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第15話

大会終了後、参加者さんたちでお疲れ会というか暮年会的なことを合宿所の食堂で行うことになり、テーブルを一部どかして休憩室と行き来できるように立食パーティー会場を作りました。20人くらいが揃うとそれなりに圧迫感がありますがアットホームな雰囲気でパーティーが進められていきます。


休憩室のソファーには上田さんを中心にCRGの志村さんと、なぜかダイヤモンズの佐々木さんと九龍城のパンテーラ会長がいらっしゃいます。まるでVIP席のような豪華な顔ぶれです。そこへ他の団体の選手が入れ替わり立ち代り挨拶に来て写真を撮ってもらったり握手をしたりとちょっとしたファンの集いのようになっているのはご愛嬌というところでしょうか。


それなりに手の込んだ料理やお酒もあって楽しく過ごせているようです。今日は商店街の婦人会の皆さんが用意してくれたので、私たちや新人さんたちもパーティーを楽しませていただいておりますよ、ちょっと恐縮しちゃいますけど。しかもやたらと選手に話しかけたりサインをねだったりしないところがありがたいですね。なぜか商店街の会長さんが隅っこの方でバーカウンターみたいな場所を自ら作りひとりでグラスを傾けています。いつもは集団の中心にいて、ワシがワシがとやってるのでおとなしくしているのがちょっと気になります。

それぞれの団体や仲良しグループに分かれて盛り上がっている中、私たちも同期で集まって楽しく過ごしているのですが…


「で、晴子。アレは一体何だったの?」

急に凄みを利かせた口調で立野さんに聞かれたのでびっくりしちゃいました。アレというのはセミファイナルのタッグマッチのことですね。確かにいつもと違うスタイルで試合をしたので驚かせてしまったようですが、立野さんならプロレス以外の経験も豊富そうだったので、うまく対応してくれるのではないかなーという期待があったので…


「いやさ、何とか対応できたからよかったものの、うまく決まらなかったらひとりだけ浮いちゃったかもしれないのよ?晴子があんなことするとは思わなかったって萩原さんも驚いてたわよ」

そうですよねー、コスチュームだけならともかく普段と違うことをぶっつけ本番でしたわけですから。


「でもさー晴子ちゃん、最初はあんなことするつもりなかったんじゃない?じゃなかったらわざわざあんなコスチュームを用意しなくてもいいはずだもん、直前で何かあったんでしょう?」

まあそうなんですけど、萩原さんにも迷惑を掛けたかもしれませんね。これは言ってもいいかわかりませんがネタが被ったのは偶然なだけで松本さんは悪くないってことをきちんと説明しておきます。その原因となったゆうのすけくんはパーティー会場の隅っこで会長に絡まれています。もちろん松本さんは中に入っていません。


「なるほどね、確かにあれだけのものを作るのに1ヶ月やそこらじゃ無理でしょうからね。それにしてもいつから用意してたのかしらねー」

「あれは確か七夕祭りが終わった頃に私が相談を受けたのよ。Honey or Trapや商店街のお店じゃ作れないからってどこかいいところ知らないかって」

工藤さんの問いかけに堀田さんが答えてくれました。ってことはやっぱり偶然だったんですね。疑わなくてよかったです。そういうことなら私の作ったゆうのすけくんはなかったことにして終わりにしちゃいましょう。実はちょっとだけモヤモヤとしてましたけど同期の皆さんに話ができてよかったかもですね。


「で、アレは一体なんだったのよ」

あー、話が元に戻ってしまいました。さすが立野さん、酔っていても見逃してくれません。でも本当のことを話ても信じてもらえなさそうなので聞かれたときのための言い訳を考えておきましたよ。子供の頃に見ていた特撮ヒーロー物の敵役のボスが、そのシリーズ中でもっとも弱くて小賢しいマネでヒーローたちを翻弄していたことを思い出したのと、そこに渡辺さんのインサイドワークのテイストをプラスしてみました。あとは萩原さんと立野さんにおんぶに抱っこに肩車していただいた結果、ということにしました。


「そうは言うけどさー、それに気づかなかったらどうしたのよ」

そう言われるとそうなんですけど、なぜか不安はなかったんですよね。今までも何度かありましたが、どうやら周りの人たちに無意識にそうさせる何かがあるみたいです。上田さんとタッグを組んだ時は、ワンツーマンで特別な訓練を重ねた結果だと思ったのですが、堀田さんと組んだときのはご本人もいつもとは違う動きができたと言っていましたからタッグパートナーには伝わったようですが、今回はタッグパートナーの中野さんよりも対戦相手の萩原さんと立野さんに強く伝わったみたいですね。不思議なこともあるものです。



