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第13話

堀田さんと控え室へ戻ると次は工藤さんの誘導するための準備をしていきます。戻ってくるなり床に倒れこんだ堀田さんのことが心配だしどうしよう、なんて思っていたら「こっちは私たちが見ておくから工藤さんのことを優先して」と立野さんに言われました。その次に試合があるのにお手間をかけるようで申し訳ないんですけど「このくらいの事任せてくれてもいいんですよ」と山田さんにも言われたのでお願いすることにしました。


工藤さんは立野さんたちのデビュー戦であんなに緊張していたから本人のではどのくらいだろうって思ってたんですが、ご本人曰く「緊張はしてるけど自分のことだと何とかなるもんね」ということです。


そんな工藤さんのコスチュームは黒です。そこにヒジ当てやシューズが黒なので堀田さんと色違いで全身が統一されているように見えます、装飾はありませんが。

豊田さんの入場曲が場内に流れると工藤さんの入場です。顔をパンパンと2回叩いて気合いを入れると「晴ちゃん、いきましょうか」「はい、お願いします」とリングへ向かいます。


リングに上がると場内のお客さんに向かってお辞儀をして、青コーナーに控えてボディチェックを受けながら豊田さんを待ちます。

フードを深く被り、ガウンをなびかせながら豊田さんが入欧してきました。リングに登るとフードをどかして場内を一瞥し、トップロープを掴むと軽く跳び越えてリングの中に入ってきます。


「本日の第二試合、20分1本勝負を行います!青コーナー、160パウンド〜、工藤〜、えり〜、か〜〜〜」「赤ーコーナー、145パウンド〜、豊田〜、えつ〜こ〜〜〜!」


選手紹介が終わり紙テープを片付けるといよいよ試合開始です。リングの中央で工藤さんから差し出した手を豊田さんが握り返すと各コーナーに下がります。


「レディー、ファイっ!」「カーン」

豊田さんがリングの中央で待ち構えているところに工藤さんがゆっくり向かいロックアップ!体を左右に揺らしながら豊田さんに押されるように下がりロープブレイク。一旦離れて再びリング中央でロックアップ!今度は工藤さんが豊田さんをグイグイとロープまで押し込んでいくと、お客さんから「ハレ、ハレ!」なんて聞こえてきたんだけどなんでしょうか。


ロープの反動を利用して体を入れ替えた豊田さんが工藤さんを反対側のロープに投げます。返ってきたところにショルダータックル!ドシーンと大きな音がしてお客さんがどよめきます。お二人とも倒れない中で工藤さんがロープに走り、待ち構えていた豊田さんにまたショルダータックル!「カモーン!」と工藤さんに声を掛けてますが、そこは日本語でもいいんじゃないかと思ったり。

なかなか倒れないとみるや、工藤さんがまたショルダータックル!ビクともしない豊田さんでしたが、何度も何度もあらゆる方向のロープに走りタックルを繰り返していくと、何度目かのタックルで豊田さんを倒し、うっしゃー!と声をあげてガッツポーズを取る工藤さん。見ていたお客さんもすごい衝撃にお客さんもびっくりしながらも拍手と声援で大盛り上がりです。盛り上がるのはいいんですけど、あんなのちょっとした交通事故じゃないですか!


悔しそうにマットを叩き、頭を押さえながら起き上がる豊田さんはひと息つくと、手を出して何かを誘うように待ち構えます。工藤さんは両手で指と指を合わせるように組合うと胸を付き合わせ力くらべを始めます。フンムッ、とかぐぬぬぬ、とか言葉にならない声が聞こえてきます。お互いに体を揺らしながら歯を食いしばって力くらべをしていると豊田さんが上から押し付けるようにさらに力を込めていきます。ヒザをついてこれ以上押し込まれないように耐える工藤さん、首筋から汗が流れていきます。が、だんだんと巻き返し立ち上がると、組んだままの両手を広げ豊田さんのわきの下に頭を突っ込み、そのまま強引に持ち上げて後ろに倒れました!ゴロゴロとリングを降りる豊田さんが後頭部を気にしながらリングの外を歩いて呼吸を整えていきます。工藤さんはゆっくりと立ち上がりますが、ロープに寄りかかっていているところを見ると、体力をかなり消耗してしまったようです。


豊田さんがリングに戻ると何度目かのロックアップ、ロープまで強引に押し込むと逆水平チョップ!バチーンと場内に響き渡るほどの大きな音がしました!その音ににどよめくお客さん。工藤さんは痛みに耐えながら胸元にハンマーパンチを打ち返しますが豊田さんに効いてるように見えません。3発、4発と打ち込んでも豊田さんの1発のチョップで返されてしまいます。その度に響き渡る音。チョップの衝撃で汗が霧状に広がって照明に反射してなんだか幻想的です。苦しそうに胸を押さえている工藤さんに申し訳ないけどそんなことを思ってしまいました。


