表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/234

第18話

コスチュームのサイズを測り終えると、着替えてからその場で和やかにお茶をしてから道場へ戻ります。


それにしても、今思い返すと、下着姿で靴を履いた格好で泣いちゃうなんてすごく恥ずかしいしかったですね。でもあの時はいきなりのことだったし、しょうがなかったと思うんですよ。ただ、上田さん以外に見られなかったのは良かったのかな?


それにしてもなぜ、デビューもしてないこの時期にサイズを測ったかというと、コスチュームやガウンを1着作るのに早くて3ヶ月はかかるそうなので、今のうちから準備をしていくのだそうです。私のイメージやファイトスタイル、好きな色や柄や素材を取り入れていただけるそうなので後から色々変更することもあるそうです。コスチュームとは違うけど、その人がどのようになりたいか、生地選びから裁断から仮縫い、縫製(しかも全て手縫い!)、その他にも裏地をつけたりパットをつけたりポケットやボタンホールまで付けて、シャツやネクタイ、靴まで全てのコーディネートを完成まで2週間くらいで男性用のスーツを作っちゃうという、イタリア・ナポリ仕込みの職人さんがいる訳じゃないですからね。噂によると仕事中でも就寝中でもお構いなく仮縫いのためにやってくるとか来ないとか。そんなの都市伝説ですよね?


道場に戻って様々な雑用をこなしながら、いつデビューの話をしようかとタイミングを狙っていると

「晴ちゃん、デビューが決まったみたいね、おめでとう。それでいつ頃になるの?」

と工藤さんが逆に聞いてきました。な、なによもう、自分から言おうかと思ってたのに!その話は皆さんに伝わってたりするんですか?


「何言ってるのよ、晴ちゃんが帰ってきた時から分かっちゃったわよ。呼び出されたときと比べると何かそわそわしてるし態度も表情も違うんだもん、隠してたつもりかもしれないけどバレバレだったわよ」

あちゃー、態度に出ちゃってましたか。そこに堀田さんがやってきて


「あの時間に上田さんに呼ばれたってことはそういう事だったんでしょ?これは内緒にしてたんだけど私たちもデビューが決まる前に呼ばれてたのよねー、気づいてなかったでしょ」

ニヤニヤしながらヒジで突かれました。はい、気づかなかったです。


その後には立野さんと山田さんからもデビューのことを聞かれて

「でもこれからが本番だから気を引き締めて」

「これで5人揃ったことですし、まず手始めにこの団体のトップを全員倒して、それを足がかりに世界征服を目指しましょうねっ!」

ねっ!て仰られてもですね、そうですねとは簡単に言えないんですけども。とにかく喜んでいただけたようです。その期待に応えられるように練習を頑張っていこうと思うのでした。


次の日、朝のミーティングが終わる頃に

「はいみんなちょっと注目〜。今度、ゴールデンウィークの最終日の大会で練習生の佐藤さんのプレデビューが決まりました。それじゃあ佐藤さん、前に来て」

と、上田さんに呼ばれて皆さんの前に立ちます。そして簡単な自己紹介とこれからの意気込みを発表することになりました。

「今度デビューすることが決まりました佐藤晴子です。体力とか技術とか、まだまだ足りないことが多いですけど一生懸命練習をして少しでも同期の皆さんに追いつけたらと思います。よろしくお願いします」


「これで練習生が全員デビューすることが決まりました、佐藤さん場合だけちょっと特殊な方法になっちゃったけどね。これで人数も増えて色々面白いことができそうね。みんなもウカウカしてると追い抜かれちゃうかもしれないからね?そして、新人の子たちもお互い切磋琢磨してどんどん強くなって早く私たちのところまで来てちょうだい。まあ、そう簡単にいかないと思うし、いかせない自信はあるけどね」

パチパチパチパチと軽く拍手が起こり、上田さんの掛け声でミーティングが終わりそれぞれの練習のために各自向かっていきます。はぁーーー、緊張したーーー。


同期の皆さんに囲まれて改めてお祝いの言葉を受けていると、豊田さんと渡辺さんがやってきてこれからもっと大変になるから頑張りなさいね、みたいな声がかけられました。その時「佐藤さん」とか「晴子」とか呼ばれたのにはちょっと違和感がありました。それまでは「おーい、ちょっと」とか「そこの練習生」としか呼ばれていなかったんですよ。名前を呼ばれた・覚えてもらえたってことは、やっと皆さんに認められたんでしょうか。そう考えると嬉しいですけど、プレデビューって何でしょうかね?


