第10話
「晴ちゃんお疲れさま〜」
「お、お疲れさまです?」
「どうだった、あの3人は?」
「そうですね、まだ技を受けただけですからそこまでは。でもびっくりしましたよ、新人さんたち、いつの間にあんな技ができるようになってたんですね。ずっと一緒に練習してきたのに全然気がつきませんでしたよ」
「あれかしら、私たちの時みたいに秘密で特訓してたんでしょうね。今日のためか本格的なデビュー戦のためなのかわからないけど。で、改めて技を受けてみた感じはどうだった?」
「ん〜、先輩たちとかと比べたらダメなんでしょうけど、それほどダメージを受けなかったというか、重さ?が感じられなかったというか…工藤さんは外から見ててどうでした?」
「そうね、まず思ったのは序盤からあんな大技を出したのって渡辺さんの指示なのかなってことと予想以上に動けてるってことかしら」
「そうですよね、みんな緊張した様子もなく試合をしてますよね。お客さんも盛り上がってるみたいですし、ひとまずは安心してもいいみたいですね」
「初っ端からあんな大技を決められたらいやがうえにも盛り上がるわよね。でも、それを受け切った晴ちゃんも大したものだと思うわよ?初見の技もあったでしょう?」
「いや〜それはほら、試合前の打ち合わせで狙われるとしたら私か堀田さんだろうから気をつけようねって注意されてましたから。見たことのない技もありましたけど、受け身をしっかりしていけばって思ってたのでなんとかなりましたよ」
ここで青コーナーの木村と長谷川がタッチ
「工藤さん、もしかしてですけど堀田さんも3人と当たるまでタッチしないとかありそうですか?」
「あーやりそうね。でも晴ちゃんと違ってずっと受けるだけじゃなくて多少は反撃するんじゃないかしら。やられっぱなしは性に合わなさそうだし」
「かもしれませんね、ついでに自分のことアピールしてきそうですね」
「間違い無いわね。ほら、高速ロープワークからヘッドシザースホイップで夏姫ちゃんを場外へ投げ飛ばしたわね。っていってるうちにトペ・コンヒーロ!もしかしたら私の出番が来るかも」
「ホントだ、長谷川さんの髪の毛を掴んでこっちを見ましたね」
「そうだ、もしかしたら3人で行くかもしれないから晶ちゃんにも言っといてね」
「わかりました」
堀田、長谷川を捕まえたまま赤コーナーに。工藤とタッチ
「堀田さん、お疲れさまでした」
「お疲れってほどじゃ無いけどね。百合奈ちゃんとはずっと一緒に練習してきたからなんとなくやりたいことはわかってたし。夏姫ちゃんはもう少し技の精度を上げないとね。でも2人とも道場で見てた以上に動けてたかもね」
工藤が長谷川を青コーナーに投げつけ西田に出てこいと手招きをする
「江利花ちゃんはクリスさんとか豊田さん以外に力くらべができる子が入ってきて嬉しいんでしょうね」
「おー、手四つの力くらべからショルダータックル合戦!なかなか迫力がありますね。西田さんも負けてないんじゃないですか?」
「あの子はおっとりしているように見えるけど結構頑固で意地っ張りなところもあるからムキになって江利花ちゃんを倒そうとしている表情がいいわね、こっちにも必死さが伝わってくるわ」
「でもいいんですかね、私たちコーナーでこんなにおしゃべりしてて。ああそうだ、工藤さんが言ってましたけど、もしかしたら3人で行くかもしれないから用意しておいて、だそうです」
「了解よ。それにこれはおしゃべりじゃなくて作戦会議と状況の共有ってやつだから。それはともかく試合開始前に襲撃されちゃったからやり返さないとね。晴子ちゃんは大丈夫だった?」
「はい、始まったばっかりでしたし受けに徹していましたから、そこまでダメージはありませんでしたね」
「まあ晴子ちゃんにダメージを与えるには相当無茶なことしないと、だもんね」
「そんなことないですよ。痛いしキツイし、試合が終わった後に動けなくなったことあったじゃないですか」
「あれって五番勝負の時でしょ?あれ以降の試合でそんなことあったけ?なかったと思うんだけどなー」
「えーと、どうでしたっけ?...あっ、向こうは3人で工藤さんに攻撃してますよ!助けに入らないと!」
「まだよ、江利花ちゃんが反撃に出たら、それを合図に行くわよ。私が百合奈ちゃんに対応するから晴子ちゃんは夏姫ちゃんをよろしくね。…ゆかりちゃんを切り返してコーナーに振ったわ、行くわよ!」
「ハイっ!」
実)青コーナーの連続攻撃を耐え切った工藤が西田をコーナーに!赤コーナーからカットに入って各選手をコーナーに押し込み対角線のコーナーへ!リング中央で青コーナーの選手が激突!直後に同時のブレーンバスター!綺麗な弧を描きマットに打ち付けた!さらに堀田が木村にゴリースペシャル、佐藤が長谷川にフェイスロック、工藤が西田にベアハッグに捉えた!三者三様の得意技で締め上げる!見事な連携!
