第4話
そして14:00ちょっと前、道場でまったりしたり他の練習生とお話ししながら待っていると
「は〜い、集合〜!」と声がかかる。
「どお、ゆっくり休めた?それじゃあ午後からは首と肩を鍛えるトレーニングをしま〜す。みんなで体操マットを4枚持ってきて〜」
倉庫からさっきまで使ってたマットを運び出し縦横2枚ずつ合わせるように並べる。
「マット1枚を3人で使えるように間隔を空けて並んでね〜」
それぞれマットも前に並ぶ。私の両隣りは工藤さんと山田さんだ。こうして山田さんを見ると私と全然似てないじゃん。あの記者の人、どこをどう見てたんだろうね。
「じゃあトレーニングを始める前にストレッチからね〜」
まずは両手を組んだ状態で頭の後ろに回し、ゆっくりと下に向ける。これより下がらなかったり痛くなったところで20秒キープ。
「ストレッチしてる時は息を止めちゃあダメよ〜」
鼻で呼吸をしながら20秒数える。首の後ろが伸びてるのが分かるよ。
次は両手をアゴにあてゆっくりと上に向け、これより上がらない状態のところで20秒キープ。ここでも呼吸を止めないように注意する。おお、伸びてる伸びてる。
その次は頭の左側、耳の上あたりにに右手をあてて右側にゆっくり倒す。これも倒れないところまできたらそのままキープ。
「この時、首は前後に倒さないように気をつけてね〜。20秒たったら反対側もね〜」
普段の生活で首のストレッチなんてしないから筋が伸びてるのがよくわかるよ。
「それじゃあもう1回〜」と同じように繰り返すと、なんだか首回りが軽くなったような気がする。
「は〜い、終わったらこっちに注目〜」
と言って萩原さんがマットの上で四つん這いになる。そこから頭をマットにつけて、いわゆる土下座?のような体勢になった。
「それじゃあ第一段階、両手の位置は頭を付けたところと横一直線になる場所について、頭はおでこじゃなくて天辺をつけるようにね〜」
同じような体勢をとると、両手に力をちゃんと入れてないと頭と首に全体重が乗ったように感じる。これはマズイ、手の力を抜いたらダメなやつだ。
「そしたら首をゆっくり右側に曲げて〜、体重をかけて〜、はい戻して〜」
うそっ、この状態から曲げるの?ちょちょ、ちょっと〜。
「戻したら今度は左側〜、曲げて〜、体重かけて〜、はい戻して〜」
「同じようにアゴを引くように曲げて〜、体重かけて〜、戻して〜」
アゴを引くようにってことは頭の天辺をより向こう側に?むぐぐ、喉が詰まる〜。
「最後に鼻をマットに付けるように曲げて〜、体重かけて〜、戻して〜、はい終了〜」
いやいやいやいや、これは間違いなく肩が凝るね。四つん這いの体勢から戻してから首と肩をグルグル回していると
「次行くわよ〜、第二段階、膝を浮かせて両手と両足だけで体を支えて同じようにしてみようか〜」
ええーー、ちょっと待ってよ!まず両足をちょっと広げて、もうちょっと広げて、両手で支えるようにすればそれらしい体勢にはできたけど、ここから体重をかけるとなるとかなり厳しいかも。体重をかけないで首を曲げるのはなんとかできるけどそれ以上のことなんてとてもとても。おお、隣の山田さんはグイグイと首を曲げたり戻したりできてるよ。工藤さんも山田さんほどじゃないけどできてる。さすが格闘技経験者ってところでしょうか。
「どお?できない人は第一段階に戻してもいいわよ〜、できてる人はそのままで5セットね〜」
できてる人は山田さんと工藤さんと立野さんと何人かくらいかな?それにしてもこの首を鍛えるトレーニングは気がつかなかったな。気がついてたら入団前に自主練できたのに。5セットを終えた頃には目が回ったような乗り物酔いしたような、ちょっとクラクラしてるよ。
「第三段階もあるけど今日は止めておきましょう。じゃあ次ブリッジ〜」
もう一段階難しいのもあったのね。首の鍛え方ってそんなに種類があったなんてかなり勉強不足だったわよ。でもブリッジならできるよ、こう両手両足をつけて体を弓なりに反って爪先立ちになるんだよね。おじいちゃんの部屋で見つけた、少女に悪霊が取り憑く古いホラー映画を見たときにちょっと真似してみたんだから。動いたり階段を降りたりはできなかったけど。
「その状態から頭をマットにつけて両手を離して胸の前で組んでみようか〜」
ただのブリッジじゃなくて首を鍛えるブリッジだったのね。まさかこの状態から曲げたりするの?
