第17話
さあさあ、本日のメインイベント。ダイヤモンズの佐々木選手と中島選手が佐々木選手の曲で入場してきたよ。応援団がのぼりを立てて盛り上がっています。
次に上田さんと大森さんが上田さんの曲で入場。ダイヤモンズの応援団に負けじと声援を送っているようだ。この試合の前の2試合の応援もすごかったけどさすがメインイベント、団体の代表者同士が戦うってことでさらに盛り上がりをみせる。
リングに投げ入れられる紙テープの量もハンパないよ。でも佐々木選手と上田さんばかりに注目が集まって中島選手と大森さんがちょっとかわいそう。
ボディチェックの後、お互いに握手をしてから各コーナーに戻ると先に出てくるのは青コーナーからは佐々木選手が、赤コーナーからは上田さんを押しのけて大森さんが出る。すると佐々木選手が赤コーナーに向けて指をさし声をあげる。どうやら上田さんを呼び出したいらしい。それを見たお客さんも「うーえーだ!、うーえーだ!」と佐々木選手を後押しするように声を出す。すると周りを見ながら上田さんがリングに入り大森さんをコーナーに下げるとお客さんもわーっと盛り上がり拍手を送る。
「レディー、ファイっ!」「カーン!」
リング内で佐々木選手と上田さんが睨み合ってる。お客さんはさらに盛り上がる…と思ったら、急に静かになった。あれ?さっきまであんなに声援やら拍手をしてたのに。皆さんが待っていた対戦じゃなかったの?どのお客さんも声を出さずに会場内がシーンと静まり返る。
どことなく緊張感の出てきたなか、お二人がリング内を時計回りで一周、二周すると上田さんはあっさり大森さんにタッチしてリングの外に出る。あっけにとられた後に大きな声をあげ、怒りをあらわにする佐々木選手。え?っとびっくりして何が起きたか分からないようなお客さん。せっかくこの対戦を楽しみにしてたのにとため息が溢れる。
そんなお客さんを気にもとめず張り切ってリングに入ってきた大森さんはリングの中央で待ち構えている佐々木選手に向かっていき組み合うも、力まかせに赤コーナーまで投げ飛ばされてしまう。佐々木選手は大森さんに目もくれず上田さんに向かって手をクイクイっと欧米スタイルのおいでおいでをする。笑顔だけど目が怖いんですけど。それを見た上田さんは大森さんの肩を叩いてタッチをして(コーナーに付いているタッチロープというものを持って一番上のロープから相手の体を触ればタッチが成立するらしい。松本さん談)リングに入っていく。それを見て拍手を送り盛り上がるお客さん。今度はちゃんと戦うところが見られますね、と思った矢先に佐々木選手は青コーナーまで下がり中島選手とタッチする。ちょ、ちょっとー、佐々木選手もそりゃないよーみたいな感じなってしまった。あーーーと落ち込むお客さんの気持ち分かるよ、一部のお客さんはこの組み合わせが見たくて入場できる何時間も前から待ってたんだものね。
会場全体がそんな感じになっちゃったけど試合は続いていく。上田さんは中島選手と組み合ってから頭を腕で挟み、中島選手は近くのロープまで移動してから反動を利用して上田さんをロープに投げ飛ばして、返って来たところを両足を広げてジャンプして避けて、また戻って来たところに両足ジャンプキック(※1)を当てると体をひねって綺麗に着地する。「いいぞー」「頑張れー」とダイヤモンズの応援団から声がかかる。両選手立ち上がるとさっきと同じように組み合うと、今度は上田さんが両足ジャンプキックを放つ。キックか当たった瞬間に空中で重力を感じないかのように一回転してからマットに前受け身で着地する姿はさっきの中島選手のよりも軽やかで体勢がとても綺麗です。
「うん、ショウさん、今日は調子が良いようだな」と松本さんが呟く。へえー、そういうので体の調子とか分かるんだ、すごいなー。
それにしても中島選手は上田さんに臆することなく攻めているのもすごいけど、ご自身より若い中島選手の動きについていけてる上田さんもすごいんじゃないかしら。
すると大森さんが手を伸ばしタッチを要求する。上田さんは中島選手を捕まえて赤コーナーに叩きつけてからタッチ。大森さんは中島選手を起き上がらせると肘のあたりで顔の横を叩きながらロープまで押し込み、その反動を使って反対側のロープに投げ、返って来たところに両足ジャンプキック!(※1)上田さんのと比べるとちょっとバタっとしちゃったけど、それでも空中での体勢は綺麗だ。倒れた中島選手を立たせると首を掴んで背負い投げ(※2)のようにしてからその背中に向けて、バスっという音が会場内に響くかのようなキック!お客さんからもびっくりしたような声が聞こえたよ。
そんなキックを受けた中島選手は悔しいとばかりにマットを叩き、勢いよく立ち上がると大森さんに向かって同じように首を掴んで背負い投げをして、自分からロープへ行き、その反動を利用して走り、スピードを上げて大森さんの背中に向かってキック!ドスッとさっきより大きな音がしたよ?大森さんは背中を反らして横に倒れると中島選手は小さくガッツポーズをする。盛り上がるダイヤモンズの応援団の声と大森さんを心配する声が客席のあちらこちらから聞こえてくる。
中島選手は大森さんの髪の毛を掴んで無理矢理立ち上がらせると、大森さんはその手を振りほどき中島選手の胸元を蹴りつける。二度・三度と蹴っていくと、中島選手もお返しにと大森さんの胸元を蹴っていく。
大森さんは小さくステップを踏みながら、中島選手は大森さんの体を自分が蹴りやすくなるように大森さんの体をちょっと押しながら位置をずらして蹴っている。同じように蹴っていると思ったけど、よく見ると少しずつ違っているところもあるのね。
そのうち大森さんも中島選手も一回ずつ交互に蹴り合っていくと、お客さんから蹴るのに合わせて、ダイヤモンズの応援団からは「うぉーい」大森さんの蹴りには「ヤー」って声が聞こえてくる。リングの中央で立ち位置を少しずつ変えながら何回も何十回も繰り返していると、お客さんから自然と拍手が巻き起こる。
一体いつまで続くの?って思っていると中島選手の方が疲れてきたようで、蹴っていくのが追いつかなくなってくると大森さんは勢いを増して蹴っていき、赤でも青でもないコーナー(※3)にまで蹴って移動させると、そこから対角線のコーナーに投げた!中島選手はコーナーに背中から当たるように体の向きを変えてぶつかると、そこへ大森さんが張り込んで足の裏で中島選手の顔を蹴りつけた!逃げ場がないところにそんなことしたら首がもげちゃうじゃないですか!もげなかったけども凄い衝撃だと思うよ。
「イーーーっ、ヤーーーっ!」その蹴りに合わせてお客さんが合唱するかのように声をあげる。ちょ、なんですかそれ、いつ練習したんですかってくらい皆さんの声が合ってるじゃないですか!
