第8話
「第一回戦第三試合、青コーナーよりドリームファクトリー…」
今日の最後の試合は大森さんと私の蹴撃とCRGさんです。今更ですがこれがメインイベントなんて、ヒェ〜、急に緊張してきましたが、大森さんはイキイキとした表情でヤル気満々のようです。
「晴子、最後にもう一度確認ね。リングに上がったら…」
これから入場するという時に声をかけられたおかげで少しだけ落ち着きました。話が終わり入場曲が流れると、大森さんが先頭にダッシュで向かい野球のヘッドスライディングのようにリングに上がります。そして二人が揃ったところで左のミドルキック、右のハイキック、もう一度右のハイキックをしてくるっと回りピタッと止まってポーズをとりました。動きをシンクロさせるのに苦労しましたが、大織さんが満足しているのでうまくできたようです。今日の日のために空手の道着のようなお揃いのコスチュームジャケットを用意していましたので良かったです。
続いて赤コーナーにCRGのお二人が入場してきます。タイトルはわからないけどどこかで聞いたことのあるクラシックの曲が流れてきました。先頭は大木さん、白を基調とした装飾が少なめのワンピースのリングコスチューム。増田さんはダークグレーと白を品よく配色したセパレートタイプです。お二人ともサポーターやコスチュームの一部に真っ赤なバラがデザインされています。静かにリングに上がるとそのまま赤コーナーへ下がりました。
レフェリーにボディチェックと注意事項を受けてお互いに握手してから各コーナーに戻ります。先発はもちろん私、赤コーナーは大木さんが出てきました。
ゴングが鳴らされてリングの中央へ、そのままロックアップからバックの取り合い、腕の取り合い、ヘッドロックをやり過ごして距離をとり一呼吸。さらにロックアップからロープワーク、ショルダータックルは互角です。アームドラッグをかけたりかけ返されたりと技を繰り出し、お互いに何とかペースを握ろうとしていきます。うん、ほどよい緊張感の中で思うように動けていますね。それにしても大木さんの技の一発一発が力強く感じます。ちょっと押され気味になり青コーナーに吹き飛ばされると大森さんが私の肩にタッチ、入れ替わります。そのタイミングで大木さんも増田さんとタッチしました。
他の団体の選手と対戦するといつも思うのですが、団体が違うのにアームドラッグとかバックの取り合いとか、技術的なことってなぜかどこも同じなんですよね。プロレス団体の歴史に詳しくないのでちょっと調べてみると面白いかもしれませんね。
増田さんの対戦は互角かやや大森さんが押され気味で、試合開始までの高かったテンションがだんだんとなくなり必死の形相で対応しています。
増田さんが距離をとり赤コーナーへ戻ると大森さんも戻ってきたのでここでタッチ、リングに入ると増田さんが出てきました。大木さんとタッチしたわけじゃないんですね。これは先輩たちと同じくらいの覚悟で挑まないといけませんね、顔をパンパンと叩いて気合を入れます。
時計回りで近づきながら体勢を低く構え、フェイントを織り交ぜながらバックを取るもすぐに腕を取られてハンマーロック。それを切り返すもすぐに切り返されながらもヘッドロックへ、ホイップして袈裟固めをヘッドシザースで返されます。
続いてロックアップ。私と同じかやや小さい増田さんにガッチリ組まれるとびくともしません。それでも力の入れ方を変えたりしますが微動だにしません。逆にじりじりとロープまで押し込まれてしまいました。うーん、どうしましょう。正攻法で戦ってもなんか敵わない気がしてきました。普通の試合やチャレンジマッチならそのまま当たって砕けてもいいと思いますが、これはチャンピオンを決めるトーナメント、そう簡単に砕けるわけにはいけません。不器用な私に何ができるかわかりませんが何とかしないと。
クリーンにブレイクして再びロックアップ。腕を取られたのを取り返しまた取り返されたので体をねじりながら入れ替わり、腕を取り返すと同時に増田さんを倒すとロープへ走り起き上がるタイミングで低空ドロップキック。すぐのフォールはカウント2。増田さんを起こしコーナーに戻り大森さんとタッチ、そのままリングに残りロープに振ってダブルのドロップキック!強引に起こして背中と胸元にサンドイッチ式のミドルキック!大森さんのフォールはカウント2、コーナーに戻り戦況を見守ります。
タッチしたすぐ後は大森さんのペースでしたが、増田さんにミドルキックを捕まえられてエルボーを落とされると動きが止まってしまいました。そこから赤コーナーに連れて行かれてしまいます。
大木さんはエルボーを落とされた右足を掴みモモの後ろを蹴ったり踏みつけたりしてすぐにタッチ。増田さんはその足を持ってハーフボストンクラブ。腰も同時にダメージを与えていきます。ロープに逃れた大森さんを一旦は離すもすぐに掴んで大木さんとタッチ。マットに固定してその足めがけてトップロープを超えてボディプレス!フォールはカウント2。素早いタッチワークで集中攻撃をしていきます。チームワークはCRGの方が上手ですね。大森さんは苦痛の表情ですがカットの入ってもいいか躊躇してしまいます。せめて視線を送ってくれたり手招きをしてくれたら入りやすいのに。でもこれ以上攻められっぱなしあとあと厳しくなるので次に何かあったらって思っているときに!フォールはとっさにカット!
