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第14話

 〜 〜 〜 〜 〜 セミファイナル試合中、赤コーナー控え室にて 〜 〜 〜 〜 〜


「ショウ子さん、晴子が、あの子があんな戦い方ができるなんて…」

「なんだかんだ言ってもあの子はあれくらいできるわよ、って言えたら格好よかったんだけどねえ。でも基礎やなんかを晴子に教えてたのは芹香でしょう?」

「そうなんですけど、あれは想定外もいいところですよ。それにしてもどこで覚えてきたんでしょうね」

「ホントにねえ。合宿所に揃えておいた資料にそんなのがあったのかしら?」


「ちょっとショウ子!何よあの子!あんな試合させておいて大丈夫なの?」

「何よ志村、ノックもしないでいきなり入ってきて。あんな試合っていうけど今日はクリスマスの特別な興行なんだからお客さんに楽しんでもらえたらなんでもありよ?」

「そうじゃなくって!変なキャラクターのはともかく、試合中にあんな笑いが起こるなんて!クリスマス興行とはいえちょっとやりすぎなんじゃないの?」

「もう前のところじゃないんだからやりすぎも何もないわよ。私はそういうのも嫌でココを作ったんだから。晴子が今やってることも芹香がやってたことも、変なキャラクターなのもルールに沿ってやっているんだからみんなプロレスなの。だからこれがうちのプロレスだっていう考えはないわね。自由な発想と信念に基づいて自分たちができるサイコーのプロレスをリングで見せてお客さんが喜んでくれるんだからそれでいいのよ、っていうのは建前で、うちみたいな零細企業は使えそうなものでも使わないとね」

「…ショウ子ってそういうところあったわね。私も飛び出したクチだからあれだけど。でもまあ、そういうことにしておいてあげるわ。それにしてもどういうトレーニングをすればあんな風にできるようになるのよ?」

「んー?特別なことは何も教えてないわよ?晴子が今日のためにナイショで準備してたみたいだから、ねー芹香?」

「そうですね、合宿所の空き室で何かゴソゴソしていたみたいですが試合に関してはこちらからは何もしてないんですよ志村さん」

「そう……今度、うちでイベントを予定してるんだけど、あの子借りられる?」

「それはいいんだけど、今日の試合を期待してるんならやめたほうがいいわよ?」

「どういうこと?今日みたいな試合はプロレスを初めて見るお客さんにはわかりやすくて丁度いいと思ったんだけど何がダメなの?」

「うーん、そっちのイベントの時、晴子は今日の半分も出せないと思う」

「なんでよ、あれだけできたら自分の体に染み込んでるんじゃないの?」

「うーんとね、納得できるかわからないけど一応ね。前にタッグで対戦したときのこと覚えてる?」

「もちろん、うちの大木にリングネームを贈った時ね。あの試合の後からちょっと気にはしてたのよ。阿吽の呼吸というか目と目で通じ合うというか、とにかく息が合ってたわよね。悔しいけどさすがショウ子が育てたんだなーって思ったわよ。それが何か?」

「私も期待して何度か組んでみたんだけど、どの試合でもあの日の半分も出せなかったのよ。集中してない訳じゃないんだろうけど、なんか違ってたのよね」

「それって選手として個性とかファイトスタイルを模索中ってこと?」

「そうじゃなくてね、多分これじゃないかなーっていう段階なんだけど、一定以上のストレスやプレッシャーを感じないとあんな風にならないっぽいのよ。っていうのも、いつも以上の試合をした時ってその前に何かしらの事件があったみたいだからそうかなと。芹香がいうには大きすぎるプレッシャーのあまり覚醒したんじゃないかって」

「じゃあ何かしらのプレッシャーを与えたら今日みたいな試合ができるとか?」

「それがね、何度かあった覚醒したっぽい試合ってどれもファイトスタイルが違ってたのよ。だから今日のような試合ができるとは限らないのよ」

「……はぁ、難儀な子だったのね。でも今日はお客さんを楽しませる試合くらいなのにそんなにプレッシャーを受けるようなことあった?」

「これも多分なんだけど、晴子の前にひな子がゆうのすけくんていう商店街のマスコットの着ぐるみを着てたでしょ?あれとネタが被ったみたいなのよ」

「あー、自分が用意してたものが先に出されてパニクっちゃったとかか。でも地元のキャラだったら何回見てもお客さんは喜ぶんじゃないの?」

「ところが、自作の着ぐるみと業者に発注したのとじゃ仕上がりが段違いでしょ。準備していた以上のものを直前に見せられて自分の中でどうしよーってなったんじゃないかしらね」

