初勝利するまでの話 その1 第1話
そして立野さん山田さんのデビュー戦当日。この日は10月の最終日曜日、商店街ではハロウィンイベントで盛り上がりあちらこちらで仮装するお客さんが見受けられるそうです。
この頃すっかり日本でも定着してきたようですけど、元々はケルト人の一年の終わりにご先祖があの世から家族を訪ねてくるそうで、同じ時期に有害な精霊や魔女から身を守るために魔除けの仮面を被ったり焚き火をしたのが始まりらしいんだけど、ざっくりいうとお盆みたいなものかな?日本では某テーマパークのイベントからじわじわと広まり、いつの間にか仮装パーティーを楽しむようになったようです。
商店街でも数年前からその流れに乗っかり、今では春のお花見や卒業・入園入学の学校事業関連、夏は夏祭り、冬はクリスマスやお正月の繁忙期に負けないくらいのイベントになってるようです。
池袋や六本木、渋谷や川崎市などの取り組みが有名らしいけど、それらに続けとばかりに商店街全体と市で盛り上がっているらしいです。でも渋谷のはちょっとなー、なんか無秩序で危ない感じがするんですよね。
私たちドリームファクトリーでもそれにあやかっ…協力して、選手が仮装をしたり、仮装したお客さんが来場されたら何かプレゼントをすることになりました。
試合開始1時間前に開場し、チケットの販売やお客さんを席まで案内したりの仕事を始めます。なぜか私が審査する!と上田さんが名乗りを上げ、独断と偏見で判断してグッズをプレゼントすることになったらしいです。それを売店係をしながらチラチラ見ていると、どんな感じの仮装だと何をプレゼントするかの傾向が見えてきました。まず、
1、カチューシャ、メイクシール程度のお手軽な仮装には小さめのポスターやクリアファイルなどどれか一つ(選手は選べません)
2、普段着だけどマントや魔女の帽子のようなちょっと頑張った感が見えたら、1のプレゼントに次回の観戦時に使える好きな選手との2ショット撮影券を
3、本格的な仮装(衣装やメイクなどで何の仮装をしているか一目で分かる)だと、1、2のプレゼントに加えてタオルやTシャツなどのグッズを 特に上田さんが気に入った仮装をしていたお客さんがいたようでハグしてますね。お客さんもびっくりですよ。
※なお、駅前や商店街、道場近くでの着替え・化粧は硬くお断りしていることを事前に通知しています。マナーのご協力をお願いしています。
売店係が終わり会場を見てみると、全体の2〜3割くらいのお客さんが仮装をしているようです。大体のお客さんはお手軽なものでゾンビや魔女などのハロウィンに関係するのが多いなか、アニメやゲームのキャラクターもちらほらと見受けられます。あ、上田さんがハグをしていた仮装は夜桜朧じゃない!思いっきり忍者じゃない!もうハロウィン関係なくなっちゃてるよ!まあお客さんにも楽しんでもらえてるようで何よりです。
「本日はプロレスリング・ドリームファクトリー、ファン感謝デー大会にご来場いただき、誠にありがとうございます。本日は趣向を凝らしまして対戦カードをお客様に決めていただこうと思っております。まずはリング上をご覧ください」
リングアナウンサーがそ言うと私と堀田さんでリングに上がり、ホワイトボードを隠していた緑色の布を取ります。そしてホワイトボードをその場で回転させて選手の名前が書かれていない対戦表を会場のお客さんに見せてから赤いボックスと青いボックスを用意します。
「これから抽選で選ばせていただいたお客様に選手の名前が書かれたボールをこちらの赤いボックスから引いていただきます。次にこちらの青いボックスから番号の書かれたボールを引いていただいてその番号に選手を当てはめて対戦カードを決定していきます。本日はシングルマッチ・タッグマッチとも2試合ずつを予定しております」
そう言って箱の中からボールを取り、お客さんに分かりやすいようにデモンストレーションをしていきます。
「どの番号にどの選手が入り、どのような対戦が決まるかどうぞお楽しみに!それでは抽選が始まるまでもうしばらくお待ちください」