「そのまま15秒キープして〜、12、13、14、15〜、はい戻って〜」
曲げる動作がなくてよかったよ。ブリッジをしてるときに周りから、うっあー、とか、うっふー、とかちょっと艶かしい声が漏れ聞こえてたけどこっちはそれどころじゃなかったからね。途中で足がプルプルしてもう少しでブリッジが崩れそうで大変だったんだから。
「は〜い、軽く首をほぐしたら肩を鍛えるトレーニング行くわよ〜。じゃあ肩のストレッチからね〜」
四つん這いより少しだけ両手と両ひざの間隔を空けた体勢になってから腰をゆっくりと後ろに引いて両腕と肩あたりを伸ばし、これ以上いかないところで20秒キープする。
次に元の四つん這いの体勢に戻ってから右腕を横に伸ばし右肩をマットにつけるように伸ばす。これ以上伸びないところでキープ。左側も同じようにする。
その次は立った状態で右手を伸ばしたまま水平に体の前に持っていき、左手で右手の肘を抱えるように引きつける。痛みを軽く感じるところまで伸ばしたらその場でキープする。反対の腕も同じように伸ばす。
「その時背中が曲がらないように、抱える手は肘より肩に近い方を持ってね〜」
腕の付け根から肩の後ろあたりがぐぐぐ〜っと引っ張られるのが分かるよ。
「は〜い、ストレッチが終わったらこれ持って〜」
とタオルを渡される。ん?全員にじゃなくて私がいる列には渡されて向かい合う列には渡されない。
「じゃあ正面の人とそのタオルを引っ張りあってもらいま〜す。これも最初は見ててね」
と言って萩原さんは一人余ってるところに入りそ正面の人に指示を出す。
「タオルを半分の長さにしたら握りやすいように丸めてお互いに両端を持ちま〜す。そうしたら向かい合って足を肩幅よりちょっと広めに広げて腰を落とし、タオルを引っ張り合いま〜す」
本当にタオルを引っ張るだけなんだ。
「この時注意するのは足を動かさないようにしっかりと踏ん張ること、引っ張られる時にちゃんと相手に負荷がかかるように力を入れること、勢いをつけずに腕の力だけを使うこと。それじゃあ50回やってみましょ〜」
これはなかなか力がいるトレーニングだね。ただ引っ張るだけじゃなく引っ張られる時も力を抜けないから余計に大変だよ。普通の腕立て伏せよりキツいかもしれない。それにお互いの力加減やタイミングを間違えるとバランスを崩して転びそうになっちゃう。
「いい感じね。そしたら次はタオルを置いて、相手と右手と右手、左手と左手を繋いで〜」
え、え?っと向かい合う人と頭をひねりながら萩原さんの方を見ると、ちょうど繋いだ手と手が交差するようになるのか。
「そうしたら同じように引っ張り合いましょ〜」
片方の手を引っ張りながら反対の手を引っ張られ…ああ、頭が混乱しそうになる。
「慣れないうちは引っ張る手に合わせて腰を動かすといいわよ〜」
おおっ、これならなんとかできそうよ。ただこのままだとお腹周りのトレーニングになっちゃいそうだからなるべく早く腕だけでできるようにしないと。でもこれって腕だけじゃなくて下半身から背中から結構全身運動になってるような気がするんだけど。
「はい50〜、こんな感じね。どお、体調が悪くなった人いる?いないようなので首のトレーニングから通しでやってみましょう〜」
ここまでトレーニングしてた時間は1時間も掛かってないんだろうけど、慣れないことをしたからか精神的に疲れちゃったよ。
ジャンボ鶴田のナチュラルパワー強化バイブル(ナツメ社)を参考にしています
次話は3月5日を予定しています




