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第10話

当の本人を差し置いていろいろなところでいろいろなことが決まってしまいました。こうなったらね、私の経験上どうあがいてもどうにもならないので、最終的にここだけは譲れないぞっていうのだけ決めておいて後は流れに身をまかせることにしました。


休み明けの朝のミーティングでトーナメントに優勝優勝したことの報告会と、改めてトロフィーの授与式みたいなことをしていただき、今後の抱負とか目標とかをインタビュアー役の堀田さんにからかわれるように聞かれてしまいました。


「それで、この優勝を手土産に上田さんへの挑戦はどうしますか」

やだ、そんな質問しないでくださいよ、道場の雰囲気が一瞬ピリッとしちゃったじゃないですか!

「えー、ええと、その件につきしては今後行われる九龍城との対抗戦のことで頭がいっぱいでございましてそれらの諸問題がつつがなく終了しましてから関係各所と相談しながら真剣に考えていく所存でございます」

自分でもなんて言ったかわからないのですが、でも一ヶ月には特別なタッグマッチが組まれていますので集中しないといけないのもありますから、ひとまず先送りさせていただきました。


そんなこともありましたが練習をしていきます。合同練習が終わり各自で鍛えたい個人練習の時間になると、堀田さんと、なぜか宇野さんとスパーリングを中心に取り組んでいきます。最初は対戦相手の戦い方に合わせて私もルチャ・リブレの動きができるようにと思っていたのですが、一ヶ月程度で身につくはずがないとあっけなく却下されました。渡辺さんに言わせると〝下手に相手のペースに合わせるより晴子のレスリングで相手のペースを乱した方がいい〟らしいです。


ルチャの動きに少しでも対応できるようにとスパーリングを続けていきます。堀田さんの本気の技に入る時の動きとかロープワークとか、似ているようでどこか違うようですね。例えばアームドラッグとアームホイップ。アームドラッグは相手の腕を取ったら自分の体に巻き込むようにブリッジをしながら投げるのに対してアームホイップは相手の腕を引っ掛けて体をひねって投げるとか、受け身もダメージを体全体で散らすように受けるのに対し、ルチャの受け身は柔道のように体を回転させてダメージを最小限にする動きがあるとか、ですね。


それが終わると堀田さんとの合体攻撃をどうするかという話になりました。私としてはダブルのショルダータックルとドロップキックとブレーンバスターしかしたことがないのですが、堀田さん曰く

「前に上田さんとタッグを組んだ時に見せたやつ、あんな風なのなんかなーい?」

あの時の技と動きですか。あれは相当練習しても難しいと思うんですよね。いまだにあんな動きができたなんて信じられないくらいですから。


例えばそうですね、私が相手をブレーンバスターで投げたところに堀田さんがコーナーのトップからボディプレスを決めるとか?これだと合体攻撃をというより連携プレーかな?それなら倒れた相手の上に堀田さんが私をボディスラムで投げるとか?これだと私もダメージを受けちゃうからちょっと嫌かも。

っていうか、堀田さんはこんなことしたいとかあるのでしょうか?その辺りを一度同期の皆さんも交えて話し合った方がいいかもしれませんね。


あと考えておかなければいけないのは相手の合体攻撃の対処法です。2対1で不利になるのは仕方ないのですが、それを逆手にとって切り返すことができればこちらのチャンスになるんじゃないかと思うんですよ、ピンチの後にはチャンスありって言うじゃないですか。

それとセコンドの乱入ですよね。山田さんの時は全く無防備で何の対策もできていなかったので相手の思うがままにやられてしまったわけですが、今回は何かをしてくるのがわかっているので少しは対策できると思うんですよ。でも、相手が邪魔をしてくるときはこちらが優位に試合をしているときだから、調子に乗って攻めている時こそ注意しておかないといけないんですよね。一気に勝負を掛けている途中で相手のセコンドにまで気にしておかないと、とは思いますが、そこから試合の流れが変わってしまったら大変ですからね。渡辺さんからもタッグマッチのときは対戦相手以外にも注意しておかないとって言われていましたので、今まで以上に気をつけないといけません。


そんなことを考えながら毎日スパーリングを重ねていく日々、トルネードタッチルールというのを覚えないといけないんです。簡単に言ってしまえば、パートナー(今回の場合は堀田さん)がリングからいなくなった時点で戦う権利が私に移るっていうだけなんですけど…

