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第10話

そして25日。本来ならクリスマスの本番のはずなんだけど、商店街は朝からお正月の飾りに取り替える作業を始めています。昨日までのちょっと忙しいながらも厳かな雰囲気が一変し本格的にドタバタしています。どの店舗も歳末大売り出しとか福袋の準備とかで、てんやわんやとはこういうことなのか!ってくらいの忙しさです。なぜそんなことが分かるかというと、もちろん商店街のお手伝いをしているからですよ。私たちがそういう感じで作業をしているなか、上田さんたちは各商店に、今年もお世話になりました、来年もお願いします、的な挨拶周りをしているそうです。こういう地道なおつきあいがあって私たちを支えてくれているんだろうなと思うと、おろそかにできないですね。


先日、今年最後の試合が終わったからって、私たちは暇になったわけではありません。商店街のお手伝いもそうですが道場や合宿所の大掃除とか堀田さんと工藤さんのデビュー戦に向けての対策とか練習だってほぼ毎日ありますから。一応31日の大晦日から翌年3日まではお休みとなっていますけどね。


28日には各商店へ門松の配送と飾るのをお手伝いします。どうやら昔からのしきたりがあるようで、29日や31日は避けるそうです。29日は9が苦を連想させて31は一夜飾りと言ってお葬式の時と同じになるそうなのでダメだそうです(諸説あり)。また28日や30日は8は末広がりを連想させ30日はキリがいいのがいいらしいです(諸説あり)。ちなみにこの地域は翌年の7日まで飾ってるそうです(地域差あり)。


31日の午後あたりになると人通りも少なく静かになった商店街とは打って変わって近くの神社はだんだんと混みあってきます。参道に並んだ屋台の準備や初詣に向けての通路の確保や振る舞い甘酒の準備などがあるようですが、こちらのお手伝いには参加できなかったのはちょっと残念です。初詣の神社のお手伝いでお札の販売(って言っていいのかな)の巫女さん姿なら山田さんなんて特に似合いそうだったんだけどね。

お母さんがパートで働いているスーパーは31日の夕方までは忙しいって言ってたかな。そして元旦から通常営業ってだっていうんだから大変よね。


聞くところによると、いくつかの団体さんは合同で年越しでプロレスの大会を開催するとか。行くのはいいけど帰りはどうするんでしょうかね。始発の電車が走るまで待ってるのかな?あと元旦から試合を始める団体さんもあるとかで色々大忙しらしいですよ。そう思うのは高校生の時は7日まで冬休みだったのがまだ抜けてないからですかね。

それと4日には老舗団体がドーム球場を使って大きな大会を開催するのは恒例のことらしいです。私は行ったことないんですが、おじいちゃんによると「ショッピングモールのフードコートみたいじゃった」(個人の感想です)だとか。バラエティに富んで楽しめそうなので機会があれば是非とも行ってみたいと思いました。


そして夜、恒例のお笑い番組や歌合戦をチャンネルを変えながら見ていて、キリのいいところで初詣へと向かいます。一応夜の外出なので上田さんに申請すると「戸締りと火の始末に気をつけて、それと言っておくけどあの二人はもうプロなんだから外で問題を起こさせないようにね」という感じで許可をもらえました。お昼はよく商店街に出かけることはありますが、普段の娯楽が合宿所のテレビと自分のスマートフォンだけと言っても過言ではないので、こういうイベントに参加できるのは嬉しいかぎりです。しかも同期の皆さんと一緒にお出かけなんて今回が初めてなんじゃないかな?実は朝からワクワクしていたんですよ。


毎年のように「今年の冬は暖冬のようです」って言われてるけど、真冬の深夜の寒さに負けないように着込んで神社へと徒歩で向かいます。

立野さん、山田さん、工藤さんは有名スポーツメーカーのダウンのロングコート、裏地がモコモコ素材で暖かそうです。そこにマフラーで寒さ対策は万全のようです。堀田さんはファーの付いたウエストが絞られたダウンジャケットにロングブーツに手袋はいいんですけど生足に膝丈のスカートはちょっと寒そうです。アイドルだからオシャレもしないとダメだそうです。我慢もオシャレのひとつだっていうけど見てるこっちが寒くなりそうですよ。

