第14話
「今日は本当にお疲れ様!本当に盛り上がった!私はベルトを防衛できたし、負けたけどインティライミ姉妹もヘイトとマリスも本当に頑張った!個人的にも団体としてもポートタウン・ゴールデンフェスのラストを飾ることがてきたし大満足よ!ここは私のおごりだからめいいっぱい楽しんで!それじゃあカンパイ!」
パンテーラ会長の音頭で打ち上げが始まりました。これに参加するのを聞いた時はどこかの居酒屋さんでやるのかなーと思っていたら、なんとそこは船の中みたいな?アメリカンなバー?ラウンジ?のような高級感漂う場所なんです。本来なら打ち上げとかお疲れ会とかするようなところじゃなくて少人数でしっとりお酒を楽しむお店です。
カウンターとテーブル席で30人も入ったら満員くらいの広さで、カウンターの後ろには見たことのないお酒の瓶が並んでいてバーテンダーさんがキリッとした佇まいでシェイカーを振ったりクラスを磨いたりしています。そんなアダルティーなお店で騒いだら他のお客さんに迷惑にならないかな?大丈夫なのかな?と思っていたら、今日は貸切でここのオーナーさんと会長さんは知り合いで、ゴールデンフェスの実行委員的なことをしているらしく、多少のことなら大目に見てくれるそうです。
氷の入った器にいろんなお酒をドバドバ入れて飲んだり、酔った勢いで逆水平チョップ合戦が始まったりしていますが大目に見てくれるそうです。
私は上田さんと堀田さんとでカウンター席に座り周りの雰囲気を楽しみながらグラス(生フルーツジュース)を傾けています。
するとバーテンダーさんから「あちらのお客様からです」と一杯のお酒が運ばれてきました。映画みたいにスーッと滑らせないのはちょっと残念ですけど。
あちらの方を見るとCRGの志村さんです。こちらにやってきて上田さんとグラスを合わせました。慌てて立って挨拶しようとすると「こういう席だからそういうのはいいわ」と私と堀田さんともグラスを合わせました。
「あー、負けちゃったー。ケガは回復してきてたからイケると思ったのにー!」
「何言ってるのよ。あの時のケガは治ったかもしれないけど完全じゃないでしょ?同じところなんだからクセになる前にちゃんと診てもらった方がいいって言ったのに無茶するんだから」
私の見た感じですけど、ちゃんと動けていたようですしテーピングもしてなかったし、そこをかばう仕草もなかったので、ケガが治ったって思っていたんですけどね。上田さんから見たらそうでもなかったようですけどね。
「そこは見積もりが甘かったわよ。芸能活動を減らした分練習に回したから何とかできると思ったんだけどね。あー、悔しいったらありゃしない!」
そこまでこの試合にかけていたんですね。あのケガから復帰して体調を整えたり大変だったと思います。
「…もしさ、今日、私が勝ったらショーコのベルトに挑戦させてもらえた?」
おっと!爆弾発言!記者さんとかはいないですよね?
「そんなもしもの話されても困っちゃうわよ私に挑戦したいならちゃんと実績を残してくれないと、ねー晴子?」
うえっ!私の方に話を振らないでください。今日の試合が終わってやっと肩の荷が下ろせたんですから。
「晴子ちゃんはねー、ショーコさんに挑戦するつもりはまだないそうでーす。私なんてまだまだ、先輩たちがいるのにおこがましいすでーす。ねー?」
ちょっと堀田さん!それは言わない約束じゃないですか。あー、すでに酔っ払ってケラケラしていますよ。
「あら残念、付き人になってくれた選手とタイトルマッチって私の夢のひとつなんだけどなー?」
あら、上田さんも酔ってますか?ちょっと冗談めいた風に言ってますけど、本気っぽい気がしないでもないんですけど?
「なーんてね、晴子にはまだ早いかもしれないけど私だってずっと待ってる訳じゃないからね、そこんとこヨロシコ」
ヨロシコっていつの時代のギャグですか!でも、上田さんがいつまでもチャンピオンでいられる訳じゃないですよね。もう少し自信とか実力とかをつけていかないといけないですね、頑張ります。今日の試合だって勝つには勝てたけどタッグマッチだし半分以上は堀田さんの力があってこそでしたからね、今日は実績が半分積めたといったところでしょうか。
「それにしてもこの子たち面白いわねー。リングではあんなことできたのに、今はこんなにオドオドしちゃってー。本当に同一人物?ショーコが秘密兵器とか言ってたけどなんとなくわかったような気がするわー。よくこんな風に育てたわね?」
私もこんな風になるとは思ってもみなかったです。
『そんな細けーことはいいんだよ、これもプロレス、まあぶっちゃけ、お客さんに喜んでもらえたらこっちの勝ちってもんよ』
ん?何か聞こえたような気がするけど空耳かな?ま、いっか。
志村さんが増田さんと原口さんのいる席に向かっていきます。ちなみに第一試合のキャンディーさんは増田さんが、レイアさんには原口さんがご担当だったということです。
「ヘーイ、楽しんでる?影のMVP!」
ヘイトさんとマリスさんを連れてパンテーラ会長がやってきました。ってか影のMVP?そんなに活躍しましたっけ?