解)カットに入るタイミングが完璧でしたね。新人たちも頑張っていましたがチームワークという点ではこれからっていうところでしょうね。
実)タイミングもそうですが誰が誰に向かうというのも迷いなく入ってきた感があります。
解)そうですね。これはコーナーで控えている時の差だと思います。青コーナーはただ休んでいるだけのように見えましたが、赤コーナーは選手が替わるたびに情報交換をするように話し合いが行われていましたね。毎日同じ場所で練習をしているので誰がどのような動きをするかは大体わかりますが、試合となるとその通り動けているかはその日のコンデションにより変わってきますし体調やダメージの具合なども違ってきます。それを考慮しておけば、次はどうするか作戦も立てやすいですからね。
実)コーナーではそんなやりとりがあるんですね。さてリング上では西田がベアハッグから逃れたところで他の選手たちもコーナーへ戻っていきます。工藤は西田を連れて赤コーナーへ、佐藤とタッチ。フライングメイヤーからスリーパーホールドへ、すぐにカバー、カウント2で返す。堀田は替わると横入り式の足4の字固めですか?そこからぐるぐると体を回転させスクールボーイのように丸め込んだ!これも返す!工藤とタッチ、すぐにカバー!2で返すも続けてカバー!これも2!さらに両足を抱えてどうだ!ギリギリ2で返した西田!佐藤が入ってきて西田を起こす、その手を払いのけてハンマーパンチ!連打連打!ロープに走って体当たり!青コーナーになんとこ戻れました!
解)攻められっぱなしでしたけどなんでもいいので一発返してからコーナーに戻ったところはいいですね。もう技とかではなく気持ちでぶつかっていった感じが彼女の気の強さが見えましたね。
実)長谷川と木村がダブルのドロップキック!長谷川のジャーマンは投げっぱなし!そこへ木村の足踏みフットスタンプ!さらに長谷川がその場跳びムーンサルトプレス!カバーは2!こちらも見事な連携を見せていきます。
解)青コーナーの連携もなかなかですね。このままの勢いでつないでいければと思いますがどうでしょうかね。
実)試合は中盤から終盤に差しかかろうとしています。長谷川はパワーボムの体勢、耐える佐藤、…しかし強引に持ち上げ…身を翻しウラカン・ラナで切り返す!唖然とする長谷川にエルボー!走り込んでの一発にヒザから崩れ落ちる!カバーはカットが間に合いました!不意をついた強烈な一撃に長谷川の動きがパッタリと止まってしまったようです。ボディへのエルボーからスピンキック!胸元にヒット!カバーは2!
解)青コーナーは元気が無くなってきましたかね。序盤から積極的に攻めていたのは良かったのですが、思った以上にスタミナをロスしてしまったようです。
実)いわゆる攻め疲れというところでしょうか。試合中に成人女性を、それも鍛え上げて筋肉量も多いでしょうし、もちろん抵抗もする相手を持ち上げたりコントロールするには相当の体力も必要でしょうからね。そう言っている間にもなんとか木村とタッチ、赤コーナーも堀田と替わります。木村の連続ドロップキックを受けても倒れない!それでもがむしゃらに気持ちだけで戦っているかの勢い!ロープに走って、これは堀田のシュミット式バックブリーカー!すぐにボストンクラブ!ロープに逃げるが引き戻される!ここでカットに入る西田を工藤が、長谷川を佐藤が阻止して同じようにボストンクラブ!がっちり体重を落とす。苦しい表情の木村、返すことができるか…あーっとここでたまらずギブアップ!ゴングが鳴らされました!
実)お互いに検討を讃える選手たちですが、新人選手にとってはほろ苦いプレデビュー戦となりました。さて上田選手、この試合をご覧になってどうでしたか?
解)想像以上に良かったですね。それぞれが個性を生かしたファイトスタイルが出来上がっているようでびっくりしました。私や今日戦った先輩たちのデビュー戦と比べてもレベルが高かったと思います。あとはスタミナと経験を積んでいけばもっと面白いことになりそうですね。
ここで上田が本部席を離れ、リングに上がる。
「会場の皆さん、彼女たちの必死に頑張っていた姿、最後はちょっとスタミナ不足になっちゃいましたけどプレデビュー線とは思えない素晴らしい試合はどうでしたか?」
わー!パチパチ!すごかったぞー!
「ありがとうございます。これから、彼女たちはもっと強くなってもっともっと魅力的な選手になりますので、その成長と活躍を見守って頂けだらと思います。そして新入社員の皆さんも彼女たちに負けないくらいの活躍を期待しています。本日はありがとうございました!」
実)結果負けてしまいましたが、さらなる成長に期待のかかる一戦になったかと思います。それではこの辺で実況を終わりにしたいと思います。ありがとうございました。
次話は9月5日を予定しています




