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第5話

そして当日は試合開始1時間前にお客さんが入場するので、それに合わせてチケット販売と売店を試合開始まで担当し、直前になったら他のスタッフさんに交換してもらい本部席の近くに集合するそうだ。


「よし、練習生集合ー!」

松本さんの号令で本部席周りに集まり、これからどうするかを説明を受ける。


「いいかー、当日はやることがたくさんあるかなー、よく聞いておけよ。まず、試合開始直前になると照明が消えて音楽が流れるから、それを合図に選手を控え室に迎えにいく。選手の入場テーマが流れたらリングまで誘導して、タイミングを見計らってリングに入りやすいようにロープを開ける。選手がリングに入ったら階段をリングの下に片付ける。ここまでは大丈夫かー」


ここまでは大丈夫かーってことはまだやることがありそうね。これはちょっと覚えられないかも。

「すみません、メモを取りたいんですけど筆記道具を取ってきていいですか」

「しょうがねえなー、早く行ってこい」

ダッシュで食堂に向かう。後で確認も兼ねて清書するから今は食堂のメモ用紙で済ませよう。

「すみません、お待たせしました」

「おーし、続けるぞ」


簡単に要約するとこんな感じかな?

・試合前にリングの下に冷却スプレーや氷嚢を用意しておく

・合図があったら選手を控え室に呼びにいく

・入場曲が流れたら選手をリングまで誘導する

・リングに入るときにロープの間を入場しやすいように開ける

・リングから降りて階段を外してリングの下にしまう

・お客さんが投げ入れた紙テープを片付ける

・選手の着ていたガウンやタオルなど試合に必要ないものを預かり控え室に持っていく

・試合を盛り上げるように選手を応援する

・場外で乱闘になったら選手がお客さんと選手が接触しないように間に入る、お客さんを避難させる、身をもってお客さんを守る

・場外で暴れた後の片付け、椅子や鉄の柵を元通りにする

・試合終了後、選手のアイシングや退場の補助

・ロープの緩み、リング内外にゴミがないか確認、掃除をする

・次の入場選手のために階段を設置する


やらなきゃいけないことが多そうね。そしてセコンドをしてるときは常に動ける状態にしておくのと同じくらいお客さんの観戦の邪魔にならないようにしなくちゃいけないらしい。そうよね、リングの近くで立ってたらお客さんが見えないもんね。そんなときは片ヒザ立ちでマットと同じ高さの目線になるように背中を丸める体勢で待機していればいいみたい。


「いいかー、一応こんな感じだけど試合中はどうなるか分からないからな。選手とカメラマンさんの邪魔にならないように臨機応変に動いてくれな」

動いてくれなって言われても、実際どうすればいいのか分からないんですけど。


「よーし、一連の流れが頭に入ったようだから最初から通してやってみるぞ」

メモを見ながらブツブツ言っていた私を見て松本さんが言ってくる。どうしよう、まだ覚えてないんだけど大丈夫かな、不安しかないよ。


「すみませーん、練習生のリハーサルを始めまーす。音響さん、照明さん、リングアナさん、よろしくお願いしまーす」

「「よろしくお願いしまーす!」」

松本さんに続いて私たちも挨拶をする。そのあとに誘導とロープを開ける人、階段を片付ける役を振り分けられ、私は松本さんと誘導するように言われた。急に役割を振られてますます不安になったけど他の人たちは大丈夫なのかな?って人の心配してるどころじゃないわね。


なんて思ってたら照明が消えて音楽が流れ始める。するとリングアナウンサーかな?「大変長らくお待たせしましたー」なんて声が聞こえてくる。


「ほら、控え室に行くぞ。最初は青コーナー側の控え室だ、間違えるなよ」

私たちは急いで松本さんに付いて行く。どうやら入場は青コーナー側の選手を先に誘導しなくちゃいけないらしい。

控え室に着いてドアをノックする松本さん。ん?誰かいるの?「はーい」と返事が返ってくる。誰?


