第7話
セコンドのリハーサルが終わったので、スタッフの皆さんに挨拶をしてから道場の掃除を行い、横田さんと萩原さんに今日の試合のお礼と感想とアドバイスがもらえたらいいかなと挨拶に向かう。控え室の扉をノックすると返事が返ってきたので中に入る。
横田さんはシューズやテーピングを外してリラックスしているようだ。
松本さんに「彼女らに何かお願いします」と言われた横田さんは
「はいお疲れ様。まあ初めての割にはよくできたと思うけど、もう少し選手の動きを予測して次に何をすればいいかを考えておかないとね。あともっと選手の応援をしてくれた方が私たちも頑張れるかな?なんて」
そうよね、松本さんの指示がなかったらどうしたらいいか分からなかったもんね。特に応援なんて言われなくてもできなきゃいけなかったと思う。
ありがとうございました、失礼しますと行って控え室を出て萩原さんの方へ向かう。
萩原さんは最後にあんな技を受けたので大丈夫かなー、倒れてないかなーって心配しながら控え室に入ったら、氷のうを首筋に当ててはいたものの何事もなかったように汗を拭いたりドリンクを飲んだりしているじゃないですか。
「あんなすごい技をもらって叩きつけられたのに大丈夫なんですか?」
私は思わず聞いちゃったわよ。
「お疲れ様ね。ダメージが大きいように見えたけろうど、ちゃんと自分から飛んで威力を弱めたから大丈夫よ。痛いのは痛いけど」
それを聞いて安心したけど、自分の体があんな風に飛ばされてもでダメージを減らせるなんて、とんでもなく練習を重ねて数え切れないくらい受け身を取って、毎回のように技を受けてきたのかと思うとちょっとゾッとするよ。まさか練習生がいるからって無理して普通にしている訳じゃないですよね?
それにしても今日の試合を見て他の人たちはどう思ったんだろう?立野さんと山田さんはいつか私も!みたいなこと思ってるのかな?なんだか興奮冷めやらぬ感じの表情なんですけど。
堀田さんは自分の腕とか胸元とかさすってるね。自分があんな技を受けたらどうなっちゃうのかとか思ってるのかな?実は私もなんですよって声をかけてもいいかな?でも違ってたらちょっと恥ずかしいな。
工藤さんは、と思ったら
「晴ちゃん、どうだった?怖くなかった?」
逆に心配してくれたみたいです。
「はい、すごい音と迫力でびっくりしました。試合の最初の方なんて全然動けなかったですよ。だから私も将来あんな風にできるか全然想像もつかないですけど頑張ろうと思います」
「ほう?」
「そう、それを聞いて安心したわ。晴ちゃんは格闘技の経験がないから、さっきの試合はちょっと刺激が強すぎたかなーって思ったのよ。だけど大丈夫そうね。でも無理しないように頑張ろうね。やっぱり辞めますとか後から言うのはナシにしてよ?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
ところで工藤さんと話す前に「ほう?」って聞こえたんだけど一体なんだったんだろう?近くには工藤さんしかいなかったし立野さんたちは控え室の片付けを始めてたし萩原さんはシャワーを浴びに行ったようですでに見当たらなかったし。まさか聞こえたのは私だけ?いやいやまさかねえ。多分私の聞き間違いでしょ。
そんなことを考えながら道場に戻る。すると事務所の人と松本さんがやってきて
「あと1時間くらいでお客さんが来るそうなので部屋の準備をお願いします」
と言ってきた。そうだった、他の団体の人たちも明日試合に参加するからって合宿所の部屋を準備してたのよね。
「よーし、今日の夕食からダイヤモンズの皆さんの分も準備をしておけよ。材料は頼んであるかなー」
と松本さんから言われた。ダイヤモンズっていうのが団体の名前なんだ、キラキラしてて素敵な名前ね。
「ハーイ!、来たわよー、私の部屋どこー」と金髪でナイスボディの外人さんが荷物を抱えて道場にやってきた。
え?突然どちら様?私英語できないんですけど。どなたかこの中に英語ができる方はいませんかー!と、ちょっとパニックになる。
すると松本さんがスタスタスターと外人さんの方に向かい何か話しかける。英語できるんですか?見かけによらずと言ったら失礼だけど。
「ハーイクリス!ロングタイムノーシー」ちょ、ちょっと!私でも分かるカタカナ英語じゃないですか!
「ハーイひな子、あなたの英語は相変わらずヘタね。明日からよろしくー」なんて言って笑いながらハグをするお二人。もしかしてお知り合いだったんですか?ってことはクリスさんも明日の試合に出る選手ってことですか。それにしてもすごい身長差ですね。松本さんの顔がクリスさんの胸に埋まっちゃってるよ。
そんなこんなしているうちにダイヤモンズの皆さんが到着したようだ。練習生らしい人がよろしくお願いしますと挨拶をしてから一人で荷物を運ぼうとしているので、それを手伝いながら合宿所まで案内する。するといつの間にか上田さんがやってきたようだ。代表者だからお出迎えするんですね。
「どうもーショウ子さん、またお世話になりますねー」
「いらっしゃい、明日からよろしくね」
とダイヤモンズの代表者さんらしき人と軽い感じで挨拶をしている。こちらもお知り合いなのかな?
「いえいえこちらこそ。ここで試合できると食事とホテルの心配が減るので助かりますよー」
「はーい、練習生集まってー!」
荷物を片付け終わった頃に上田さんが私たちを呼び寄せる。
「こちら、プロレスリング・ダイヤモンズの皆さんと代表の佐々木さん。明日から道場と合宿所を利用するので挨拶はしっかりね。それとこっちはうちの練習生。使い慣れてると思うけどこの中で困った時は声をかけてね。あなたたちも案内して差し上げてね。それとクリスー!ちょっとこっち来て!」
道場に入ってから荷物をその辺に放り投げてリングの上でジョギングのようなことをしたり寝っ転がったりしているクリスさんを呼んだ。
「ちょっと何やってるのよ。えーと、こちらがうちに定期的に参戦しているクリス・ホークフィールドさん。クリスって呼んであげてね。来た時に分かったと思うけど日本語はペラペラだから安心して」
私たちは「よろしくお願いします」と挨拶をする。ダイヤモンズの皆さんもよろしく〜っと返してくれて、クリスさんもハァーイと手を振ってくれた。おや?一部の方が立野さんと山田さんを見て驚いているようですよ。
「ショウ子さん、もしかしてあの二人って」
「そうなのよ。入団テストで見た時はこっちがびっくりしちゃって」
顔合わせ?も終わり解散したくらいに佐々木さんと上田さんの会話が聞こえてきた。やっぱりお二人は格闘技経験者から注目されてるんですかね。
そのあと各自部屋に戻ったので工藤さんといつものようにストレッチやマッサージをしながらお話をする。
工藤さんは今日の試合を見て、以前見たことある試合と違って格闘技色が強かったわねっていう感想を持ったようだ。私が見たのはもっと派手な技が出て選手が飛び回ってた印象があったんですよ、プロレスにも試合内容にいろいろ違いがあるみたいですね、みたいな話をしていたらそろそろ寝なくちゃいけない時間になった。
さあ明日が本番よ、早く休んで頑張りましょうねと就寝することに。
そういえば松本さんはセコンドの手本を見せると言ってたけど、私たちに指示を出してただけじゃなかった?
次話は10月15日を予定しています




