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第8話

山田さんを連れて控え室に戻ると、椅子に座らせてサポーターやシューズの紐を緩めて少しでもゆったりしやすいようにしてあげます。2人がかりで攻撃をされていたけどダメージとしてはそこまで酷かったようには見えませんが、それにしても…セコンドが入ってきて試合の邪魔をするのって許せないじゃないですか、もう信じられないです!


「晴子さん、そんなに怒ってくれて嬉しいですけど、そのままの状態で明日の試合に挑んだらいけませんよ?」

な、なに言ってるんですか。あんな風にされたままでいいんですか?自分で言うのも何ですが久々に頭にきてるんですから。

「それでもです。そんな興奮したままなら明日はヘイト選手の思うがままにやられてしまいますよ?一旦冷静になってください」

ま、まあ、当事者の山田さんが言うなら少し落ち着きますけど、あんなずるいことするなんて許せないじゃないですか。

「ほら、怒るのは構いませんけど頭は冷静にしておかないといけませんよ?」

は、そうでした。そういえば、相手を挑発して自分のペースに持ち込むなんていう作戦もありましたね。それに自分から乗ってしまうところでした、反省反省。


「晴子さん、先ほどの試合はレフェリーが反則と取らない限りルールとして成立しています。うまくレフェリーの目をごまかして試合を続けていた相手のインサイドワークが一枚上手だったということです。私が正面からいきすぎましたね。晴子さんはあの試合を見ていたでしょ?でしたら明日はどうすればいいと思いますか?」

どうしましょう?まず、セコンドにはマリスさんが明日も来るでしょうからその動向に注意しなくちゃいけませんね。それとヘイトさんは自分がピンチになると反則をしてきたようなので、それ以降は注意しなくちゃいけませんよね。あとレフェリーの死角をついたり誤爆させてから2人がかりで攻めてきそうなのでそこにも注意しないとダメですよね。なんか注意するところばっかりですね。


「それとよく思い出してください。私たちが毎週のように試合を重ねているのは誰ですか?渡辺さんや豊田さん、宇野さんや上田さんですよ?ヘイト選手と比べてどうでしょうか」

そうか、そう考えたら明日はなんとかなるかもしれませんね。


「そうですよ。負けてしまった私が言うのも変なことですが、冷静に対処できればそう簡単に負けるわけがないんです。上田さんも仰ってましたよね?私たちにはどこの団体に出しても恥ずかしくないように仕込んでいると。相手がどう仕掛けてくるかわかっている今ならどうすればいいかわかるのではないですか?」

そうかもしれませんね。これなら山田さんの敵討ちができそうですね。


「それは嬉しいことですけど、そんなこと考えなくていいですから晴子さんらしく戦ってください。それがいい結果につながれば言うことはありませんから。頑張ってくださいね」

はい、ありがとうございました!明日は精一杯頑張ってきます!


「綾ちゃん、晴ちゃんにあんなこと言ってたけどあれでいいと思う?」

「さあそうでしょうか。晴子さんにはあれくらい言っておけば自分の力を出せると思いますよ?素直すぎるほど素直ですからね。それは江利花さんもご存知でしょう?」

「まあね、怒りに任せても相手にいいようにされるだけでしょうからね。それにしても晴ちゃんがあそこまで怒るなんて初めて見たかも」

「晴子さんのプロレスは上田さんそのものと言っていいくらいですからね。反則をしない・正々堂々とするのが当たり前なんですよ。私としてはもう少し柔軟にとは思いますけどね。でもそれはこれからの楽しみにしておきましょう」




実)さあいよいよGPWO主催〝Brote〟優勝決定戦が行われようとしています。まずは青コーナーからドリームファクトリー所属、佐藤琴音選手が入場してきます。やや緊張しているようですが決戦に挑む気合の入った表情です。そしてセコンドには昨日敗れてしまった山田選手がついています。昨日の結果によっては、同じ団体の同期の2人が優勝を争ったかもしれないと思うとファンには残念な結果になってしまいました。本日はセコンドとして決定戦を見守るといったところでしょうか。佐藤選手がゆっくりとロープをくぐります。


続いて赤コーナーには九龍城、ヘイト選手の入場です。一回戦二回戦とラフファイトで勝ち上がり決戦の場へと登りつめました。おっと、セコンドにはマリス選手とマスクウーマンのスライ選手を従えています。これはヒールユニット〝ダークネスドラゴン〟が全員揃ったことになります。これはいけません、ブーイングをしている観客を威圧しながらリングに向かいます。ここはドリームファクトリーの会場で完全アウェイ、しかも昨日のやりとりからするとこのブーイングは仕方ないでしょう。今、マリス選手とスライ選手がロープを広げて悠々とリングイン、ふてぶてしい態度にさらにブーイングが飛んできます。


