第15話
次からの3試合は、立野さんいわくドリームファクトリーとダイヤモンズの対抗戦のようなものなので、雰囲気もちょっとピリッとしたような緊張感が漂ってきた?ような気がする。松本さんが控え室に戻ったあたりから会場がシーンとしている。
まずは北宮選手と宮原選手からの入場だ。ダイヤモンズのセコンドがロゴ付きのタオルを大きく掲げて入場してくると、一部のお客さんから「キータミヤー!ミーヤハラー!」と入場曲に合わせて声援を送ってくる。これはもう応援団と言ってもいいかもしれない。スポーツニュースで解説の人が、ホームチームの勝率がいいのはこうやって応援してくれることで実際に選手たちの力になるって言ってたけど、なんか分かる気がするなー。そんな応援のおかげでちょっとリラックスしたようで、リングに上がると客席に軽く礼をしてガウンを脱ぎ体をほぐすように運動している。
次に宇野さんと萩原さんが入場してくると、ダイヤモンズの2選手の応援に触発されたかのように、お客さん同士も他の団体に負けたくないようで大きな声援がかけられてくる。すごい、さっきまでの2試合とはまったく雰囲気が違うのよ。
選手紹介、ボディチェックを受けてお互いに握手をした後、両選手が各コーナーに分かれるってところでダイヤモンズの選手がゴングの合図を待たずに宇野さんと萩原さんに襲いかかった。あ、ちょっとずるいじゃないですか!さっきの握手はなんだったんですか!
「ゴーングっ!」「カーン!」襲いかかった混乱に紛れて試合が始まっちゃったよ。
宮原選手は萩原さんを、北宮選手は宇野さんをリングの外に出してそれぞれ叩いたりふんずけたりしている。あっもう!一番前の席のお客さんの安全を考えて動かないと、と思って北宮選手と宇野さんの方へ向かう。
「ガッシャーン!」という音がした方を見ると、萩原さんが宮原選手を鉄の柵に投げつけたようだ。苦痛に表情を歪める宮原選手の髪の毛を掴みリングの柱に叩きつけ、倒れたところを無理矢理起こしてそのまま持ち上げ床に敷いてあるマットの上に叩きつける!ちょっ!そのマットはクッション性がないから硬い床の衝撃が直に体にくるんじゃないですか?地味に痛そうだなー。あ、ふんずけてから赤コーナーに戻っていったよ。萩原さんて意外と容赦しないんですね。
なんてのを見ている間に宇野さんも形勢を逆転させたようで、北宮選手を何回か蹴飛ばしてからリングの中に押し込む。
「10分経過ー、10分経過ー」
なんかね、こうして試合を見てるとダイヤモンズの2選手は力ずくて正面から攻めてるのに対して、宇野さんも萩原さんもその攻撃を正面から受け止め、はねのけ、倍にして攻め返してるみたい。攻撃が効いてないと思っているのか、ダイヤモンズの2選手はとてもやりづらそう。
それでもレフェリーの隙をついて宇野さん相手に2人がかりで攻めていったのには驚いた。宇野さんもちょっとびっくりしてたけど危なげなくその攻撃を凌ぎ、相手の2人同時攻撃を逆手にとって、北宮選手をうまくかわして同士討ちさせる。そのタイミングで萩原さんがやってきて宮原選手をリングの外に放り投げると、お返しとばかりに宇野さんと萩原さんの2人攻撃だ。
先ほどのダイヤモンズの攻撃もすごかったけどこちらの方が動きがスムーズで流れるような息のあった攻撃に北宮選手は何もできないまま耐えるだけだ。たまに宮原選手がリングに入ってくるも、宇野さんが間際で外に落としている。その度にガシャーンと鉄の柵打ち付けられてダメージもすごそうだよ。背中痛そう。
一方的に攻められていた北宮選手は宇野さんが立たせようとしてもぐったりと力が入らない感じで倒れて居る。「どうした!ホラ立てーっ!」って言ってもなかなか立ち上がれずにいると、レフェリーに「ダウンじゃないのか?カウント取れよ」って言い出す。ダイヤモンズの応援団も大人しくなっちゃったみたいで一言も声が出なくなちゃった。
そんな北宮選手の右足を引っぱって赤コーナーに戻ると萩原さんにタッチする。萩原さんは宇野さんが持っていた右足を受け取るとふんずけたり自分の足を絡めて痛めつける。何回か繰り返すと宇野さんにタッチ。宇野さんは同じ足に自分の体重を浴びせたりひねるように攻めるとすぐに萩原さんにタッチ。萩原さんはまた同じ足を自分の足と腕を絡めるように攻めると北宮選手はたまらずロープに逃げる。絡めた自分の手足をはずして宇野さんにタッチする。こんなに頻繁に赤コーナーの近くで攻められてタッチされたら北宮選手はいつになったら逃げられるのよ。宮原選手は青コーナーでぐったりしてて、とても助けに来られるような感じはしないね。他の団体の選手だけど、どうにかならないかと勝手に心配しちゃってるよ。
すると、さっきまで静かにしていた応援団が「キータミヤっ!キータミヤっ!」声援を送り始める。それを聞いた周りのお客さんも一緒になって声を合わせて応援していく。その声がだんだんと大きくなって、まるで会場全体が応援しているようだ。北宮選手、皆さんが応援しているよ!頑張って!!その声援が聞こえたか宇野さんになんとか攻撃を加えて逃げることに成功し青コーナーに行こうとするも、足が痛くて途中で倒れちゃった。もう少しのところで萩原さんにつかまり赤コーナーに引きずられていった。せっかく逃げられたのに「あーーー」とお客さんのため息がこぼれる。
北宮選手は足を掴まれながらも立ち上がり、赤コーナー近くでなんとか抵抗していると片足立ちの状態からジャンプして萩原さんの頭を蹴った!ギャッ!