「気持ちはわからなくはないけど、そういうことならしょうがないわね。この件は一旦保留ってことで。ど、どうするの?そんな子をちゃんと育てあげられるの?」

「それをどうにかするのが私たちの腕の見せ所よ。長所を伸ばせるだけ伸ばして短所は個性として活かせるようにするだけよ。どうするかは企業秘密だけど」

「へぇー、ちゃんと考えてるんだー、あのショウ子がねー」

「何よ、私だってココを作るって決めてから色々やり方を変えてきてるのよ、志村だってローズガーデン作るのにそうだったでしょう?」

「まあねー、いやでもさー、ねー芹香さん?」

「いえ、私は……黙秘させていただきます」



メインイベントが終わると恒例(?)のおもしろ動画の上映会が始まります。

リラックスできそうなゆったりとした曲に合わせて最初に現れたのは新人の三人から。クラシカルな乗馬服を着て馬を乗りこなす西田さん。陸上競技場で走る姿を見せる長谷川さん。高校の制服姿で商店街や海辺を歩く百合奈ちゃん。映像とともに特技や趣味、プロレスラーになりたいと思ったきっかけ、将来はどんな選手になりたいかを話していると「おー、やっぱりあの時の!」「セコンドに可愛い子がいると思ったらこういうことか」「百合奈ちゃん可愛い〜」「お、お姉様〜」「あのムチで〜」なんて声が聞こえてきます。ちょっと加工されていたこともあって可愛さ・綺麗さが3割アップしていますよ。本人たちもこれにはびっくりするでしょうね。堀田さんに連れてこられたスタッフさんに言われるがままやってきたらこんな素敵な映像になっているんですから。さあ、私たちのはどうなってるんでしょうね。


次は松本さん、山田さん、立野さん、工藤さん、堀田さんと私。この5人はスポーツドキュメンタリーを見ているようないつもの練習風景です。技をかけたり受けたり、トレーニングで汗だくになったりと普段見せない姿が映し出されています。自分の姿を見るのはちょっと恥ずかしいけどこれは意外とカッコイイなーなんて思ったりします。松本さんもそう思ったようでえらくご機嫌でしたけど堀田さんは上映中にも関わらず動画を流しているスタッフさんに詰め寄り、怒っているように話をしながら会場から出て行ってしまいました。どこか気に入らないところがあったのでしょうか。そういえばインタビュー的なことをされたけどその場面がありませんね。他の選手たちも概ね良かったみたいです。最後に立野さんと山田さんの1分ほどのスパーリングのシーンが流れた時はいつも見ているのに見入ってしまいました。


その次に流れてきたのは宇野さん、中野さん、大森さんがひとりひとりにインタビュー形式で、新人が入ってきたことで追われる立場であり上の選手を追いかけるという微妙な立場の中で、自分たちの立ち位置を見直し今後どうしていくのかというちょっと重めの内容になっています。宇野さんは堀田さんと百合奈ちゃんとでドリームファクトリー内にルチャ・リブレをもっと浸透させることと年明けのタイトルマッチに向けての作戦をぶっちゃけちゃってしまうも、なーんてね、と本当はどうなのかわからないようにごまかしていました。中野さんは後輩の選手に対しいつでも迎え撃つ心構えはできているからガンガン向かってこい、でもそれなりの反撃を覚悟しておいてと。あと私たちの世代が先輩たちを脅かす存在にならないとダメだろうという熱い思いを語ってくれました。大森さんはキックスタイルを確立しつつ上を狙っていく、下の選手もかかってこいという、中野さんと考えは同じなのかもしれません。


続いては横田さん、萩原さん、豊田さん、渡辺さんが座談会のようにドリームファクトリーのこれからについて語りあっていました。人数が増えてチャンピオンベルトが新設さてれ下の選手が力をつけてきたことで団体内が活性化し、競争意識が芽生えてきたことはいいとしながらも自分たちはそう簡単に追い越されまいと必死にならないといけない、新しいことにもチャレンジして上田さんの持つベルトにも挑戦していきたいとのことです。


最後に現れたのが上田さん。薄暗い居酒屋かスナックのようなところでお酒を片手にカラオケを楽しんでいます。ご機嫌にアニメやマイナーな特撮ドラマの主題歌だったりを歌っていますが、微妙に音が外れたり歌詞が違ったりすると周りから笑い声が聞こえてきます。あれ?これってクリスマス大会の上映用って知ってるんですかね、まるでプライベートっていうくらい作り込まれていません。新人たちの動画がアイドルのプロモーションVTRだとすれば上田さんのは友人が面白半分でスマホで撮ったようなくらいの差がありますよ。そこから上田さんを撮影しているカメラが少しずつ遠ざかるとカウンターでひとり佇んていたクリスさんが映され、何を言うでもなくカメラに向かい何してるんだろうねって感じで肩を竦めます。それだけなのになぜか色っぽいクリスさんに上田さんが「おーいクリス!こっちで一緒に歌おう!」というところで画面が切り替わると定番のクリスマスソングを選手・レフェリー・スタッフさんがリレー形式で歌う映像が流れました。


ある選手は真面目にある選手はふざけながら。ひとりで歌うときもあれば3人、5人とまとまって歌ったりそこへ誰かが乱入したりと終始和気藹々とした雰囲気で2曲流れたあと、全員で「メリークリスマス!」で締めて映像が終わると温かい拍手が起こります。だいたい25分くらいだったでしょうか、面白い要素がいつも以上に少なかったのですが、どなたも最後まで見ていってくれたようです。


上映会が終わるとみんなでお客さんをロビーでお見送りをして今年最後の大会を終えることになりました。

次話は5月25日を予定しています

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