まあタイミングがわからないことわからないこと。試合序盤の相手の様子を見るような展開だと、ハイ出ました・ハイ入ります、みたいな感じでできるのですが、試合のスピードが速くなっていくにつれてタイミングが掴みづらくなっていくのですよね。それによってこちらが優位に立っていたのがなくなってしまったり、逆に不利になったり。


「遅い!相手と晶の動きをちゃんと見て!」

何度宇野さんに怒られたことでしょうか。さらに試合展開が速くなってくると

「あー鈍臭い、それじゃ遅いのよ!」

堀田さんにまで言われる始末です。このタイミングで入ってきてほしいみたいなのがあるようですが秒単位でずれているようです。私も言わればっかりじゃいけないと思ってロープから半分身を乗り出したり跨いだりして準備しているんですけどね。それでも間に合わないって言われるんですから、皆さんどんな感覚で試合をしているんでしょうか。


「一ヶ月そこらでこのスピードについて来られないとは思ってたけど、やっぱり難しかったか」

「晴子ちゃんならもしかして?と期待してたんですけどね。でもこの短期間にだいぶついて来れるようになったと思いますよ?」

「そうねー、でもこれ以上続けても晴子の負担になるだけかもね。後はどうしようかー」


なんか面目ないですね。せっかくお二人が時間を掛けてくれてるっていうのに期待に添えなかったみたいです。


「でも、このスピードを事前に体感できたのはいい経験になりましたよ。向こうの2人がどんなもんか知らないけど私たち以上のスピードで動けると思います?」

「まあねー、それは良かったけどねー」

「あっ、いいこと思いついた!うちらだけタッチルールでいっちゃうのってどうです?トルネードなんとかって結局はノータッチでリングに入れるだけじゃないですか。だったら向こうに合わせるフリをして、途中でタッチしていったら向こうのペースを崩せるかもしれませんよ?」

「なるほど、ルールを無視しちゃうのはちょっときになるけど、それいいかもねー」


トルネードタッチルールを練習しながらもいつも通りのタッチを使っていくことになったみたいです。クイックタッチなら渡辺さんにじっくりと教わったので大丈夫とは思いますけど、要はリングに入るきっかけが掴めるかってことなんですよね。


そんなことがありながら練習を続けていきます。合体攻撃もいくつかできるようになったことで実践練習をすることになりました。練習の成果が実際に使えるかどうか確認するためです。私と堀田さんに対して宇野さんと渡辺さんのタッグなんですけど、渡辺さんてルチャの動きってできましたっけ?

「私?私はインサイドワーク担当。九龍城と対戦した時に〝なんだ、この程度なら練習の方が何倍も厳かったじゃない〟って思えるくらいのことはできるわよ?」

頼もしいですけど聞きたくないことをおっしゃっています。堀田さんも何か不安そうな顔をしていますが、これをきちんと乗り越えられればと思うと頑張ってみようって思います。


そんな練習の合間を縫って私と堀田さんの新しいコスチュームを作ることになったのでHoney or Trapへ出かけ、その相談をしていきます(主に堀田さんが)。一ヶ月前で大丈夫なのかな?と思っていましたが、上田さんが事前に話を通しておいてくれていたようです。


九龍城のお二人のコスチュームが黒や青のダーク系だったので、私たちは〝白・弾ける・キラキラ〟のコンセプトでお願いしていました(堀田さんが)。デザイナーさんのスケッチを見ながらあーでもないこーでもないと張り切っているので私は横で静かに見ています。堀田さんのインスピレーション?感覚的な部分をデザインに落とし込んで形にしていく作業はなかなか見応えがあり、へぇーとかほぉーとか、そうなるんですねーとか感心してばっかりです。


「晴子ちゃんも何か要望みたいのないの?」

私にはこれというアイデアはなかったので静かにしていたら、そんな風に言われてしまいました。堀田さんにやりたいように任せておけば安心って思ってましたから。でもせっかくだからと、2人でひとつのデザインになったら面白いですね、左右対称みたいなのとか。

「なるほど、それはいいかも。最近は同じコンセプトで違う形っていうのが多いから逆に新鮮に映るかもね、じゃあここをこうすると、どうですか?」

「おおーっ、これ可愛いじゃない!そうしたらここをこうしてリボンみたいに…」


このデザインの話はもう少し時間がかかりそうですね。

先日、齋藤彰俊選手が引退を発表しました

あの日から、あまりにも重い十字架を背負っての活動でしたが、やっと納得のいく何かがあったことと思います

引退試合の発表など詳しい情報はありませんが、できることなら駆け付けたいです

次話は7月25日を予定しています

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