予想していなかった攻撃に萩原さんは手を離しマットに倒れてリングの外に転がり落ちた。それを見た宇野さんはびっくりしてリングの外の萩原さんに目を向けてしまう。その瞬間に北宮選手は必死になって攻撃されていた足をかばいながら青コーナーに向かう。一番下のロープに足をかけ、身を乗り出すように手を伸ばし北宮選手に声をかける宮原選手。リングの中央あたりで転ぶも前転をするように移動してタッチができた!うおーっと雄たけびのような声をあげてリングに入ってくる宮原選手に会場のお客さんもどっと盛り上がる。そこに攻め込もうとやってきた宇野さんめがけてその場で両足ジャンプキック!宇野さんの顔に直接当たるほどの高さまでジャンプできるなんてすごい身体能力!続けてやってきた萩原さんにも同じく両足ジャンプキック!倒れた萩原さんをリングの外に蹴り落としてから宇野さんを立たせて後ろに回り込み、腰のあたりを抱えて持ち上げ後ろにブリッジをするように倒れた。
「フォール、ワン、ツー!」宇野さんはカウントツーでなんとか肩を上げる。
その後も一人で宇野さんと萩原さんを相手に、今まで攻め立てられてた鬱憤を晴らすように暴れまわる。その度に声援が大きくなり宮原選手もどんどん攻めていく。ちょっとすごいスタミナ、疲れ知らずなの?このまま試合が終わっちゃう?
そんなドラマチックなことはなく、ちょっとずつ疲れが見える宮原選手は宇野さんの攻められる割合が多くなってくると、今度は北宮選手がなんとか復活して宮原選手に声をかける。回復力がとんでも無いですね。宇野さんと宮原選手の攻撃が同時に相手にあたりマットに倒れると、レフェリーが選手の顔を覗き込んでからカウントを取り始める。ボクシングの倒れた時に数えるのと同じやつかな?
カウントが8くらいで両選手とも立ち上がり、それぞれのコーナーに戻りタッチすると、北宮選手がその勢いのままラグビーのタックルのように萩原さんに向かってぶつかる。うわっ!飛んだ!その衝撃で萩原さんは赤コーナーまで戻ってきちゃったよ。
北宮選手は吹き飛ばした萩原さんをリングの中央まで連れてきて、持ち上げてから背中をマットに叩きつけてから自分の足を絡めて萩原さんを攻めていく。その痛みに耐えるように頭を抱えているが、宇野さんの声でなんとかロープまで逃げる。一息つくことなく萩原さんを何度か叩いてから後ろに回り込み、脇の下に頭をつけて腰のあたりを両手で抱え持つ。それを嫌がるように腕を外そうとしたり頭にひじを当てて逃げるようにしている萩原さんに向かって宮原選手がリングに入ってきて腕で肩や背中を叩く。萩原さんの手が離れたところを北宮選手が勢いをつけて後ろに倒れるとすぐに覆いかぶさりカウントが入る。
「フォール、ワン、ツー、スっ!」ギリギリのところで肩が上がる。
「よ〜〜しっ」と自分にカツを入れて同じことを萩原さんにしようとすると、宇野さんが邪魔をしてからそのまま青コーナーの宮原選手に向かっていきリングの外に出す。萩原さんはその隙をついて北宮選手に目潰しとパンチをしてから首を後頭部の方から抱えて背中から倒れる。北宮選手はマットに頭を叩きつけられたようで動きが止まってしまった。
「フォール、ワン、ツー!」カウントツーで肩をあげるも目の焦点が合っていないみたい。萩原さんは北宮選手を立たせると後ろに回り込む。それってさっき北宮選手がやってたのと同じやつですか?そのまま後ろに倒れると覆い被さ…らないでその状態で立ち上がる?もう一度後ろに倒れても覆い被さらずまた立ち上がる。そして同じように倒れるとそこからブリッジをしてカウントが入る。
「フォール、ワン、ツー、スリー!」「カンカンカン!」「22分40秒、22分40秒、バックドロップホールドにより萩原選手の勝ち」
奮闘むなしくダイヤモンズが負けてしまった。あー、もうちょっとだったのに。応援団も残念そうでがっくりしてるよ。って私、なんでダイヤモンズの応援をしちゃってたんだろう。
本年は色々合った中、ご愛読いただきましてありがとうございました
皆様も体調管理に気をつけて良いお年をお迎えください
次話は1月5日を予定しています




