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第11話

元旦の朝は初日の出をを見ることもなく、特に予定がないのにも関わらずいつもの時間に起きて朝食の準備をします。工藤さんに「明けましておめでとうございます」と挨拶をしたものの、昨日の夜も一緒だったからなんか不思議な気分です。年明けの瞬間は屋台でおでんを食べてましたからね。


食堂で立野さんたちがすでに作業をしていたので新年のご挨拶と朝食の準備のお手伝いをします。といってもお雑煮用のお餅を焼くだけなんですけどね。ちなみにお餅とかお節とかは前日のうちに前田さんが届けてくれました、いつもありがとうございます。


朝食が終わった後にソファーでまったりしながら、チャンネルを変えながらテレビを見てます。全国各地の初日の出レポートとか新春初笑い番組とかドラマの再放送とか英語を使っちゃいけないボーリング大会とか、いつもと同じような番組だったのでCS放送の格闘技専門チャンネルを見ることにしました。


その番組の1コーナー「プププププ・プロレスコロシアムっ!」の中で、昨夜の年越しプロレスのダイジェストが放送されてました。どうやら全10試合、総勢50人を超えるレスラーの皆さんが出場し、試合終了まで5時間以上もかかったそうです。選手も大変だったけど、それを運営するスタッフの皆さんや観戦するお客さんも大変だったろうなーと思います。しかも試合の最中に新年を迎えることになるらしかったので、その試合を一時中断してまでカウントダウンをするというちょっとしたハプニングがあったみたいです。他には起田さんの5番勝負最終戦があったり、好きな凶器を各選手が持ち込みOK・反則なしの試合があったり、リングの中でも外でも客席でも売店の中でもいいからフォールを3カウントを取っても試合(しかもチャンピオンベルトがかけられていた!)などがあったりと、各団体さんが思考を凝らした試合を用意したおかげでかなり面白い大会だったらしく、お客さんもかなり楽しんでいたようです。凶器の持ち込みをする試合は痛そうだから嫌だけど、他の試合だったら私も参加してみたいなあ、なんてね。しかもこの大会って毎年恒例だったなんて知らなかったなあ、世間は広いなあ。


他にも元旦から試合がある団体さんの選手がゲストで来て、今日の試合の意気込みや簡単なインタビューをされてたり、4日に行われる老舗団体のドーム球場大会の勝敗予想(なんとタイトルマッチが6試合もあるらしい!)などが放送されてました。


「悪い、ちょっと体を動かしたくなってきたわ」と立野さんが言うと「そうですね、ちょっと道場へ行きましょうか」と山田さんが反応し、工藤さんと堀田さんが「そうよね、よその人たちがお正月関係なく動いてるんだものね」「デビューを控えてる私たちがのんびりしているわけにいかないわよ!」とテレビを見て触発されたようです。実は私もこういうのを見てて、お正月とはいえゆっくりしてていいのかなって思ってたところだったから皆さんも同じようなことを思ってたので安心しました。とはいえ、休みなのに何かあったら事務所の人とか先輩たちに迷惑をかけるんじゃないかな。


「じゃあ10分後に着替えて道場に集合ってことで。ケガをしないように軽く体を動かす程度にしておきましょうか」

立野さんがそう言うとそれぞれ部屋に戻っていきます。

「寒いからウォーミングアップは長めにして打撃や関節の取り合いとか危ないことはナシで、それでは始めましょう」

と、ストレッチや体操などで体を温めた後にスパーリングを始めていきます。安全のためにまず2人がスパーリング、1人がレフェリー兼危なくなったらストップする係兼タイマー係、1人がリングの周りをランニング、最後の1人が器具を使ったトレーニングを始めます。5分経ったら少し休憩して、順番に入れ替わりながらおこなうようになります。こんなことをすぐに思いつくなんて立野さんてすごいなあと思いました。もしかしたら他にもまだまだありそうです。