「レディー、ファイっ!」


実)さあゴングが鳴らされました。優勝決定戦30分1本勝負が始まります。解説はおなじみの月刊女子プロレス副編集長の佐倉さんです。よろしくお願いします。

解)よろしくお願いします。

実)さて、お互いに様子を伺うようなゆっくりとした立ち上がりです。

解)佐藤選手は昨日の結果を見ていましたからリングの外にも警戒しないといけないですからね。

実)その佐藤選手ですが、一回戦はフェアリー・テイルのホワイト・スワン選手からギブアップ勝ちを収めています。後からわかったことですがホワイト選手とはドリームファクトリーに同期入団後にたもとを分かち、それ以来の顔合わせとなったわけですが、その実力差を見せつけるような見事な勝利でした。続いて二回戦も同期対決となった工藤戦ですが、パワーに押し負ける場面がありながらも足への攻撃を重ね、最後は腕を極めた状態からのスモールパッケージホールドという新技を用意していました。これにより工藤選手にシングル初勝利という結果を出した形になります。

解)そうですね、佐藤選手は同期の選手が立派すぎる経歴の持ち主なので一見地味に見えますが、一戦一戦確実に成長していますし、大事な試合では人が変わったような動きや技を見せる時がありますので、個人的には目が離せない選手のひとりでもありますね。


実)ヘイトがロープワークからヘッドシザースで佐藤を場外に、そこへプランチャ!試合のテンポが速くなってきたようです。

解)そうですね、ヘイト選手のようなスピードと立体的な動きはドリームファクトリーでは宇野選手や堀田選手がルチャの動きができるので、全く対処できてないということはないですけどこの時間帯はやや押され気味ですね。

実)そのヘイト選手ですが、一回戦はクリムゾン・ローズ・ガーデンの大木選手をラフファイトでめった打ちで勝利。二回戦の山田選手とは序盤こそ互角にクリーンファイトを繰り広げていましたが徐々に押されてくるとセコンドのマリス選手を介入させてブーイングを浴びながらも、最後はシューティングスター・プレスで勝利を収めました。

解)これはドリームファクトリーファンが期待していた同期対決を邪魔するように勝利をもぎ取ってしまいましたからね。

実)試合後のマイクも観客を逆なでするような内容でしたからね。そのブーイングを平然と受け流していました。今のところマリス選手もスライ選手も大人しくしているようですが、このまま何も起きなければと思いますがどうなるでしょうか。

解)佐藤選手は試合内容によってはセコンドの介入を考えておかないといけませんね。そのためでしょうか、山田選手がセコンドにいるのは心強いと思いますよ。


実)試合開始から5分が過ぎようとしています。お互いにペースを掴めていない状況が続きます。さて佐倉さん、ヘイト選手のファイトスタイルと佐藤選手のファイトスタイル、これから優位に試合を進めるにはどうすればいいと思いますか?

解)そうですね、ヘイト選手にとっては佐藤選手のような戦い方をする選手との対戦の機会がなかなかないように思いますので、もしかしたら苦手なんじゃないかと思いますね。実際にやりにくそうな態度が見られますので今は我慢している状態でしょうか。対する佐藤選手ですが、ある程度はヘイト選手を自由に動けるようにして、最後の最後だけ気をつけているように思います。どちらもどこで仕掛けるか思案中なんじゃないかと思います。ただ、佐藤選手はラフファイトやセコンドが介入する試合に慣れてないので、どう対処できるかが気になりますね。

実)なるほど。その佐藤選手ですが、ヘイト選手の腹部に攻撃を集中し始めました。強烈なエルボーをボディに一発っ!

解)これはヘイト選手のスピードを使わせないためとスタミナを奪う作戦ですかね。

実)そうかもしれません。ルチャを持ち味とするヘイト選手には機動力を奪う攻撃は有効です。そしてロングバトルに定評のある佐藤選手ですから終盤に向けて今のうちから組み立てているようです。じわじわとボディを締め上げていく佐藤にたまらずヘイトがロープブレイク、一旦場外にエスケープします。

