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第3話

いつものようにご飯を食べ、片付けと様々な雑用を終わらせてからお風呂に入る。今日も一日お疲れ様でしたー、なんて思いながら脱衣所でトレーニングウェアを脱いでいると


「ちょっ佐藤さん!何よその体、真っ青じゃない!」

と堀田さんが私を見て大きな声を出した。


真っ青?またあ、そんな大袈裟な。そんな訳ないじゃないですか…ってホンマや。

脱衣所の鏡で自分の体を写してみると、真っ青ってほどじゃないけど肩の辺りから肩甲骨の周り、ヒジのところどころに青アザができてるじゃないですか。これは多分、受け身をした時の失敗の影響ですかね。青アザができるようなことなんてそれ以外に思いつかないし。道理でなんか痛いなーって思ってのよね。そういう堀田さんもちょっと青アザができてますよ。


それじゃあと立野さんや山田さんの方を見てみると、目立つようなアザは見当たりませんでした。やっぱり格闘技をやってたかやってなかったかの経験の差なんだろうな。それに堀田さんみたいな反応をしなかってことは、このくらい当たり前で大きな声を出すようなことじゃないのかもね。工藤さんはー、もうお風呂に入ってたのね。あとで聞いてみようかな。それと打ち身に効く薬とか用意しておいたほうがいいのかな。

お湯に浸かるとヒジの辺りがピリピリと痛かったので擦り傷の薬もあった方がいいかもね。


次の日から数日間は午前中に受け身の練習とマット運動をして、午後からはそれぞれの筋肉トレーニングを続けていく。筋肉トレーニングは今までより負荷のかかるような内容が加わった。例えば腕立て伏せ。腕を伸ばす時の反動で上半身を浮かせて、その時に手を合わせて元に戻る(プッシュアップジャンプというらしい)ものや片手だけでやる腕立て伏せ、指立て伏せなんてのが加わった。そのくらいならまあ何とかなるかなーって思ったんだけど、なかなかうまくいかなかったのよ。特に体を浮かせる腕立て伏せをやった時、体を浮かせることはできたんだけど、手を合わせるとなるとまた違う筋力が必要なんじゃないかって思うほどできなかったのね。タイミング?が合わないと手を合わせた状態でマットを拝んでるように着地しちゃうのよ。


「うまくできない人は無理にしなくてもいいわよ、手首を痛めないようにね」

と言ってはくれているけれど、私の周りからはパチンドスンという音が聞こえてくるのよ。どうやらできてないのは私だけっていうのはちょっと焦る。だけどケガをしてもしょうがないのでジャンプだけはしっかりしておかないと。今はできないけど近いうちにパチンドスンていう音を出してみせるわよ。


それと、二人組になって一人が足を持って腕立てをするのが辛かったのよ。ヒザあたりを持ってもらうならまだましな方だけど、スネとか足首を持たれると体がフラフラと安定しないから腕に余計に負荷がかかるのよね。しかも交代して相手の足を持つのも結構な負担なのよ。


腹筋を鍛えるのにも二人組のやり方があって、お互いの両足首を絡ませて腕を組み、反動をつけないで腹筋をするっていうのがあるの。腕立て伏せの時もそうだったんだけど、体が安定してないから腹筋だけはなくて全体的に力が入ってるようになるのね。そこから体をひねったり頭の後ろで腕を組んだりするもんだから余計に負荷がかかって大変なのよ。


また、一人が仰向けになりパートナーが相手の頭を挟むように立ち、仰向けになった方が足をゆっくり上げてからパートナーに足を押してもらい、マットに足がつく直前に止めるっていう足上げ腹筋ていうのがあって、それが慣れてきたら左右、斜めに押してもらって戻すっていうのがあるのよ。これは今までのと違って腹筋の下の方が鍛えられる感じなのよね。また筋肉痛コースかな。