お正月休みも終わり、今日から先輩たちも集まると簡単に新年の挨拶と来週からの試合のことや説明など、いつものような日常が始まります。道場で挨拶した後は上田さんと萩原さんは商店街へ新年のご挨拶回りだそうです。そしてそこの日から堀田さんは週に1日だけ道場の練習から離れるそうです。こっちはこっちでアイドルとしてのこともあるのかな?とても忙しそうです。


そうそう、立野さんたちがデビューをしてから試合のバリエーションが増やせたようで、渡辺さんたちがどのような対戦をすれば新人を育てられるか、他の選手にどのような影響を与えられるか、どうしたらお客さんに喜んでもらえるかなど、試合の組み合わせに嬉しい悲鳴をあげているそうです。


そんな立野さんたちですが、すごく頑張っているのですがなかなか勝てないでいます。シングルマッチでは純粋に先輩との力量に差があるからだろうし、タッグマッチだと集中的に狙われています。でもその中から少しずつ何かを吸収しているようで、段々とですが持っている実力の片鱗がかいま見えるようになってきてるんだとか。と、横田さんが言ってました。


11月はそんな感じで過ぎていき、12月の終わり頃になると先輩たちをもう少しで3カウントを取れそうになるところまで来たり(だいたいが立野さん)とかギブアップやレフェリーストップを取れそうになるなど(特に山田さん)ホントにもう少しのところまで来ています。その時のお客さんの反応といったら!「いけいけいけっ!」とか「もっと絞れ!」とか「休むな!次、次!」とかそりゃあもう大盛り上がりで大盛り上がりで!しかしロープに逃げられた時や技が解かれた時には会場全体から「はあ〜〜〜」とため息が漏れたものです。新人が先輩に初めて勝つところなんてなかなか見られないですからね。


その中で特に気になったのは同じ技でも力の入れ方を変えて対戦相手に油断させるとか、カウント2になったらさらに力を入れて抑え込むとか、フォールをするときもただ覆いかぶさるだけじゃなくてアゴを押さえて動きにくくしたりとか片エビ固めの時に自分の腕と相手の腕を絡ませて身動きを取りにくくしたりとか色々と変化をつけているらしい。と渡辺さんが言ってました。そんな状況を見たり対戦していた宇野さんと中野さんは次の日からさらに練習に力が入るようになったようです。工藤さんたちがデビューに向けての練習の時に、必死な形相で筋トレのマシンを動かしていたりいつも以上にスパーリングをしていたのをのを見たらしいです。


そして工藤さんたちのデビュー戦が来週と迫ってきた1月の中頃の大会で、とうとう土曜日に立野さんが、次の日には山田さんもが先輩を相手にシングル初勝利をおさめました!相手はお二方とも松本さんです。立野さんは試合時間終了ギリギリに、まさに人間橋と言ってもいいような、つま先までピンと伸びた綺麗なジャーマン・スープレックスホールドを決めて、山田さんはロープから返ってきたところに腕を掴み、一本背負いのように投げてから腕ひしぎ十字固めを極めてギブアップを取りました!勝った瞬間、お客さんからこれでもかってくらいの声援と大きな拍手と立野コール、山田コールが響き渡りました。特に立野さんがジャーマン・スープレックスホールドを決めたときの「ワン・ツー・スリーーー!」の大合唱っていいくらいの声援は凄かったなあ。試合後のザワザワした会場の雰囲気が「なんかすごいものを見ちゃったよ」的な感じがとても印象的です。あとから聞きてみたら、新人が先輩に勝てるようになるには早くても3〜4ヶ月、下手をすると1年近く勝てないって言うので本当にびっくりしました。さすがというか何というか。


リングを降りる時、工藤さんたちがデビューするのにいいお膳立てができたことを告げるかのように、立野さんは工藤さんに向かって無言でグーを突き出し、それに無言でグーを合わせたり、山田さんがリングを降りた時に堀田さんに向かって「私たちは結果を出したから次はあなたよ」みたいなポーズをとったやりとりを見て、すごいな、頑張ったなって思ったと同時に、早くこういうことに参加できるようになりたいって思いました。

次話は9月5日を予定しています

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