第5話
「分かりました。では最後に特技とか自己アピールできることがあればお願いします」
きた。おじいちゃんに自己アピールの相談した時、「あれをやるならショウ子さんなら大丈夫じゃろ」って言われたけど本当?でもなんで大丈夫って言い切れたんだろう。ショウ子さんの何を知ってるの?、なんてことがなぜか頭をよぎる。まあ何もやらないわけにもいかないし何か印象を残しておかないとスポーツや格闘技の経験者には敵わないだろうし。ええ〜い女は度胸、後のことは考えないでもうやっちゃえやっちゃえっ。
「それでは、アニメの学園戦隊キューティー5より、キューティーニーソこと小鳥遊ユイの変身シーンと必殺技を出すところをやります」
*説明しよう!このアニメは10年ほど前に放送され、今でも続編が数年に一度の割合で放映されている国民的人気アニメのことで、アクションありドタバタありコメディあり恋愛ちょっとの北斗学園を舞台に、学園内外の問題ごとや学園を裏側から乗っ取ろうとする不良生徒たちとのイザコザを、生徒会役員であるキューティー5が、ときには人情でときには強引に解決するという内容で、当時の少女たちと一部の熱狂的な男性ファンを獲得し、コスプレ衣装や関連商品のグッズ化、フィギュア化、ミュージカル化、海外進出などなど多方面にわたり多大な影響を与え、一大センセーショナルを巻き起こした作品であ〜る。*
頭の中で変身シーンのBGMを流しながら両方の手に手袋をはめベルトを締めパントマイムをしてからくるっと一回転した後グッと体を縮めそこから両手両足を大の字に伸ばす。回転しながらローキック、ミドルキック、ハイキックと連続して繰り出しピタリと決めて一言。
「学園の敵は私のヒザで眠らせる。キューティーニーGO!2!スリ〜プ!」
敵を担ぎ上げ上方へ投げ飛ばすパントマイムをしてからジャンプして左ヒザで蹴り上げ、着地と同時に仁王立ち。振り向きざまに「おやすみベイベー」と決めポーズ。
…ね、やっぱり誰も何の反応もしてないよ。
と思ってたら、黒髪ロングの女性だけ手を叩き足をバタバタさせて何か黒スーツの人に掴みかかりながら話しかけている。へ、ヘンハオ?何?でもとりあえず喜んでくれたみたい?それにしてもどこかで見たことあるのよね〜。
ショウ子さんとその人以外は何とも言えない表情をしているなか、黒スーツの男性が手を挙げ「ひとつよろしいでしょうか。キューティーミニーはできないのかと、こちらのジャスミンさんがおっしゃってます」
へ?まさかのリクエスト?っていうか社長さんじゃなかったのね、というかジャスミンさんの通訳的な感じかしら。それはそうと、こういうときどうすればいいの?できるけど勝手にやっていいものかどうか。ショウ子さんの方を確認すると「できるならやってあげて」と返答をいただいた。ジャスミンさんは身を乗り出し、キラッキラした目で私を見ている。
「では、くるりとスカートひるがえし、学園の悪をやっつける!キューティーミニー見参!」
爪先立ちで一回転した後、腰をひねりながら右足と左足交互に前に出し、その動きに合わせて両手を上にあげたり腰に当てたりする。そこから敵の首をわきの下から腕をからめてからぐるぐると振り回すパントマイムをしてから「ローリンローリンフロムヘ〜〜〜ル!」と叫ぶ。
ジャスミンさんの方をチラッと見ると、腕組みをしながらウンウンとうなずいている。なんだかこっちからも面接を受けてるみたい。ここで満足している様子はなくさらに期待している。やっぱりあれもすることになるのね。
「ニーとミニーの絶対領域、ここから悪は通さない!」と右手を上げ片足立ちの決めポーズをする。
これがアニメだったら「シャキーーーン」とか「キラキラリーン」とか画面が光ったり効果音とか出るんだけどなー。
っと、ジャスミンさんとショウ子さん以外の面接官はポカーンを通り越して半分呆れてるし、テストを受けてる人たちまでも「こいつ何やってんだ?」って顔してるし、私の前に面接した半分アイドルの晶さんは自分のシャツを噛み締めて「ぐぬぬぬぅ〜」とか聞こえてきそうな表情してるし。うわーやっちゃったかなー。
そんな中、ジャスミンさんから「ブラボーーーッ!」ってスタンティングオベーションをいただきました。黒スーツの人の肩を揺すったり叩いたりちょっと興奮冷めやらぬ様子。そこまで喜んでもらえたなら良かった、と思うことにしよう。
「ジャスミン、ちょっと落ち着いてっ!」ショウ子さんから言われてもまだ落ち着かない。黒スーツの人に何やら多分中国語で話かけてるようだけど何を言ってるのかなんとなくだけど分かってしまった。身振り手振りを見てると5人全員をやらせてみたいようだ。ちょ、ちょっと…この場の雰囲気を察してほしいのですが。
次話は9月15日を予定しています