私はスエットとジャージの重ね着にマフラーとニット帽と発熱素材を使ったジャンパーという、いたって普通の格好のつもりなんですが、「晴子はもう少し女子力をつけたほうがいいと思うよ、まだ10代なんだし」と立野さんに言われ、堀田さんには「ちょっと!どこの山奥から出てきたのよ!私たちはもう見られる仕事をしてるんだからオシャレに気をつけなさいよ!いつ、どこで写真を撮られるかわからないんだから、もう!」と怒られてしまいました。オシャレに対する意識が堀田さんの方が高いのか、私の方が低いのかは比べるまでもないですけど、そんな話をしながら歩いていきます。


商店街の中ほどの角を曲がり、神社へ向かう少し上り坂になった道を歩いていくと屋台が並んでいるのが見えてきます。唐揚げ、フランクフルト、割り箸に巻かれたお好み焼き?あら、おでんなんてありますよ。食べ歩きしやすいように串に刺して紙コップに入れられて売っています。お、こっちはすっかり定番になったタピオカミルクティー、しかもホットだって。へえー色々あるんですね。少し前に夕食を兼ねた年越しそばを食べたばっかりなのに、ソースや粉物が焦げた匂い、お砂糖が飴状になっていく甘い匂いが食欲をそそりますけど、買い物はお参りをした後です。


除夜の鐘がゴーーーンと何分かに一回響くなか、緩やかな坂道を歩いていくと鳥居が見えてきました。ちょっと手前で軽く会釈、道の真ん中を通らないように鳥居をくぐると境内はそれなりに人だかりがあるようです。


入手水舎でひしゃくで左右の手を清め、左の手のひらで受けた水を口に含み、静かに軽くすすいで出します。最後に左手に少し水をかけたらひしゃくを立てて残った水で柄を流し元の場所に置きます。

本堂の前まで来たら軽く会釈、賽銭箱に静かにお賽銭を入れます。背中を丸めないように気をつけて深いお辞儀を2回、肩幅くらいに両手を開き拍手を2回します。指先を揃えて手を合わせ、神様に感謝しお祈りをして、最後にもう一度深いお辞儀をします。皆さんは流れるようにお祈りをしてますが、私は皆さんのを見ながらだったのは内緒です。

お参りが終わったらおみくじを引きます。結果は中吉でした。年の前半は我慢、後半に実を結ぶでしょう、あと意外な待ち人が現れる、みたいなことが書かれていました。私はおみくじを持ち帰って後で見直す派なのでお財布の中に入れておきます。


「皆さんはどんなことをお願い事したんですか?」せっかくみんなでお参りしたんですからこういう話題はあってもいいですよね。

「私は上の先輩たちともっと対戦できるように、そして早く追いついて互角に戦えるようになりたい、かな」

「プロレスを通してドリームファクトリーと地域の皆様が一緒に発展していけたらと思いますね。あと個人的には世界制覇かしら」

「そんなの決まってるじゃない、デビュー戦がうまくいってさらなる活躍よ!」

「私もデビュー戦を無事に終えることができるようにと、大きなケガがないようにかな」

立野さん、山田さん、堀田さん、工藤さんがそれぞれ答えてくれました。ってか山田さんのお願い事が壮大すぎてなんともねえ。

「そういうあなたは何をお願いしたのよ」

「私ですか、私は早くデビューできますようにと、皆さんと少しでも長くプロレスができますように、です」

……あら、皆さん黙っちゃいましたよ?なんか変なこと言っちゃったかしら。そしたら立野さんは私の頭を手荒くなでなでしてくれて、山田さんは肩をポンポンと叩き、堀田さんは「何よ!デビューも決まってないのに一丁前のこと言って、生意気ね」となぜか怒られてしましました。工藤さんは「そうね、そうなるといいわね」と皆さんさっさと歩いていきます。あれ?私としては普通のことだと思ったんですけど、やっぱり変なこと言っちゃったみたいです。


「晴ちゃん、いつまでそんなところで立ち止まってるの。屋台巡りするんでしょ?みんな先に行ってるわよ!」

あ〜〜〜、良かった〜〜〜。よく分からないけど皆さんから嫌われるよなことは言ってなかったようです。急いで合流して色々な屋台で買い(なぜか皆さんがお金を出してくれた)夕食と同じかそれ以上を食べたり甘酒をいただいていたら、いつの間にか年が明けていたようです。あちこちから拍手とかおめでとう、とかの声が聞こえてきます。ここにいる皆さんでカウントダウンをするのかなと思ってたけどまあいいか。


最後にちょっとトラブルっぽくなったけど楽しい時間が過ごせたなーと思いながら合宿所に戻るのでした。あとで聞いた話ですが、初詣ではお祈りはするけどお願い事はするもんじゃないそうです。もっと早く教えてほしかったわよ。

次話は8月25日を予定しています

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