表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/228

デビューするまでの話 その1 第1話

練習生の朝は早い、と思ったらそうでもなかった。いつも学校へ行っていた時間よりちょっとだけ遅いくらいだった。

朝8時に起床、各々身支度を整え食堂に集まり前田さんの指導のもと朝食を作り食べて片付け、昼食の仕込みまで終わらせる。これだけのためにわざわざ顔を出してくれた前田さん、自分のお店もあるのにありがとうございます。それから道場の清掃を9時30分までに終わらせる。その時間くらいになると道場に先輩たちがやってくるらしいので、入り口近くで整列しお出迎え?をする。一番最初に道場にやってきたのは昨日案内をしてくれた横田さんだ。


「「「おはようございます、よろしくお願いします」」」

「よし、挨拶はしっかり出来てるわね。次から来る選手たちにも元気よくね。選手たちの紹介は私がするから顔と名前を早く覚えてね。まあそんな大人数じゃないからすぐ覚えられると思うけど」

その後やって来た先輩たちに挨拶をすると「お、今日からか」とか「は〜い、よろしくね〜」なんて明るく挨拶を返してくれる。けどなんとなく軽く流されてるような、あんまり関心がないような感じがする。気のせいならいいんだけど。


先輩たちは荷物を更衣室に置き、着替えてきてからリングの周りで各自ストレッチなどで体をほぐしたりしはじめる。

「はい集合!」

ちょうど10時に先輩たちが集まりだしたので、横田さんに促されて私たちも先輩たちの後ろに並ぶ。すると上田さんが全員の前に出てきて挨拶をする。

「おはようございます。最初にみんなに紹介するわね。後ろにいるのが今日から入った練習生です。初めのうちは色々慣れていないので失敗することもあるだろうけど、多少のことは大目に見てあげて気がついたところはその都度教えてあげてちょうだい。練習生もただ教えてもらうのを待っているだけじゃなく、分からないところはどんどん聞いて自分のものにしていくようにね。それから萩原、今日は練習生の方をお願いね」

そう言われた後に萩原さんから何やら書かれた紙を配られる。深い青色のショートカットのこの人、確か入団テストの時に進行役をしてた人だったような?

「今、練習生に配られた用紙には我々ドリームファクトリーのスローガンが書かれています。今日のようなミーティングの最後に全員で斉唱しますので、必ず暗記をし、その内容から外れるような行動はとらないようにお願いします。選手の方は今日を含めて数回のうちはいつもよりゆっくり斉唱するようにお願いします。それでは正面に礼!ドリームファクトリースローガン斉唱」

 

 今日も一日私たちは自信と情熱を持って

 ファンの皆様には最大級の満足を

 対戦相手に敬意を表しプロレスに対し深い愛情を注ぎ

 チャレンジ精神を忘れることなく

 自らの野望達成に努めます


「それではケガや事故のないように本日もよろしくお願いします」

「「「お願いします!」」」

先輩たちはリングに集まり号令に合わせて準備体操を始める。よーし、これからなのね。練習いっぱい頑張るわよ!


「は〜い、練習生はこっちに集まって〜」

リングから少し離れたところに集められる。

「みなさんのコーチ役になります萩原香澄で〜す、よろしくね。いきなり選手たちと同じ練習はできないだろうから別メニューね。じゃあストレッチから始めよう」

と萩原さんの真似をして立ったままの状態から足先からふくらはぎ、ももへと下から上へと各部位を伸ばす。その後もお尻、腰回り、お腹と背中をゆっくり捻るように伸ばしていくと、だいたい20分くらいで体がポカポカして来た。


「は〜い、倉庫から陸上マットと体操マットを2枚持って来て〜」

練習生全員で倉庫に向かいマットを持ってくる。私たちは体操のマットを、別の日に合格した人たちは陸上のマットを運び出す。合格日が同じ人同士がなんかグループになっちゃったけどこれは仕方ないよね。それにしても学校で使ってたのと同じマットだ。なんだか懐かしい。

萩原さんに指示された場所に置き終えたところで


「は〜い、それではマット運動やりま〜す。まあそんなに難しくないから見ててね」

どうやらお手本を見せてくれるようだ。最初は前転、次に後転、それから開脚前転、開脚後転と続け、倒立からの前転、飛び込み前転と見せてくれる。私が言うのもなんだけど動きも形も綺麗なマット運動だったよ。

「まあこんな感じで。今は1回ずつやったけどみんなはマットの端っこまで前転を。向こう側まで行ったらこっちに帰って来て次は後転と順番でやっていってね、それじゃあ始めて」


気をつけなきゃいけないのは勢い余ってマットの外に出ないようにすることかな?床でのでんぐり返しは背中が痛くなっちゃうからね。他の人も無難にこなしていく。運動経験の少ない私ができるくらいだもんね。途中で目が回りそうになったけど失敗することなく開脚前転まではできたんじゃないかな?開脚後転はちょっと難しかったけど、足を開くタイミングと回転の勢いがあるうちに両手でマットをぐっと自分の体を持ち上げるようにしたら大丈夫だったよ。練習中にこんなこと思っちゃ失礼かもしれないけど工藤さんも器用にくるっと回っている。なんだかサーカスのクマさんみたいで可愛い。


開脚後転より難しかったのが倒立前転と飛び込み前転。これは体育でもやったことないのよねえ。倒立前転は倒れる時にアゴを引きながら体を丸めるのがいいらしいんだけど、最初のうちは背中から落ちたり腰を強く打ったり、ヒザが顔にぶつかりそうになったりとヒヤッとなりながらも回数を重ねていくとなんとなくできるようになってくる。でも体操経験のある人の動きを見るとやっぱり違うんだよね。1本スジが通ってると言うかピシっとしてると言うか芯がブレないというか。私のなんかはきっとドッタンバッタンしてるようにしか見えないんだろうなあ。でも今のところ特別な注意を受けたり指導されないから大丈夫なのかな?


飛び込み前転は水泳の飛び込みみたいな体勢から両手をつき、あとは倒立前転と同じように気をつけれはいいんだけど飛び込むのが怖い。マットがあるけど固いよ?プールに飛び込むのとは違うんだから。いや〜どうしよう。なんて思ってると運動経験者はなんの躊躇もなくやってるしできてるしアイドルの堀田さんもできてるじゃない!うわ〜どうしよう。うん、もう覚悟を決めてえいっと1回やってみますか、女は度胸っていうもんね。でもやっぱり怖いからうさぎ跳びみたいに小さくピョンって飛んでそのままでんぐり返しのイメージで。よしっ、イメージ通りにできた。飛び込み前転と言われればちょっと違うかもしれないけど、一応は飛び込んだし両手両足が床から離れたから大丈夫よね。


「はいそこ〜、もっと離れたところに手をつかないと練習にならないわよ〜」

注意されてしまいました。でもそれっぽいことはできたから次はもう少し遠くに手をつくことを意識してエイっと。そうやって少しずつ手をつくところを伸ばしていってみようかな。

「はいそこ〜、次は中腰くらいの高さから飛び込んでみようか」

また注意されてしまいました。

セブン&アイホールディンググループ『誓いの言葉』を参考にしています

次話は2月5日を予定しています

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