第8話
先ほどの更衣室で軽く汗を拭き着替えていると、女子相撲日本一の方が私の方にやってきた。
「あのー佐藤さんでしたっけ?さっきのキューティー5よかったですね、私も好きだったんですよー。懐かしかったなぁ」と声をかけてくれた。まさかそんな人がいるなんて思わなかったからちょっとびっくり。
「いえいえありがとうございます。そちらもすごい股割りでしたね、痛くないんですか?」
「なに言ってるのよ、股割りなんて最初だけよ痛いのは。後は毎日続けていけば誰でもできると思うわよ。あ、私は工藤江利香、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします。それにしても他の皆さんも運動経験がすごいですね」
なんか私だけ場違いなんじゃないかって気になりだしてきた。プロレスラーとしてデビューしたらみんな同期になるわけだからすぐに置いていかれるんだろうなー。特に私は運動経験がないから他の人たちより色々覚えることが多そうだからデビューも遅くなるかもしれないなー。
「ちょ、ちょっと佐藤さん、聞いてる?」
「….っはっ!すみません、なんか急に不安になっちゃいまして」
「大丈夫?とにかく頑張りましょ。そろそろ時間よ」
着替え終わって更衣室を出るとテーブルと椅子が人数分並べられていた。折りたたみのパイプ椅子と事務用のちょっとくたびれた折りたたみの長テーブル。
「はい、では受験番号に関係なく席についてください。手荷物は足元に置いてください」
ぞろぞろと集まって席に着く。受験番号は関係ないと言われたけどなんとなく番号順になってしまった。
「え〜本日は入団テストお疲れ様でした。今ここに残っている皆さんは合格となります」
うおっ!っと私だけ声が溢れちゃったみたい。なんかスミマセンうるさくしちゃって。だって嬉しかったんだもん。合格を目指して頑張って来たんだもん、ちょっとくらいはいいじゃない?まわりをチラ見すると他の人たちは「合格するのは当たり前じゃん」て感じだったなあ。でも工藤さんは喜んでるみたい。同じような感覚の人がいてちょっと安心。ウキウキを隠しながら席についてると先ほど面接をしてくれた方が何やら持ってきた。
「え〜こちらの書類を一人一部取って隣の人に回してください。全員に渡りましたか?それでは簡単に説明しますので目を通しながら聞いてください。」
それは今日からこの団体の寮に入るまでの日程表とそれに関わる持ち物や手続きの一覧表、それに寮に入るための承諾書や雇用契約書が用意されていた。
「今回は入団希望者が多かったので今日と別の日と分けてテストを開催しています。それで両日の合格者と合同で入団説明会と入寮式を二ヶ月後に行いますのでそれまでに引越しなどの必要な手続きをお願いします」
合格者は私たちだけじゃないのか〜。やっぱりどこかの代表になれそうな格闘技経験者やスポーツ経験者さんが多いのかな。そこまでじゃなくても関東地方で上位の成績とか県の選抜といるんだろうか、いるんだろうなぁ。合格はしたものの夢や希望より不安の方が強くなってるよ私、どうしよう。
あ、そういえばおじいちゃんが「プロレスは独特の動きやお客さんにどう見せるかとか色々考えないといけないから格闘技経験者でも戸惑うこともあるんじゃよ。逆にその経験が邪魔になることがあるかもしれん。技術や体力や勝敗も大事じゃがそれだけじゃないんじゃよ。まあ何もないよりは何かあった方がいいのかもしれんがのう。だからお前はそんなこと気にせず人より時間がかかってもお前なりに頑張ればいいんじゃよ」ってね。まずは他の人のことは気にせずに自分のことだけ考えていこう。
正式に入団するまで二ヶ月あまり、私にできることは何なのかを考えて準備しながらその日を迎えるのです。
行政からの依頼とか無料と言いながら高額な修繕費を請求する、悪質な屋根修理の強引な勧誘に気をつけてください。頑張ろう千葉。
次話は10月15日を予定しています。