも通りできることと、お客さんを気にしないこと。どお、難しくないと思うんだけど」

それなら何とかできそうだと思ったのでちょっとだけ緊張がが和らいできます。


「それでは始めましょうか」「よろしくお願いします!」

頭がぶつかりそうな距離で両手で牽制し合いながら足を捕まえようとしたり腕を掴んで後ろ側に回り込もうとしたり、毎日練習している動きにプラスしてデビュー戦に向けてより実践的な動きで渡辺さんに立ち向かいます。と言っても九割くらいは私が技をかけられそうになってどうにかこうにか極められないように必死に逃げている状態なんですけどね。


お客さんのことを気にしないと意識しながら渡辺さんの動きに負けないようにスパーリングをしていくと、ふと渡辺さんの力が抜けたような気がしたのでここだ!と思って技を切り返し私から攻めていくと、腹ばいになった渡辺さんを上から押さえつけています。おお!こんなこと今までで1回もできたことなかったのに、今日は調子がいいのかもしれない。と思って目線を上げるとお客さんがこちらにスマホを向けているじゃありませんか!や、ちょっと!

一瞬動きが止まったかと思うとクルッと体を入れ替えられて私が下になって腕と首を絞められています。苦しくなってすぐにタップしました。


「せっかくいいところまでできてたのに集中力を切らしたらダメよ。言ったでしょ?お客さんを気にしないようにって」

こういうことだったんですか。いきなりお客さんが目線に入ったから緊張しちゃいましたよ。


「気を取り直してもう一度ね、さっきの動きは悪くなかったわよ」

お客さんを気にしないようにと思いながらスパーリングを繰り返していきます。動きは悪くなかったようなのでまずは集中して渡辺さんに向かっていきますが、それでもお客さんが席を取りに行く時の動きとか大きな音を立てて荷物を置いたりするとどうしても気になってしまい渡辺さんに注意されてしまいます。初めのうちはスパーリングを止めて言葉で注意してくれていたのですが何度も続けて注意されてしまいます。それでもお客さんを気にしているといつの間にか腕が曲がらない方向へ曲げられようとしたり、リングの方に向けてないのにスマホを操作しているお客さんを気にしていると間髪入れずにヒザを足と手を使って極められたり、ちょっとでもスパーリングの動きが鈍くなるとあっという間にスリーパーホールドで極められてしまい、思わずタップしてしまいます。気にしなければいいんでしょうけど、どうしても気になっちゃうんですよね。気にしなければ緊張しなくていいはずなのに。


「他に気を回す暇があるなら私の技なんてどうにか切り抜けられるんじゃな〜い〜?」

なんて笑顔で言われたもんですからもう怖くて怖くて。それからちょっとずつですけど周りを気にすることなくスパーリングを続けていけたのでしたが、それでも視線を感じてしまうと緊張しちゃいますね。

自分で言うのも何ですがこれは時間がかかりそうですよ。




次の日、今回は豊田さんが指導をしてくれるようです。本日の課題はショルダータックルを耐える、倒されても受け身を取ったらすぐに立ち上がる、だそうです。もちろんお客さんを気にしないというのも入っています。


あら?なんか今日はお客さんの人数がいつもより多い気がします。そこに横田さんが現れたことで席についているお客さんの目を引き、いやでも注目される状態ができあがってしまいました。それは私じゃなくてトレーニングウエアでも分かる豊満なお胸になのは分かるんですけどどうしても気になっちゃうんですよね。それにしても入場するのが早すぎやしませんかね?自由席のため早い者順というのもあるかもしれませんが。それはそれでありがたいことなんですけども。


「ほら、お客さんばっかり気にしているとケガするわよ?まずは2割くらいでいくから歯をくいしばってね」

と言って2、3歩下がり、そこから軽く助走をつけてからタックル!ドスッという音とともに左胸から肩にかけてびっくりするくらいの衝撃!まさか右の肩から先が取れたんじゃないかと思ったのは無意識でもきちんと受け身を取れた後のことでした。真面目に練習しておいて良かったと、この時ほど思ったのは初めてかもしれません。ひとつ間違えたら後頭部を打ち付けて首とか背中とか痛めてしまったかもしれませんよ本当に。


「体がぶつかる瞬間に自分から体をぶつけるように力を込めないと。さあもう一回、すぐに立って」

自分からぶつかるようにっていっても豊田さんの迫力に負けちゃいますよ、そんなこと言ってもしょうがないんですけどね。


「じゃあいくわよ」と再び助走をつけてからタックル!力を入れてグッと耐えようとしても突き上げられるように吹き飛ばされてしましました。

「ほら、目をつぶってちゃダメでしょ。相手とぶつかる瞬間を見極めないと無駄な力が入っちゃうわよ、そしてすぐ立つ!はいもう一回」


その後も何度もショルダータックルを受けていくのですが、本当に本当に受け身の練習をしっかりやっておいて良かったと思いましたよ。それでも何回かは後頭部を軽くマットにぶつけてしまってたんですから。あと、とにかく左の胸から肩が痛いです。骨という骨が全部外れてるんじゃないかと思うくらい何度もぶつかり合ってましたからね。でも豊田さんは本来の2割くらいの力しか出してないそうですから今の私が全開のタックルを受けたらどうなってしまうんでしょうか。

「次は晴子がタックルをしてきて」

と言われたので、肩周りの感覚がうっすらと感じなくなってましたけど豊田さんと同じように2、3歩下がりドスンとぶつかるようにタックル!

「ふんっ!」と耐えられたと思ったら私の方が倒されてしまいました。あ、あっれー?


「どうしたの、もっと思い切ってぶつかってこないとダメじゃない」

と指摘されてしまいました。おっかしいなー、自分なりに思いっきりぶつかっていったんだけどなー。そこから立ち上がり、気をとり直してもう一度タックル!

またもや弾き飛ばされてしまいました。


「うーんとねー、タックルをする瞬間に力をガッと込めないと。助走の勢いのままガーッとじゃダメよ。さあもう一回」

ぶつかる瞬間に力を入れるのは相手がぶつかってくるのも自分からぶつかるのも同じか〜、なんて思いながら気をつけて、心の中でせーのって言いながらドン!と豊田さんにショルダータックルをするもあっけなく弾き返されてしまいます。うーん、なんでだろう。


「今のはちょっと良かったわね。もっと力強く遠慮なんてしなくていいんだからもっとガツンと来なさい。じゃあもう一回」

自分では力を込めたと思ったけど豊田さんには全然効かなかったみたいです。それじゃあとロープまで下がって勢いをつけて。そしてぶつかる瞬間にドン!と踏み込むように力を入れてみます。


「そうそう、その感じを忘れないでどんどんいこうか!」

それから何度も何度もショルダータックルを繰り返していくと、そろそろ試合が始まりそうになったところで本日の公開練習が終わりました。


「はいお疲れー、だんだん良くなってきてるから今日のことを忘れないようにね。じゃあ試合があるからこの辺です。いいウォーミングアップになったわ〜」

と、どこも疲れてないかのようにリングを降りて行きました。ほんの数十分くらいでしたけど私は疲労困ぱいで、この後のセコンドの仕事に影響がでないか心配です。そんな私と比べるのも変ですが豊田さんの体の強さとスタミナに驚きながら試合の準備をしていくのでした。


その日お風呂に入る時、力が入らないから服を脱ぐのも着るのも大変だったし左胸から肩にかけて青あざができていてびっくりしました。全く、どこぞの遊び人の金さんじゃないんだから。こんなところに桜吹雪みたいな青あざができなくてもいいのに。


次話は11月25日を予定しています

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