そして背筋ね。今回教わった背筋はとても特殊な方法だったのよ。なんてったってリングから上半身を外に投げ出すようにしてから背筋するんだもの。もう山伏の鍛錬じゃないんだからそこまでしなくても。背筋を鍛えるよりもリングから落ちないかっていう方が心配になっちゃって。まあ足を押さえてもらってるから大丈夫なんだけどね。でもリングを使った背筋は最初の1回目だけで、あとは何かしらの台を使って練習したのよ。高所恐怖症じゃないけど手を使えなかったからちょっと怖かったっていうのは内緒。


筋肉トレーニングだけじゃなくて持久力をつけるためのランニングもこの週から始まったのね。道場から駅に向かう商店街の通りから途中で曲がって小道に入り、少し住宅街を行くと小山のようになっていて、そこを登っていくと一番上にあるお寺か神社まで走っていくの。鳥居があったから神社かな?


その神社までは片道歩いて20分くらいなのでそこまで遠くないんだけど、小道に入ったところからなだらかな上り坂になっていて、神社まであと半分ていうくらいのところからアスファルトの舗装から未舗装の道になってて走りづらいくなるのよ。しかもその坂道はきつくなったり緩くなったりで傾斜が一定じゃないからこれも走りづらい理由なのよね。しかも、最後に待ってるのは100段くらいの階段があるんだけど、手すりはないし階段の足を乗せるところが少し斜めになってるし、上から見るとそのまま落ちるんじゃないかと思うくらい急だし。ランニングの最後でこの階段はかなり大変で大変で。

で、登りがこんな風だから帰りは楽になるかなーなんて思ったけど下り坂の方が大変だったの。なんかね、下り坂を走った方が筋肉を使ってる気がするのよ。持久力ってよりも筋力トレーニングみたいな感じかな。スピードが出過ぎないようにブレーキをかけながら下りたからかもしれない。その神社まで2往復しなきゃいけないって聞いた時は、練習の一環じゃなかったらもう来たくないって思っちゃったわよ。でも人通りとかの通行の安全性を考えてスピード重視じゃないのはちょっと助かってるけどちゃんと練習になってるのかなって思った。あんまり遅いと注意されるけど。


「ランニングって駅の反対側の大通りじゃダメなんですかね」

合宿所に戻ってストレッチをしながら工藤さんに聞いてみた。そっちの方が人通りも少ないから何分で帰って来るようにってできたかもしれないっていう意味で。決して神社の階段がイヤだからって意味じゃないからね。


「あれね。あっちの大通りより山道を走った方が効果があるからよ。知ってる?平坦ではない未舗装の道をグラウンドに再現して、そこを走る練習を取り入れた大学が有名な駅伝大会で連覇したっていうわよ」

「あっそれなんか聞いたことあります。お正月のやつですよね。駅伝の後番組で優勝校の練習風景を放送してましたよね」

「そうそう、あれってクロスカントリー走って言うらしいんだけどね。普通の道路を走るより心肺機能とかバランス感覚を鍛えられるみたいなのよ」

へーそうなんですか。ただ山道に慣れるように作って走っただけかと思ったら、もっとちゃんとした理由があったんですね。


「あと下り坂を走るのもいいらしいわよ。自分の体重と重力がかかる分、道場でやってる筋トレより鍛えられるみたいよ。だからマッサージもしっかりやっておかないとね」


そんな効果もあったんですか。そうしたら持久力も筋力も鍛えられるいいトレーニングになるんですね。普通に山道を走ってれるだけでそんなに効果があるんだったら最後の階段はいらないんじゃないかしら。そう聞いてみたら

「何言ってるのよ。階段ダッシュは必須よ?世界大会に向けての合宿風景とかプロ野球が始まる前の自主トレの場面とかで見たことない?スポーツ選手の練習ではお約束じゃないのよ」


確かによく見るからそうかもしれませんけど、お約束って言われるとはねえ。

ジャンボ鶴田のナチュラルパワー強化バイブル(ナツメ社)を参考にしています

次話は9月5日を予定しています

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