「大森さん、しっかり!一発返しましょう!」
声をかけてコーナーに戻ります。それが聞こえていたようで大木さんがバックドロップで持ち上げるタイミングで顔面にヒザ蹴り!何とかタッチすると場外に転げ落ちてしまいました。
少しでも大森さんを休ませるためにも私がここで頑張らないといけません。大森さんを起こすとロープへ振りドロップキック!フォールを返されるとスリーパーホールド。動きが止まったかな?というところで再びフォール。これも返されます。ニュートラルコーナーに駆け上がり大木さんが立ち上がるのを待ちドロップキック!はギリギリで躱されて背中を打ってしまい、赤コーナーに引きずられていってしまいました。
そこからは大森さんの時のように一方的に攻められてしまいます。大木さんのボディスラムからキャメルクラッチ、増田さんのボストンクラブからSTF。単純にストンピングや手と足を掴まれたままヒザを落とされたりと腰を重点的に技を受けてしまいます。大森さんはまだダメージが残っているようで、やっとエプロンサイドに手をかけて休んでいる状態です。リングに戻れるようになるにはもう少しかかりそうなので、それまで何とか耐えていかないといけません。
そんな状況を察したかどうかはわかりませんが、増田さんが大木さんを呼び込むとロープへ振られダブルのショルダータックル、引きずり起こされてダブルのブレーンバスター!フォールはギリギリで返すとまたもや赤コーナーへ。大木さんがリングに貼ってくると高速ブレーンバスター3連発!フォールを2で返すとボストンクラブ!意地でロープへ逃がれます。ロープを伝って立ち上がるとバックから捕まれジャーマンスープレックスの体勢!これを受けたらかなり危ない!投げられないように耐えます。それでも強引に投げようとする大木さん。ヤバイ、っこのままじゃというタイミングでカットに入ってきてくれました!さすが大森さん、さすがです!これから逆転…増田さんに捕まり場外へ落とされてしまいました。あーもう、技術とか技とか関係なく、大木さんとこちらにやってきた増田さんに反撃しますが力が入らずにダメージが与えられません。そのうち増田さんのエルボー、大木さんのハンマーパンチ、ダブルの延髄斬り!朦朧としながら前に倒れるとコーナーの前に引きずられて大木さんのムーンサルトプレs…フットスタンプなんて反則ですよ。そのままフォールは返せずに、というか返す気力も体力もなくなってしまったようで3カウントが入ってしまいました。
お腹も腰も痛くてうずくまっていると大森さんがやってきてくれました。介抱するのもそこそこにゴロゴロとリングサイドまで転がされ、肩を担いでもらいながら退場していきます。
「すみません、何もできなくて」
「いや、私の方がダメダメだよ。あれだけ練習してきたことが何もできなかった。増田さん、てかCRGて思った以上に強いんだね」
「そうですね…………悔しいですね」
「うん、悔しいよなー」
こうしてメインイベントが終わり、初代タッグチャンピオン決定トーナメント二日目の第二回戦の対戦カードが決定しました。第一試合は横田さんと松本さんのMFS対中野さんと山田さんのタップアウト、第二試合は萩原さんと立野さんのホワイトハンカチーフ対CRG増田さんと大木さんのローゼンウォルフとなりました。
怖い作画やホラー漫画は不得意でしたが、ぐわしの指は真似してましたね
謹んで楳図かずお先生のご冥福をお祈りいたします
次話は11月15日を予定しています