その後も大森さんが有利に試合を進め上田さんとタッチ。激しく戦ていた大森さんと違って蹴っていた足を中心にじっくりと攻める。ぐったりする中島選手は時折悲鳴をあげながらロープに逃げ、その度に声援と拍手が起こる。どうにもタッチできない佐々木選手が苛立つように声をあげ、ダイヤモンズの応援団は「ナッカージマーっ!」と声援を送る。
タッチした大森さんが上田さんと同じ足を攻めていると、急に反対の足で頭を蹴られた。不意を突かれて倒れる大森さんをよそに中島選手は佐々木選手とタッチすると、今までやられていた中島選手の分を倍返しするかのように勢いと力まかせで大森さんを攻めていく。特に凄かったのはロープに投げて返ってきたところに太い腕を胸元にぶつけたり(※4)自分の足を大森さんの腕をとか見ながら首に足を絡めたり(※5)。どこが痛いのか分からないけど大森さんが苦しそうだよ。さっきまで元気だったのに一気に体力を奪われたようでフラフラなっていくよ。なんとか赤コーナーに逃げようする大森さんを捕まえると、片方のひざ裏に腕をまわし頭の上まで担ぎ上げると背中をマットに叩きつけるように落とす(※6)。そこからすぐに覆いかぶさる。
「フォール!ワン、ツー」
そこに上田さんが邪魔に入りカウントはツーで止まる。佐々木選手は上田さんをリングの外に追いやると中島選手をリングに呼び入れ大森さんが立ち上がるのを待つ。立ち上がったところに佐々木選手は胸元に腕を、中島選手は背中に蹴りをタイミングを合わせて大森さんに向けて繰り出す。その場に崩れるように倒れる大森さんに再び佐々木選手は覆い被さる。
「フォール!ワン、ツー、スr」
ギリギリのところで上田さんが邪魔をする。佐々木選手はまたリングの外に放り出すと中島選手が追いかけてリングに入れないように腰元にしがみつく。
それを見た佐々木選手は大森さんの頭を脇に抱えて反対の脇に自分の頭を差し込み持ち上げると、自分の体をひねりながら横に倒れこむように大森さんを叩きつけた!(※7)
「フォール!ワーン、ツー、スリー!」「カンカンカン!」「18分32秒、18分32秒、片エビ固めにより佐々木選手の勝ち」
大森さんの胸元をポンポンと叩くとゆっくりと立ち上がり、中島選手がリングに上がるのを待ってから勝ち名乗りを受ける。ダイヤモンズの応援団は立ち上がって拍手や声援を送り勝利を讃える。松本さんは心配そうに上田さんの元に駆け寄り、私は堀田さんと一緒に大森さんの元に介抱に向かう。連続してあんな凄い技を受けたのに意識はしっかりしていて一安心。
レフェリーのチェックを受けてから控え室に向かう。その時、佐々木選手は上田さんに何か話しているようだ。そういえば佐々木選手と上田さんってあんまり戦ってなかったような気がするけど物足りなかったのかな?
「以上をもちまして本日の全試合終了でございます。お帰りの際はお忘れ物などないように今一度身の周りをご確認のうえご退席ください。ゴミはロビーに用意してございますゴミ箱をご利用いただき、ゴミの分別にご協力ください。ロビーではグッズ購入者限定で豊田エツ子かクリスティーナ・ホークフィールド選手との2ショット撮影会を開催しております。是非ご参加ください。また、本日の入場券を駅前商店街のポスターの貼ってある各店舗でご提示いただくと10%割引でお買い物ができますので、おかえりの際には是非ともご利用ください。本日のご来場、誠にありがとうございました」
(※1)ドロップキックのような技だと思ってください
(※2)サイドヘッドロックからのフライングメイヤーのような技だと思ってください
(※3)ニュートラルコーナー
(※4)ラリアットのような技だと思ってください
(※5)ストラングルホールドのような技だと思ってください
(※6)トルネードボムのような技だと思ってください
(※7)ノーザンライトボムのような技だと思ってください
次話は1月25日を予定しています