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第7話

私が勝ったことをちゃんと受け入れられてない横で工藤さんが本当に3カウント入ったのかレフェリーに詰め寄っています。私も感覚的にはギリギリ2.99くらいで返されたのかなって思っていましたからね。それでも結果が覆らないとみるとマットをバシンと両手で叩きました。その振動がロープまで伝わってビィィ〜〜〜ンと揺れてます。うわぁー、試合が続いていたらあのパワーをまだ受けないといけなかったと思うとゾッとしますね。


レフェリーに手を挙げられてお客さんの方をみると私に向かって拍手をしてくれています。そうか、本当に勝ったんだ、じんわりとこみ上げてくる喜びに浸る前に工藤さんの方に駆け寄り足の具合をみます。

「負けちゃったわ、決勝も頑張ってね。あーあ、優勝して上田さん挑もうと思ったんだけどなー」


やっぱり挑戦しようと思ってたんですね。ここでごめんなさいというのも変ですし、代わりに私が挑戦します!でもないですし、工藤さんの野望?を打ち砕いてしまったというのは大袈裟ですよね。そんなことを考えているうちに工藤さんがリングから降りて控え室に向かっていきますが、私が攻め続けていた足を引きずっているので慌てて追いかけて肩を貸し2人で一緒に控え室に戻りました。


「晴子!やってくれたわねえ、このこの〜〜〜」

控え室で私たちの試合を見てくれていた立野さんがヘッドロックをかけながら拳をグリグリさせて私の勝利をお祝いしてくれますが地味に本気で痛いですよ。

「いやー、晴ちゃんがあんな風に集中攻撃仕掛けてくるなんてね。一瞬、渡辺さんと対戦してるのかと思っちゃったわよ」


それはもう私たちの先生ですからね、色々とお手本にさせてもらってます。ご本人と比べたらまだまだ拙くて改善の余地しかありませんけども。でも、最後の最後まで工藤さんのタックルの勢いを止められませんでしたよ。やっぱり体格差を埋めるのって大変なことですよね。


「まあね、自分の持ってる経験を生かしていくのは当然のことだから。でもあんなに優しかった晴ちゃんがあそこまでエゲツない攻撃ができるようになるなんてね。部屋を分けたのは失敗だったかしら」

工藤さんがこのトーナメントに掛けていたので私も〝晴子〟を心の奥にしまいこんで〝琴音〟を前面に押し出して試合に臨みましたから。


「それにしてもこんな特別な大会で江利花に勝つなんてね、晴子は何か持ってるかもしれないわね」

いやいや、それは買いかぶりすぎですから。今日はたまたまというと工藤さんに失礼ですけどタイミングというか総合的にちょっとだけ上回っただけですから。


「まあねえ、でも最後のアレなんだったの?全然身動きが取れなかったんだけど。また秘密特訓してたの?」

あの技は何ていうか、腕を掴んで丸め込んだらいいかなーって咄嗟に思いついたといいますか。今回は工藤さんに相談できなかったので渡辺さんに聞いたりヨシコさんに試したりしてみまして、はい。


「まったくー、こんなことになるなら部屋を分けなければ良かったわよ」

「何言ってるの、そんなたらればを言ってもしょうがないでしょ。部屋を分けたからこそ晴子に新技ができたんだから逆に良かったって思わないと」

「はっ!それもそうね、ごめんね晴ちゃん。でも、今日は負けちゃったけど次はそうは簡単にいかないからね。もっと鍛えてくるんだから」

「私も晴子と対戦するときは渡辺さんと対するつもりで立ち向かわないといけなさそうね。まあその時になったら考えるとして、次の試合が始まってるわ。決勝の相手が綾になるのかヘイトっていう選手になるのかちゃんと見ておかないと」


そうでした、山田さんはともかくヘイトさんは大木さんとの試合で反則スレスレのことを平気でやってきてましたからね。この試合でも何かしてきそうだからしっかり見ておかないといけません。工藤さんはヒザを冷やしながら、私はコスチュームの上からタオルを肩に羽織って山田さんとの試合に注目します。