「そろそろお願いします」と中に声をかけると萩原さんが出てきた。しかも試合用と思われる青と白を基調にしたコスチュームと同じようなデザインのガウンでビシッと決めている。いつものトレー二ングウェアの時はちょっとおっとりとした印象があったのに、今は表情が引き締まっていて思わず見惚れてしまう。そこで洋楽のポップスのような音楽が変わると「よしっ」と気合をいれるように声を出しリングに向かう萩原さん。松本さんに「行くぞ」と言われてハッと我に返り、萩原さんを追い抜いて誘導するように先を行く。松本さんの真似をして萩原さんを挟むように反対側を歩く。階段を登るとお客さんを想定してるのかな?両手を横に広げて萩原さんを庇うようにしているので私も同じようにする。


リングに到着すると立野さんがリングに上がりロープの間をを広げる。萩原さんがリングに入ると山田さんが階段を片付ける。

「青ーコーナー、125パウンド〜、萩原〜〜かす〜みぃ〜〜〜」

リングアナウンサーのちょっとねばっこくてクセの強い言い回しで萩原さんの名前を言うと紙テープが投げ込まれてきた。えっ、一体どこから?誰?


「ほら、テープ!」

いけない、紙テープを片付けなきゃ。リングに入らないように紙テープをかき集めて下に戻る。ロープに引っかかったのも外から引っ張ってたぐり寄せる。リングではレフリーが萩原さんのヒザとか腕を見たり触ったりしている。その間に工藤さんが萩原さんのガウンを預かって控え室に戻っていく。


「次、赤コーナー!」

おっといけないっ、そんなことを気にしている間に他の人はすでに控え室に行ったみたいなので急いで向かわないと。

「さっきの通路のはまあ良かったぞ。今度お前がロープを開けるのをやってみな」「はい、ありがとうございます。やってみます」


松本さんに言われて小走りで赤コーナーの控え室に向かと、すでに横田さんが待っていた。横田さんも赤と黒のコスチュームとガウンで準備万端だ。

音楽が激しいギターサウンドに変わる。横田さんは「はい、よろしく」といつもの調子で挨拶をしてくれた。萩原さんとは違う態度にちょっと安心した。

誘導は立野さんと山田さんがしてくれているのでそのあとをついていく。階段を登りリングまで来たので私はリングに上がりロープの一番上と二番目の間に体を入れてロープの間を広げておく。横田さんがリングに入ると堀田さんが階段を外す。松本さんは少し離れたところでこちらをずっと観察しているようだ。


「赤ーコーナー、130パウンド〜、横田〜〜み〜くぅ〜〜〜」

こちらにも紙テープが投げ込まれる。萩原さんより多いので工藤さんと堀田さんが回収している。萩原さんのガウンは山田さんが預かったようだ。

シャカシャカと紙テープを片付けている間にレフリーが横田さんにも同じようにヒザとか両手を見たり触ったりしている。なんだろ?


そこからレフリーがお二人をリングの中央に呼び寄せ、自分の髪の毛を引っ張ったり自分の右手をグーにして左手で叩いたり、お二人の顔を指差した後に両手を閉じたり開いたりしているところに松本さんがやってきた。

「よし、お前とみづきさんは赤コーナーで控えててください。ピンチになったらマットを叩いて横田さんを応援してください。それと試合ってこういうものだと見て感じてください」


立野さんがいるからか口調が優しくなってますけど試合って何ですか、明日のリハーサルじゃなかったんですか?ちょっと待ってくださいよ。それとレフリーが何やってたか聞いてみたかったし、他にもいくつか聞きたい事もあったから、何が何だかもうこんがらがっちゃってるよ。

「今はセコンドに集中して!」

「レディ、ファイッ!カーーーン!!」

え!本当にゴングが鳴って試合が始まっちゃった!!やだ、急に緊張してきた!!!


それにしてもパウンドって何かな?まさかケーキじゃないよねー。

プロレス入門(ベースボールマガジン社)を参考にしています

次話は9月25日を予定しています

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