そして週末の大会、開場前に渡辺さんからから呼び出しを受けたので急いでリングへと向かいます。私のやっていたグッズ販売の準備は一旦スタッフさんに代わっていただきました。


「じゃあ今からスパーリングをするから準備運動を始めて」

え?一体どういうことですか?


「ほら、時間は限られてるのよ?すぐに準備しなさい!」

急いでリングの周りを走ったりストレッチをしたり体をほぐします。本当に一体何が始まっちゃうんだろう、不安しかないです。


「じゃあそろそろ会場の時間だからこちらも始めましょうか」

始めましょうか、って何をですか?そんなことを考えながら渡辺さんの言葉を待ちます。


「晴子は先日のイベントの時、緊張しすぎて何もできなかったでしょ?それで私たちは考えたのよ。同期のみんなが人前に出ても緊張した様子がなかったから晴子もそうだと思っちゃったけど、そうじゃなかったのよね」

ははは、やっぱり問題になってましたか。人の目線が集中するのってあんなに怖いことだと思ってもみませんでしたよ。


「そこでね、人前に出るのに慣れてもらうために、会場した直後のお客さんが少ない状態でスパーリングをして、徐々にお客さんの目に慣れてもらおうかと思ったのよ」

スパーリングですか、それはウォーミングアップが必要になりますよね。でも少ないとはいえお客さんがいるのはちょっと恥ずかしいかもしれません。


「最初はプレデビュー戦を終えてからそうしようかと思ったんだけど、だったら今のうちから始めた方がいいんじゃないかと思ったのよ。こういうのは回数を重ねた方がすぐに慣れるんじゃないかなと思ってね」

確かにそうかもしれませんけどーーー


「っていうかするんだけどね。ただ、無理強いはしたくないけどプロとしてリングに上がりたいと思うのなら今のうちに覚悟を決めないとダメよ?緊張するのは仕方ないからどこかで吹っ切らないと」

そうですよね、お客さんの目が怖かったらデビューできないですもんね。あの駅前のお客さんの中で見たキラキラしたリング上での戦いに憧れてプロレスラーを目指したんですもんね。


「はい、頑張ります!」

「よし。まあ肩の力を抜いていつも通りやってれば問題ないところまで来てるんだから大丈夫よ。それに毎回練習前に課題を出すから、それに気をつけながらやっていけば周りの目なんて気にしてるヒマがなくなるわよ」


え?っていうことは実力的にはデビューしても問題ないレベルってことですか?問題は緊張しすぎるのだけってことでいいんですか?


「こちらも初めてのことだからやってみないとわからないことが多いけどね。ちゃんと練習もできるし人の目線にも慣れるしお客さんも試合前のヒマつぶしにもなるし、悪いことの方が少ないと思うのよ」

そうかもしれませんけど、お客さんのヒマつぶしになりますかね?


「うちのお客さんを侮っていたらダメよ?ちょっとマニアすぎてこういうのは大好物なんだから。そしてどんな些細なことも見逃さないわよ。練習生の売店の仕事姿もセコンドの動きもチェックしてるわよ?将来ちゃんとデビューできるのか、どんな選手になるのか期待を膨らませながらね」


え〜〜〜!そんなところまで見てたんですか!それはちょっとどころじゃなくマニアックすぎますよ。でも応援していただいてるのは嬉しいですね。


「納得できたかしら。ではこれから30分間、休みなしでスパーリングを始めまるわよ。じゃあリングに上がって」


そんな感じで私が何となく思っていたのとは全くかけ離れたデビュー前の練習が始まるのでした。

ここのところ、風間ルミ選手、さいとうたかを先生、BADBOY非道選手の訃報が続き、ちょっとげんなりしています

謹んでご冥福をお祈りいたします

そんな中に嬉しいニュースも飛び込んできました

富野由悠季先生が文化功労者に選ばれました おめでとうございます

次話は11月15日を予定しています


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