「んー?よくわからないって顔してるけど、今日の大会はあなたたちの試合から会場の空気がガラッと変わってね。次に出る選手たちがアレを超えなくちゃって必死になったのよ。もちろん私もね。おかげでうちのヘイトもマリスもインティライミ姉妹もいつも以上に頑張ってくれたわよ、ね?」
「っうす、負けて悔しいけど自分の力を全部出し切れたっす。そして私たちの実力はもっとレベルアップできそうっす」
なんかヘイトさんの口調が変な感じです。もしかして酔ってますね?マリスさんは相変わらず無口ですが私と堀田さんに握手を求めてきました。なんか照れ臭いですね。
「へへーん、そうでしょうそうでしょう、私と晴子ちゃんにかかったらトーゼンのことよ。ま、私たちの差は紙一重だったから次はどうなるかわからないけどね。それまでお互いに頑張っていきましょう」
なんか堀田さんが上から目線で調子よく話していますが、ヘイトさんもマリスさんもお互いに頑張りましょうって言われてちょっと感動してるみたいですね。
「でさ、上田会長。機会があったらまたこの2人借りてもいい?うちの他の子達が気にしてて、何だあの連携は!とか、うちらと同じくらいルチャができるのがいたのか、とか言ってくるのよ。どうかしら?」
「その時になったら前向きに検討するけど、他にもいい選手がいるからそっちの選手もオススメよ?ファイトスタイルは違うけど初対決って何かと話題にしやすいんじゃない?」
「んー、そういう手もあるわね。来年のフェス、半年後かな?またきっかけを作ってどうにか引っ張り出せるようにしないとかー」
そこは普通にオファーを出してくれればいいかと思うんですけどね。そこまで話題性って必要なんですかね、だってほら、今日の試合だって半分は対戦カードを発表してなかったじゃないですか。
「何言ってるのよ、その未発表自体が話題性があるってことよ?こんな大きな大会で対戦カードを発表しないなんて大博打もいいところよ、普通なら」
堀田さんがエンターテイメントとはなんたるか、みたいな話を始めましたそれに相づちを打っているのはパンテーラ会長さん。この2人はそういう事情に詳しいみたいですね。
「晴子たちももう少ししたら試合以外のことも気にかけるようにならないとね」
その後しばらくは私たちのところにやってくるみなさんとお話ししたり上田さんと記念写真を撮りにきたり、白鳥さんがやってきたり(第3試合に出場しました)とやや忙しく過ごしていきました。
その後、少しまったりとし始めた時のことです。
「ショーコさーん、私、試合中になんかおかしくなっちゃったみたいなんですよー」
え?堀田さん?何があったんですか?試合中にそんなそぶりが見えなかったんですけど?
「えーとですねー、試合の途中から頭の中に何か音が聞こえてきたと思ったら急にいつもと違う動きができるようになっちゃったんですよー」
「それで、今はどうなの?何か聞こえる?」
「いえ、試合が終わったら聞こえなくなったんですよー、今までこんなことなかったから何か気持ち悪くて」
「そう、それなら明日病院で診てもらおうか、一応検査できるように手配するわよ?」
「そうですねー、朝、起きた時に違和感があったらお願いします。ところで晴子ちゃんは試合の時に何か聞こた?」
はい、バッチリ聞こえました。音じゃなくて曲が2曲、リミックス状態で聞こえてましたよ。なんなら会話までしてましたけど、そんなこと言っても信じてもらえないからなー。
「ちなみに、どんな音が聞こえてたんですか?」
「それが覚えてないのよねー。ただ、なんかノリが良いリズミカルな曲?みたいな感じだったような気がするのよー」
ってことは、あの人たちは私だけじゃなくて、私を通して他の人にも入っていけるってこと?なんか面倒くさいことに巻き込まれそうですね。
「それでね、私にもあんな立体的な動きができたのにはびっくりよ!ショーコさーん、今日の試合の映像って後で見ることできますよね」
「そうね、今回は九龍城が主催してるからね。ちょっとGPWOに問い合わせてみるけど多分大丈夫よ」
「ありがとうございまーす!今日の動きをマスターすれば、今まで以上に注目を集められそう!晴子ちゃん聞いた?私たちの試合ってメインの次に盛り上がったんだってよ!」
それで影のMVPの話になったわけでしたか。なんか嬉しいような恥ずかしいような、堀田さんみたいに素直に喜べればいいんですけど。
「晴子はどうする?今日の試合は客観的に見ても面白いし勉強にもなるわよ?」
そうですね、自分の試合を見るのってアラ探しになっちゃいそうなのであんまり得意ではないんですよ。
「あーでも、晴子の場合は自分で何をしていたか、わかってそうよねー。今日で何回目かしら?」
ぶーっ!せっかくの生フルーツジュースが!バーテンダーさんにタオルを借りて急いでテーブルを拭きます。
その姿をニヤニヤしながら見ている上田さん、何をどこまで知っているんでしょうか。
先日、小川良成選手が引退を引退することを発表しました
頸部を負傷し現役を続けるのが難しいと判断されたようです
本人の強い要望により引退会見やセレモニーは行わないそうです
小川選手らしいといえばらしいのですが、最後の勇姿が見られないのは非常に残念です
日常の生活は心配なく過ごせるそうなのでちょっと安心です
まだ言いたくなかったのですが、本当にお疲れ様でした
次話は8月25日を予定しています