ぐったりしている工藤さんをリングの中央まで引き戻すとまた胸元にチョップ!やり返す体力もなくなってしまったかその場に倒れてしまいました。マットを叩き必死に工藤さんを応援しますがなかなか立ち上がってこれません。

豊田さんは首を持って立たせると、工藤さんはその手を振り払っていきなり張り手!豊田さんが怯んだところにお相撲のハッケヨイの体勢から頭から体当たり!ロープまで吹き飛ばされ、戻ってきた豊田さんをボディスラムの要領で持ち上げた体勢のまま、一番近くのコーナーに走りこんで体当たりのようにぶつけました!そして担いだまま反対側のコーナーまで走り同じようにぶつけ、最後にリングの中央に自分の体重を預けるように倒れ込み(※1)そのままフォール!


「ワン、ツー、」カウント2で肩をあげる豊田さん。「おおー」っとお客さんからも歓声が上がり、それに負けないように私も応援していきます。そこから豊田さんを立たせると、喉元を右手でつかみ、左手でコスチュームの腰のあたりを掴み、持ち上げて背中から弧を描くようにマットに落としました!(※2)そしてフォール!

「ワン、ツー、スッ」カウントギリギリで豊田さんは肩をあげました。


これで決めようと思っていたんでしょうか、工藤さんは天井を見上げながら悔しそうに大きな声を出しました。そこから自身に気合をいれるようにも一度声を出すと、立ち上がってコーナー近くでさっきのお相撲の体制になって豊田さんを待ちます。ふらふらになりながらも立ち上がろうとする豊田さんの様子を見てからロープに走り、その勢いでショルダータックルを…あっ!、逆に豊田さんが走りこんで工藤さんにラリアット!ほとんど警戒をしてなかった工藤さんは受け身をしっかり取れずにマットに倒れ込みました。間をおかずにすぐにフォール!


「ワン、ツー、スっ」っとカウントギリギリで返した工藤さんですが、本人もどうなったのか分かってないんじゃないかしら、目がうつろでどこを見ているか分かりません。それでもなんとか立ち上がろうとしているところに豊田さんが近づくと工藤さんの後頭部の髪の毛を掴んだかと思うと、ウオーっと叫んだかと思うとその場でラリアット!(※3)そしてフォール!


「ワン、ツー、スリー!」「カンカンカン」「10分45秒、10分45秒、ラリアットからの体固めにより豊田エツ子選手の勝ち」


呼吸をするのを忘れていたか、3カウントが入ったと同時にフーっと息を吐きます。手は汗でびっしょりです。そのくらい緊迫した試合をこんな直近で見ちゃったわよ。アナウンサーの放送で我に返ると、豊田さんの曲が流れる中リングに上がって工藤さんを介抱します。


胸元や後頭部に氷のうを当てていると豊田さんが近づいてきました。それに気づいた工藤さんは何度も倒れそうになりながら立ち上がると豊田さんが右手を差し出します。工藤さんがそれと握手するとお客さんから大きな拍手が起こったってことは、工藤さんの戦いが良かってことでしょうか。豊田さんはその手をあげてリングの四方に見せるように一回ゆっくり回ると本部席にマイクを要求しました。


「えー工藤選手、デビューおめでとう。いいよ貴女、細かいテクニックは必要だけどその体格を生かした戦い方は今の女子に少ないからね、そっち方向を目指していけば面白いことが起こるかもしれないよ。でもがむしゃらで一直線なのはキライじゃないけどそれだけじゃダメよ。そこができるようになったらまた戦いましょう」


そう言ってからリングを降りて悠々とお客さんとハイタッチを交わしながら退場していきます。工藤さんはその姿をリング上で見送った後にもう一度お客さんにお辞儀をしてからリングを降ります。お客さんから「良かったぞー」とか「これからも頑張れよー」とかの声を聞きながら控え室に戻ります。工藤さんはこんなにヘロヘロなのに豊田さんは余裕があるように見えるのが本当に信じられない体力です。


「次は晴ちゃんの番ね、頑張らないとね」と頭を押さえながら私のことを気にしてくれていますが、今はご自分の体のことを考えてくださいよ。足取りは重く体中は痛くてたまらないでしょうに、それでもその表情はちょっと誇らしげで柔らかい笑顔だったのが印象的でした。


※1 スティーブ・ウィリアム式オクラホマ・スタンピートみたいな技だと思ってください

※2 喉輪落としみたいな技だと思ってください

※3 ショートレンジ・ラリアットみたいな技だと思ってください

次話は9月25日を予定しています

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