第2話
その後も前受け身と後ろ受け身の練習を繰り返す。うまく受け身が取れると体全体に痛いのが分散してあんまり気にならないんだけど、ちょっとでも失敗するとその一部だけが痛くなるのよね。これが以前言われた「痛いのが嫌だったら体が自然に覚える」ってやつかしら?
「はい、受け身の練習はここまで。次はこっちに集合」
リングから降りていつもの場所に集まる。それにしても私、本物のリングに上がっちゃたよ、いやー緊張したー。あとでおじいちゃんに報告しないとね。
「じゃあこっちに体操のマットだけ持ってきて」
みんなで倉庫に向かいマットを持ってくる。さっき用意しておけば良かったんじゃない?なんて思ったけど、使わないのに用意しても邪魔なだけだもんね。
マットを準備したら首を鍛える運動と引っ張る運動をするというのでストレッチを始める。ストレッチが終わったらマットに四つん這いになり両手両足を広げて頭をつけ、首を曲げて体重をかけて戻すというのを前後左右と繰り返す。首の骨がコキコキ音がするけど気にしない。それが終わったら二人一組になり引っ張り合う運動だ。一人余るので横田さんは堀田さんとペアを組む。足を踏んばって動かないように、今日はタオルを使わず相手の手を交互に引っ張っていく。
何回か数えなかったけど汗をうっすらかいた頃、横田さんから声がかかり午前中の練習が終わる。本格的な受け身の練習をしたからか筋肉痛とは違う痛みが残ってるような気がするよ。
さて、今日のお昼は
・トマトを使った洋風ちゃんこ
・スパゲティミートソース カルボナーラ
・レタスとルッコラのグリーンサラダ
という洋風のメニューになった。と言っても、使ってる材料はあまり変わらないので作り方もほぼ同じ。違うのは味付けだけか。ルッコラは道場では初めて食べるけど部活ではよく育てたなぁ。育てるのは意外と簡単なのよね。ちょっと苦味があるんだけどゴマっぽい風味がアクセントになって美味しいのよ。そしてドレッシングはオリーブオイルとレモンと塩だけっていうシンプルなものだから洋風のちゃんこ鍋の口直しにはぴったりよ。トマトちゃんこの赤とカルボナーラの白、グリーンサラダの緑でまさにイタリアの国旗の色と同じね。ボンジョールノジャポネーゼ!
スパゲティは茹でるだけだしソースは後で和えるだけ。料理がもう少しできるようになったらミートボールをトッピングにしたりミートソースに一手間かけたりしてみたい。ではサクサクと作っちゃいましょうか。
昼食を分担して準備をしていくと工藤さんと立野さんがご飯を用意をしている。あれ?スパゲティがあるから用意しなくてもいいんじゃないの?練習生が少なくなったからそんなになくてもいいと思うんだけど。あ、夜の分かな?
先輩たちが練習を終えて食堂に集まってくる。テーブルの上を見ながら「お、今日は珍しく洋風か、美味しそうね」なんて言いながら席に着く。毎日ちゃんこ鍋だから見た目や味の変化があったほうがいいですよね。前田さんのレシピと商店街からの差し入れだから間違いなく美味しいですよ。
先輩たちに食事をよそいそれぞれ食べ始める。いつもの豪快な食べっぷりは見てて気持ちいいですね。作った甲斐があるってものですよ。
「ねえ、ご飯はないの?」
松本さんがそんなことを言い出した。え?今日はスパゲティがご飯なんですけど。
「何言ってるのよ、スパゲティはおやつよ、お・や・つ。早くご飯を持ってきて」
他の先輩たちもこちらを見て頷いている。え?スパゲティってご飯にならないの?でも炭水化物と炭水化物ですよ?なんでおやつなのよ〜〜〜!
ちょっと訳が分からなくなって動けなくなっちゃった時に工藤さんがご飯を先輩たちに配っていく。
「なによ、あるじゃないのよ。最初から一緒に用意しておきなさいよ」
ちょっとご立腹な松本さんの機嫌がなおり他の先輩たちとともに食事を続ける。あーなんか助かった工藤さんあるがとうございます。でもなんで分かったんだろ?
私たちも食事を終わらせて片付けをした後、さっきのことを工藤さんに聞いてみた。
「そうね、ご飯は別物よ。ほら、今日使ったスパゲティソースって味付けが濃いでしょ?あれくらいだとちょうどご飯が美味しくなる濃さなのよねー」
なんかしみじみ言ってますけど分からないです。お相撲さんだった頃はそういう食生活だったのかな。でも先輩たちもご飯を食べてたし、立野さんも工藤さんとご飯の準備をしてたから運動部・格闘技関係の人たちってそれが普通なのかな。
「麺類は消化がいいから運動する直前の食事には最適らしいわね。ここの練習の運動量が多いから余計にカロリーを摂取しておかないと逆に痩せちゃうかもしれないわよ。だからどんどん食べていかなきゃいけないのかもね、多分だけど。詳しく説明できなくてごめんね」
よく分からないけどそういうものとして考えておけばいいのね。そしたら次回スパゲティを出す時はご飯も用意するようにしよう。
午後からの練習は腕立て伏せと腹筋とスクワットの筋肉トレーニング。回数は前回と同じだったけど種類が増えたので全体的に鍛えられた感じがするよ。
今日のとレーニンが終わり恒例のクールダウンに向かう。ジョギングをしながら腕や肩をぐるぐる回していると山田さんから声がかかる
「あら、佐藤さんは肩周りが気になります?」
「いえ、そうじゃないんですけど筋肉痛が気にならなくなったなーって思いまして」
「それは良かったですね、ちゃんと回復して鍛えられてる証拠ですよ」
ちゃんと鍛えられてるなら頑張った甲斐がありますね、あんまり実感がないけど。
「個人差はあるけどトレーニング後に48〜72時間の休憩をするのがいいのよ。ちょうどその頃に筋肉痛がおさまるから、そのタイミングでトレーニングを始めると効率的に筋力が鍛えられるわね」
へーそんなことが体な中で起きてるのね。だから毎日首だったり背筋だったり違うところのトレーニングをしてたのか。入団する前のイメージだと、朝から夜まで倒れるまで腕立て伏せしたり腹筋したり、足元に汗が水たまりができるまでスクワットするかと思ってたからちょっとあれれ?って思ってたのよ。それに筋肉痛の時にトレーニングしても、体が動かないし余計に悪くなっちゃうかもしれないもんね。
「科学的にきちんとした体勢でトレーニングをすれば何百回もやらなくていいって聞くけどね」
そうなんですか立野さん!じゃあなんでこんなに回数をするんですか?
「根性が鍛えられるじゃないの」
「自分の限界を知り、限界の向こう側にいくためですね」
「これだけ頑張ったんだから私は大丈夫、という自信がつく」
「追い込まれた時の対処力?」
山田さん、工藤さん、堀田さんまでそんなこと言いますか。でも科学的・効率的に鍛えるのも大事だけど、体と一緒に精神面も鍛えられるって大事ですもんね、これからのことを考えると。私も負けてられないなー。
残暑お見舞い申し上げます
毎日体温並みの暑い日が続きますが、皆様体調管理に気をつけてお過ごしください
次話は8月25日を予定しています




