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第18話

前田さんが事前にほぼ準備をしてくれた昼食と片付けをを済ませた後、休憩を挟んで午後からの練習が始まるまで工藤さんと待っていると立野さんたちがやってくる。そしてさっきのトランポリンの話題になって、最後はちょっとだけ笑い話のようになった。


「おーし、お前ら揃ってるな。なんだよ、また人数が減ってるじゃねえか」

この時間の練習は松本さんが見てくれるようだ。それにしても、その格好はなんでしょうね。水色に白い二本線が入ったジャージの上下に、金属のフレームで四角いレンズのサングラス姿。首から笛をぶら下げて手には竹刀を持っている。おじいちゃんの部屋にあった、昔の学園ドラマで見たことのある体育教師みたいじゃないですか。もしかして鬼教官みたいなことをやりたいんですかね?


「ったく。おーし、今日は私がガンガン鍛えてやるからな、覚悟しろよ?まずは腹筋から始めるぞー、マット持ってこーい!」

みんなでマットの準備をするんだけど、特に立野さんが首を傾げてるのよね。もしかしたら実業団にいた頃と態度とか行動とか変わっちゃって「あんな子だったのかなー」とか思って戸惑ってるのかな。


「ピュロ〜〜〜、遅いぞ、早く!ピッピッ」

笛を使って急かされちゃったけど、最初にピュロ〜〜〜って力無く鳴っちゃったのは吹き慣れてないですよねきっと。


「マットの準備ができたらストレッチ、ピッ」

言われた通りストレッチを始める。まずは足を組んで体をひねって、反対側も同じようにして、それからうつ伏せになってから体を持ち上げるように反らせるのよね。


「おーし、手を胸の前で組んで。そっちの端から号令を出してこっちまで。一人10回ずつで1セットな。よーい始め」

1、ピッ、2、ピッっと号令を出して腹筋で体を持ち上げる間に松本さんが笛を吹いてるけど、それって意味があるのかな?なんて思いながら腹筋を始める。テンポが初めての頃と比べると多少速くなってる感じで、こっちの方が自分でトレーニングしてたのと同じくらいだからやりやすいかも。周りの人たちもスイスイっとできている。


「おーし、ちょっと休んだら2セット目いくぞ。次は手は頭の後ろな」

2セット目もなんの問題もなくスイスイっとできている。やっぱり鍛えていると体が慣れてくるのかな?そんなこんなで2セット目も終わらせる。ちょっと休んでから手を頭の後ろにしたまま3セット目に入る。途中からだんだんと号令の声が小さくなってくる。


「おーい、何回目だ?声が聞こえないぞ」

私たちの頭の近くを竹刀を担ぎながら見て回っている松本さんが言ってくる。流石に100回を超えてるんですから声も小さくなりますよ。


「なんだー、聞こえないぞー。まだ0回か〜?1、2〜」

えっ!それはないですよ。勝手にリセットしちゃわないでください〜。それに負けないように声を出そうとするけど思ったように声が出せなかったせいで3セット目は前の練習より回数が増えてしまった。


「おーし、次は背筋な。じゃあストレッチから」

腹筋が終わったのもつかの間、次のトレーニングの準備だ。ストレッチの間だけちょっと休める。でもこれは休みとは言えないか。


「おーし、背筋は私の笛に合わせてな。それではよーい始め!」

ピッピッっとリズミカルな笛に合わせて背筋をしていく。それにしても「おーし」っていうのは口癖?それとも昔の体育教師っぽいのを演じてるのかな。形から入るタイプ?それとも「私はお前らより強いんだぞ、偉いんだぞ」っていうのをアピールしてるのだろうか。そんなことしなくても分かってますよ。あ、もしかして立野さんがいるから無理してる?だったらそんなことしなくてもいいと思いますけど。

なんの問題もなく背筋を50回ずつ3セットを終わらせる。松本さんの号令だったから回数をごまか…増える事無く終わらせることができた。


「おーし、最後にスクワットな。じゃあストレッチ!」

マットに足を伸ばして座り、ふくらはぎの筋肉を伸ばし、膝を折ってモモの前の筋肉の左右と足の付け根のところも伸ばしていく。


「おーし、じゃあマットの向こう側に並んで。一人40回ずつを2セット、そっちから号令な」

「松本さん、前回のトレーニングの時に豊田さんは一緒にスクワットしてくれましたから松本さんもご一緒にどうですか?」

な、何言ってるんですか立野さん!そんな事言わない方がいいんじゃないですか?

「いいんです・・だよ私は、たて・・みづき・・・さん!じゃ、じゃあ始めるぞ、よーい、ピョロッ!」

やっぱり意識してたみたいですね、最後はしどろもどろになっちゃって。なんか可愛いなあ。でも後で面倒なことにならなきゃいいんだけど。立野さんもあんまりからかったりしないほうがいいと思いますよ?


順調に回数をこなしていき、私が号令をかけてる時にそれは起こった。

「そういえば、いま何時だい?」

そんな事、今聞かなくてもいいんじゃないですか?練習が始まってまだ二時間も経過してないですよ、自分で見た方が早いですよ?なんて思いながらも道場の時計を見る。

「27、28、はい、16時半です」

「はい16〜、17〜、18〜、どうした、回数を間違えてるぞ」

えええ〜〜〜っ!何言っちゃってくれてるんですか!そんなお蕎麦の屋台の落語みたいな事して私たちをどうするつもりですか!立野さんと私の方を見てニヤリ、なんてしないでくださいよ。もしかしなくてもさっきの仕返しとかじゃないですよね?

その後も声が小さいとか言いながら号令を1からやり直しさせたり38を何回も繰り返したり。まさか、これが新人いびりというものですか?


「おーし、今日はこんなもんかな、みんなお疲れー」

なんて捨てゼリフ言って道場から離れていく。担いでる竹刀が小刻みにゆらゆら揺れている様子からするとなんかご機嫌ちゃん?やってやったぜ感を醸し出してるけどなんだったんだろう。


「わ〜なんかごめん。原因は私だね。練習前にあんな事言わなきゃ良かったよ。悪い子じゃないんだけど、どうしても自分が優位に立ちたいっぽいんだわ、ホント申し訳ない」

立野さんにそう言われても…でもそういう人ってたまにいるけどやっぱり面倒だなー。

ただ、それなりに疲れてはいるんだけど「もう動けませ〜ん」感じではないんだよね。


「ちょっと意地悪っぽい事されましたけど、回数的には腹筋もスクワットも前回の練習より50回くらい多いだけでしたね」

山田さん、冷静に数えてたんですか、余裕だなあ。私なんかあたふたしちゃっただけなのに。


「もし新人いじめのようでしたら上田さんに報告しなければいけないじゃないですか、そのためですよ。それが今後も続くようでしたら、の話ですけどね」

そうかもしれないですけどね。でも、こう直接意地悪っぽい事をされたのは初めてかな。


「それでも止まらないようなら私がキュッ、ってしちゃいますから。襟があるものを着てますから一瞬ですよ」

うふふって口を隠す仕草が素敵ですけど山田さん、そのキュッ、っていうのがどういうものか分からないし分かりたくないですし、その目が笑っていない笑顔が怖いです。

次話は7月25日を予定しています

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