解)ここで追いかけないのは正解ですね、場外に降りた途端にセコンド陣に囲まれる恐れがありますからね。

実)そうですね。今もヘイト選手を中心に集まってきています。佐藤選手は冷静な判断ができているようです。


実)ヘイト選手がリングに戻ろうとしていますが、ロープに近いとレフェリーにアピール、佐藤選手をもっと後ろに下がらせろと言っているようです。ゆっくり反対側のロープ側まで下がる佐藤選手、ここでマリス選手がロープ越しにスリーパー!急いでリングに戻るヘイトとロープに振った!ダブルのドロップキック!そしてコーナーにホイップ、串刺し式のヘルボー、ボディアタック!マリスのフライングメイヤーからヘイトの顔面ドロップキック!カバーはレフェリーが無効にします。ここはよく見ていました。

ここからヘイトのジャベが続きます。カンパーナ、そしてロメロスペシャル、カベルナリアと繋げていきます。なんとかロープへ手を伸ばしますがマリスが邪魔をしています。


実)マリスがレフェリーの気を引いている間にスライが乱入!ダブルのブレーンバスター、ロープに振ってダブルのラリアットは2人の間を抜けてスライのバックを取りヘイトにぶつける!スライはそのまま場外へ!佐藤はヘイトの左手にエルボー!脇固めからアームロック!これはマリスがカット!レフェリーを場外に落とし、佐藤をいたぶるとトリプルのドロップキック、ヘイトのカバー!マリスがレフェリーを戻しカウントを取るも2!リング状が無法地帯と化してしまいました、ロンリーバトルの佐藤選手は打つ手なしか!


実)マリスがコーナーのトップに登るぞ?一体何を?ここで山田選手が足を掴むと佐藤選手がデットリードライブ!マリスが場外へ!

解)山田選手が介入したおかげでやっと佐藤選手が一息つけそうですね。

実)その佐藤、ヘイトをロープ振るとキチンシンク!そしてボディシザース!スタミナを奪っていきます。

解)反則も意に介さず粛々と自分のやるべきことをやっていく姿勢は見事ですね。しかしスタミナはともかくダメージの方は大丈夫でしょうか。


実)ロープブレイクしたヘイトの腕を掴みロープへ、と見せかけて思いっきり引っ張る!脇固めのように押さえ込むとその腕にストンピング、エルボードロップ、ギロチンドロップからアームロック!しかしロープへ逃げられてしまいます。

解)攻撃する場所を変えてきましたね。これは何かの布石でしょう。


実)あっと!スライが椅子をエプロンサイドから持ち込もうとしています!慌ててレフェリーが止める!そのスキにマリスが乱入!2人がかりで佐藤をめった打ち!そこに山田選手が救出!マリスを場外に落とします!

ヘイトをハーフボストンで締め上げる!そこへレフェリーを場外に落としたスライが椅子を持って襲いかかる!佐藤は頭を抱えて悶絶!マリスとスライでストンピング!これはいけません。その間に息を整えるヘイト。佐藤を立たせると羽交い締め、スライが椅子を振り上げる!危ない!うわっ!スワンダイブのドロップキックでスライが吹き飛んだ!一体誰が、これは堀田選手です!今日はエントリーされていないはずの堀田選手が佐藤選手を救出しました!

解)いつものコスチュームでもなくトレーニングウェアでもない姿…近くでアイドルのイベントがあ理、そこへ出演していたのは知っていましたが、まさかそこから駆けつけてきたのでしょうか。


実)ポツンと取り残された椅子を手に取る佐藤選手、さあどうす…場外に落としヘイトに向かっていきます!

バックブリーカーからボディスラム、エルボーを落としてカバー、カウント2で返されると同時に腕ひしぎ十字固め!タイミングを狙っていたか!

解)マリス選手もスライ選手も山田選手、堀田選手に捕まってリングに入れません!ここは決めるチャンスです!

実)体を起こして逃れようとするヘイトに今度は三角締め!それでもロープに逃れようとするヘイト、これはどうだ!セコンド陣はエプロンサイドまで来ているが山田と堀田が押さえつけている!逃げられるか!佐藤はさらに締め上げていく!


あーっと!ここでレフェリーが試合を止めた!レフェリーストップです!

解)ヘイト選手の顔色が変わってきてましたからね、いい判断だと思います。

実)ゴングが鳴り勝敗がつきましたがまだ離れない佐藤選手、ゴングが聞こえなかったのでしょうか。山田選手が駆けつけてやっと今技をほどくとバッタリとその場に倒れてしまいました。


「23分52秒、23分52秒ー、レフェリーストップにより佐藤選手の勝ち。これによGPWO主催〝Brote〟優勝者は佐藤琴音選手となりました!」

梅雨入りして全国的に急に蒸し暑くなりました

皆様も熱中症などに気をつけてお過ごしください

次話は7月5日を予定しています

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