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デビューするまでの話 その2 第1話

ドリーム・ファクトリー旗揚げ1周年記念!

二日連続で投稿します

次の日、ゆっくり休めたおかげかちょっと気になる筋肉痛も治ったようで体が軽く感じるよ。いつものように食事と片付けと道場の掃除を終わらせてから先輩たちのお出迎えをする。そのあとは簡単にミーティングのような事をして、それぞれの練習場所へと向かう。私たちはいつもの場所に集まって、教えてくれる先輩が来る前にマットを用意しようかな、なんて思ってるところに横田さんがやって来た。


「はーいおはよう、ゆっくり休めたかな?今日からは陸上のマットを使わないでこっちで練習します」といってリングへと向かう。うわーリングだー。毎日見ていたけど実際に目の前でちゃんと見ると結構な大きさと高さがあってなかなかの迫力ね。


「じゃあみんなリングに上がって」と横田さんに促されたので立野さんから一人ずつ順番に上がっていく。

私はその言葉を聞いた途端に緊張してしまう。なんだろう、おじいちゃんからプロレスのことを色々聞いてたからか、練習生になったからってここに上がるのはまだ早い気がするのよ。先輩たちが汗水流して一生懸命練習して、プライベートの辛いことや悲しいこと、ケガしてることを隠しながらお客さんたちを楽しませたり感動させたりする場所、練習生が何人も振り落とされてたどり着けなかった神聖な場所だって聞かされて育ってきたので特にそう感じる。でも皆さん、なんでそんな普通に上がれるの?おじいちゃんからの教育か薫陶が行き届いてるのが変な方向に影響されてるのかな。そういう風に思ってるのはどうやら私だけらしい。かといってリングに上がらない訳にもいかないので「失礼します」と言って小さな階段を使い上がる。靴は脱がなくていいのよね。

リングのはじっこの方は硬い感触なのにロープをまたいで入ったところは厚めのウレタンクッションのように柔らかい。そして三本の黒いロープで囲まれてるからなんとも言えぬ圧迫感がある。今日のロープは少したるんでるそこまでの圧迫感は感じなかったけど。


「今日から本格的な受け身の練習に入ります。先日までの練習を見てると後ろに倒れることへの恐怖心はだいぶ薄れてきたようね」

そうですね、陸上のマットなら安心して倒れられますからね。その上に体操のマットをひいたやつにもできるようになりました。


「最初に言っておくけど、受け身は自分の体を守るのに絶対に習得しなければならない技術だからね。これができない限りプロレスラーとして試合に出す訳にはいかないから、いつも以上に真剣に取り組んで、いいわね。ではまず前受け身からやって見せるね」

と言ってヒザ立ちの体制になり、そのまま両手をつけて倒れる。


「ここでポイントなのは手のひらと腕の内側、胸とお腹が同時にマットに当たるようにすること。そして顔がマットに当たらないようにすること。あと目はつぶっちゃダメよ。はい、やってみようか」

私はヒザ立ちになってから横田さんと同じように両手を頭の高さくらいのバンザイをしてから前に倒れる。手と胸とお腹を同時につくようにと言われても、マットが近づいてくるとどうしても手が先に出ちゃう。


「そんなに痛くないはずよ。怖がらずにちゃんと体全体がマットにつくように倒れないと!そうしないとそこだけに負担が掛かってケガの原因にもなるからね」

んー、どうしても手を先について体をかばってしまうからヒジをちょっと体から離してみたらどうだろうか。


「こればっかりは反復練習でしか身に付かないからね。何回も繰り返して!」

そのあとも何度もドッタンバッタンとやってみてもどうもうまくいかない。ヒザから上の高さだけれどもマットが迫ってくると怖くて手が先に出てしまう。いっその事倒れる寸前で目をつぶっちゃうのはどうかしら?あっ、目をつぶっちゃうのはダメだったっけ。


「はーい、ちょっとストップ。うまくできてないようだからもう一度見せるわね」

先程と同じようにきれいな前受け身。音も私と違ってトスンと一回だけしかしない。

手のひらと腕でマットを叩くような感じかな。その時少しだけ横を向いて倒れたら、怖いのがちょっとは感じなくなるかもしれない。

手の高さは顔くらい、脇は広すぎず狭すぎず。まずは両手、次に胸とお腹が当たるように。横田さんのお手本を意識してやってみよう。


ドスン、と倒れる。お?何かいい感じ?


今のを忘れる前にもう一回。両手、すぐに胸とお腹がドスンとマットにつく。さっきより体全体が痛いけど腕だけとか体の一部だけ痛いとかがなくなってる?ではも一度。顔は少し横を向いた方が私にはいいみたい。


最初は全然できなかった事が少しでもできるように感じると、もうちょっと、もうちょっとうまくできそうって思って受け身を取る練習にも身が入りスピードが上がってくる。もしかして2回目のお手本は私のきっかけが掴めるようにしてくれたのかな?

そうこう繰り返していくうちに、何となくではあるけど受け身っぽいのが取れるようになったかな?そう思っていると横田さんから声がかかる。


「初日にしてはまあまあできるようになったみたいだから、次は後ろ受け身ね。これもやってみるから最初は見ててね」

お相撲の立会いの手をつく前みたいな体制から軽く後ろへ跳ね、マットと体が水平になる。腰の横あたりで両手でマットを叩きながらお尻と腰、背中と一緒に倒れバスンと大きな音がする。


「こんな感じね。大切なのは後頭部をぶつけないようにアゴを引くこと、おへそを見るような感じかな?それと前受け身と同じように腕と体全体が同時にマットに当たること。お尻だけとか肩だけが痛くなるのは受け身がちゃんと取れてなかったり体勢が悪かったりしてるからね。それに後ろに倒れるのはもう慣れたでしょうから思い切ってやってちょうだい。と言ってもまだ怖いなって思うならお尻をつけた状態からでもいいわよ」


これはね、ちょっとだけやった事があるんだー。家で腹筋をした時に、「これ、腹筋したあとの戻る時に両手をついたら受け身の練習になるんじゃない?」って思ってやってみたの。そしたらそれっぽくできたのよ。ちょうどお尻をついた体勢と同じだから、もしかしたらいいかもしれない。

背筋を伸ばし倒れ両手でマットを叩く。背中と同時についたのかドスッと音がする。多分いい感じ。他の人のを見てみると、私がいう事じゃないけどきれいにできてますね。工藤さんだけちょっと苦戦してる感じかな。


よし、次は横田さんのお手本通りにやってみようか。お尻がマットから離れるのはちょっと不安だけど、さっきのと同じようにすれば大丈夫なはず。軽く跳ねるというよりもそのまま倒れる感じで受け身を取ると、ちょっとタイミングがずれて背中がつくのが早かったか。次は両手の方も気をつけてえいっと後ろに倒れる。うん、今度のはうまくできたと思う。いい感じだったのでもう一度。


しばらく続けていると横田さんからまた声が掛かる。

「もっとアゴを引くのを意識して。頭がマットにぶつかってる人がいるよ!」

おっと、そっちの方は全然気にしてなかったよ。危ない危ない。

プロレス入門(ベースボールマガジン社)を参考にしています

次話は8月15日を予定しています

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