会場がガヤガヤとしている中、私たちは次の準備としてお客さんを選ぶための抽選ボックスとテーブル用意して、お客さんがそのままリングに上がって通れるように布を敷いていきます。客席は満員ではないけれど抽選が始まる時間が迫ってくるとだんだんと席が埋まっていきます。
「まもなく抽選会を行います。休憩所やロビーで参加を希望するお客様がいらっしゃいましたらお席までお戻りください。大変お待たせいたしました。それでは、只今より対戦カードを決めるお客様を選ばせていただこうと思います。今、着席されている席の番号をご確認ください。よろしいでしょうか、それでは始めます」
そう言うとリングアナウンサーが抽選ボックスからそれぞれボールを取り出し読み上げていきます。
「西側、2列目、10番にお座りのお客様、いらっしゃいますか?どうぞリング横までお越しください」
私はそのお客さんをリングまで案内し、ロープを広げて中に招き入れ対戦表用のボックスのところまで誘導します。お客さんは赤いボックスと青いボックスからボールを取りアナウンサーに渡します。その後堀田さんがロープを広げて反対側のリングの外まで誘導していきます。降りたところで工藤さんが記念品らしきものを渡して席に戻ってもらいました。
「おっとこれはいきなりですね。10番の枠に山田綾選手が入りました!山田選手は本日がデビュー戦であります。山田選手、リングへどうぞ」
そう呼ばれて山田さんがTシャツ姿でリングに駆け上がり、お客さんにお辞儀をする。ちょっとぎごちないファイティングポーズを構えた姿をカメラマンさんに写真を撮られてから控え室に戻っていきます。パシャパシャパシャって、ちょっとした有名人みたいですね。あ、前の競技ではすでに有名人だったんだっけ。そういえば客席の一部が異様に盛り上がっていたんだけどなんだろう?
そんな感じで抽選が続いていき、お客さんも自分が選ばれると会場から「ひゃあああー」とか「うそーん」とか、選ばれた喜びなのか戸惑いなのかわからない声が上がります。でも選ばれたお客さんは喜んでリングに上がります。ボールを取って対戦表が埋まっていくと、今度は「うおおおー」とか「そうきたか」とか言う声が聞こえてきます。各選手のファンの方が誰が対戦相手になるか気が気じゃなかったんでしょうね。私が選ばれる訳じゃないのになんだかドキドキしてくるよ。そうそう、立野さんが選ばれた時もリング上で紹介されてました。
だんだんと対戦表が埋まっていくとお客さんがざわざわし始めました。最後まで決まらなかった松本さんと上田さんがどこに入るかでどんな風になるか、お客さんもそわそわしてたのを感じました。そして…
「松本選手が第2試合の3番に入ったことで、上田選手がメインの11番が自動的に入り..
.おお、これはすごいことになりました。えー、以上をもちまして対戦カードが決定いたしました。それでは改めまして本日の対戦カードを発表いたします!」
パチパチパチパチ…
「第1試合 シンブルマッチ 20分1本勝負 ①大森悠対②萩原香澄」
「おおー」パチパチパチパチ…
「第2試合 タッグマッチ 30分1本勝負 ③松本ひな子、④中野香織組対⑤豊田エツ子、⑥クリス・フォークフィールド組」
「ひな子ちゃーん!」「クリスー!」パチパチパチパチ…
「第3試合 シンブルマッチ 20分1本勝負 ⑦宇野愛菜対⑧渡辺芹香」
「愛菜ちゃーん」「芹香先生ー」せ、先生?なんで先生?うちに生徒さんなんていたっけ。
「第4試合 タッグマッチ 30分1本勝負 ⑨立野みづき、⑩山田綾組対⑪上田ショウ子、⑫横田未来組」
うおおおー!「デビュー戦で上田たちさんかー、どうなる?大丈夫か?」「綾センパーイ、ファイトー!」なんて声が聞こえてきます。あら、さっきのお客さんたちは山田さんの関係者だったのか。
「先ほども申し上げました通り、立野選手、山田選手とも本日がデビュー戦となります。しかもいきなりのタッグマッチでメインイベンターとなってしまいました。皆様どうか暖かい声援をよろしくお願いいたします。また、本日は途中の休憩時間を取りませんのでご注意ください。それでは試合開始です!」
※丸数字は対戦表の枠の場所を表しています
次話は6月5日を予定しています