「じゃあ私たちはそろそろ」とダイヤモンズの皆さんが帰る支度を始めると、それを合図にCRGや九龍城のみなさんも帰りはじめ、先輩たちが二次会へ繰り出し始めると会場はいつもの静けさを取り戻しました。立野さんが、ここは私たちが片付けるので、と婦人会の皆さんと新人たちを解放してあげてます。私も最後まで色々手伝ってくれてありがとうございますと送り出しますが、この後何かあるみたいですね。いつもの同期のお疲れ会でしょうか。



「はい、では私から宣言します。来年はシングルでもタッグでもどちらかで先輩たちから直接勝利して、上田さんに挑戦したいと思います!」

おー!山田さんがいきなり何を宣言すると思ったら上田さんに挑むんですね、すごい!私、全力で応援しちゃいます!

「じゃあ私も。タッグのベルトを守るのは当然として、いずれこちらから誰かを指名したいわね。そして一通り防衛を重ねたらGPWOに所属している他団体の選手に挑戦させたいわね」

おー!これも大胆な構想です。チャンピオンになると逆指名みたいなことができるんですね。そしてどんどんとベルトの価値を上げていこうということですか。立野さんらしくて素敵です!


「あー、それは私たちがベルトを獲ったらやっていこうと思っていたことなのに!でもいいわ、今はみづきちゃんと萩原さんが持ってるけどその日まで預けておくわね」

「なーに言ってるのよ、そう簡単に手放すわけにはいかないわよ。晶の方こそ相当の覚悟てきてもらわないとすぐに試合を終わらせるからね」

「あら、言ってくれるじゃないの。まあ、ベルト磨いて首を洗って待ってなさいよ」

「クククク、言うわねー」

「うふふふ、みづきちゃんこそ」

うわぁ、笑顔で会話してるけど目から何かが飛び出してバチバチとぶつかってスパークしていますよ!デビューしてから5、6年経ちますが、こうして同期同士でタイトルマッチを行うことができるなんて。練習生の時は想像もできませんでしたから感慨深いですね。


「私はどうしようかしらね。豊田さんはタッグよりシングルを狙って行くみたいだから10万パワーズは活動休止状態なのよねー。他にパートナーになってくれそうな先輩を探しつつ何かしらの実績を作っていかないとね」

工藤さんは同期どころか団体内でも上位に入るほどの体格とパワを持ち味にしたファイトスタイルですが、なんと言うか直線的な戦い方をするせいで成績が伴ってないといのが渡辺さんの評価らしいのです。でも実際にリングで対すると、それはもうプレッシャーというか圧を感じるんですよ。私のような気弱な選手だとその圧に負けて実力を発揮できなくなってしまいます。先輩たちは経験もそうですがどちらかというと技巧派が多いので、そのパワーをうまく躱してしまいますので、それを打ち破るには更なる力をつけるか技に対応できるようになるか少し前に悩んでいましたね。


「それで、晴子はどうするの?」

え、どうするも何も新人さんたちがデビューするまでもう少しかかりそうなので、練習を見守っていくつもりです。そしてデビューが決まったら自分のこれからについて考えて見ようと思うんですけど……


「晴子さんのそういう考えは素晴らしいと思いますけど、もう少し自己主張をした方がいいと思いますよ?晴子さんはあまり気にしてないようなので言ってしまいますけど、私たち同期の中で、というよりもドリームファクトリーの中でプロレス関係者やマスコミの方々は密かに晴子さんに注目しているのですからね?」

またまた〜、そんなことあるわけないじゃないですか。負ける方が多い私なんて誰も注目してませんて。


「これよ、ホントにもう。晴子ちゃんてどこの無自覚で無双する異世界転生者よ!みたいなことしてるって気づいてる?今日の試合もそう、九龍城でのタッグマッチの時もそう、上田さんとの五番勝負の時もタッグを組んだ時も、配信の時の実況や解説者が晴子ちゃんのことをべた褒めしてるのよ?他の選手の試合だけじゃなくて自分の試合もちゃんと見てる?」

堀田さん、そのたとえははよくわからないですけど。自分の試合って悪いところばっかり目がいっちゃうからあんまり見たくないんですよね。後、実況も何を言われているのか怖いじゃないですか。でも、見ないとダメですかー、そうですか。


お酒も入っていたからでしょうか、最後は一方的に注意されてながらも夜が更けていくのでした。

次話は6月5日を予定しています

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