リング上では山田さんがやや優勢な感じでしょうか。ヘイトさんはちょっとピンチっぽくなると顔面をかきむしったり指を噛んだりして難を逃れているようです。負けじとルチャ・リブレのジャベで山田さんを締め上げています。技の名前はわからないけどグラウンド式のコブラツイストや足4の字固めをひっくり返したような、そんな感じの技です。そしてロープワークからの技はヘイトさんの方が有利なようで、山田さんを軸にぐるっと一回転しながら腕を取りアームホイップのように投げたりバックドロップを空中で一回転して後ろに着地したり、宇野さんや堀田さんとは似ているようでちょっと違う動きにお客さんからも「おー」とか「すげー」とか聞こえてきます。こんな風に試合ができるなら大木さんの時みたいな反則なんてしなくても良かったのにって思います。


そんな姿をセコンドとしてじっくり見ているマリスさんがいます。他の団体の選手となんてあまりないでしょうからいい勉強になりますよね。私もじっくり見ておかないといけません。


「5分経過、5分経過ー」

お互いに自分のペースに持ち込もうとしてもなかなか持ち込めないなか、山田さんがロープに走った時です。ロープに体を預けて反動でヘイトさんに向かおうとした直後、事もあろうにマリスさんが足を払って山田さんを倒したんです!これにはお客さんもびっくり、マリスさんは両手を挙げて〝何もしてないよ?〟とアピールしています。レフェリーは注意していますが何食わぬ顔です。


ロックアップから山田さんがサイドヘッドロック。ぐりぐりと締め上げ、ロープに振られても離さずに踏ん張り、そのままグラウンド状態でぐりんぐりん力一杯締め上げていきます。もしかしてさっきのこと怒ってたりするのかな?

執拗なヘッドロックにぐったりしているヘイトさんを心配したか、マリスさんがエプロンサイトに上がってくると〝おい!それ反則だろ!さっさと外せよ〟みたいなことを言ってますが全然反則じゃありませんよ。そしてリングの中に入ってきそうだったのでレフェリーが止めに入ります。それでも抗議を続けていると、ヘッドロックをされたままへイトさんが立ち上がります。山田さんの髪の毛を引っ張りながら指を噛んでヘッドロックを外すと、髪の毛を掴んでフライングメイヤー!痛い痛い、見てるこっちも痛くなる!それを3回繰り返すとスリーパーホールド!手首のテーピングをほどき首を締めた!ちょ!そっちの方が反則じゃない!そのまま押さえ込んでレフェリーを呼びます。フォールってこと?急いで戻ってカウント!山田さんは2で返す!そこでテーピングで首を締めているのに気づいたレフェリーがヘイトさんに注意しますが〝何もしてませんよー〟とこちらも両手を広げています。でもバッチリ見えてましたからね!


そこからはヘイトさんが有利に試合を運んでいきます。脇固めとフェイスロックを合体させたような技でギブアップを狙いますが山田さんは必死にロープへ向かっていきます。すると、マリスさんがロープを外側に引っ張って山田さんが掴めないようにしています…ちょっとそれはセコイですよ!レフェリー注意されてロープから手を離すと山田さんがそれを掴みブレイク。


さすがに怒った様子の山田さんがヘイトさんへ左右の張り手からバックを取りジャーマンスープレックス!これをレフェリーの服を掴んで投げられまいと阻止!そんなずるい!ジャーマンを諦めた山田さんがロープに走りドロップキック!なんとレフェリーに誤爆!服を掴んで引き寄せ身代わりにしました!その場に倒れたレフェリーを場外に突き落とすとマリスさんがリングに入ってきて2対1で山田さんに攻撃していきます。ツープラトンのショルダータックル、ブレーンバスター、キャメルクラッチをしているところにマリスさんの低空ドロップキック!お客さんのブーイングも効果がなく、もっと言ってこいよ!みたいに逆に煽ってきますよ!こうしてはいけないとリングに駆け寄りレフェリーを助けに行きます。


「早く!早くリングに!レフェリー、しっかり!」

私たちと違って鍛えていないから仕方ないと思うけど、早くしないと山田さんが!!


リングではコーナーに叩きつけられた山田さんに対して代わる代わる串刺し式の体当たりやバックエルボーなどをやりたい放題です。しかし、ここで山田さんが逆転!走りこんできたマリスさんにカウンターのドロップキックで場外へ落とすとヘイトさんに飛びつき式腕ひしぎ十字固め!これは極まったでしょ!ヘイトさんがギブアップしたので技をほどきましたが肝心のレフェリーがリング上にいません!山田さんが場外に出てレフェリーをリングに戻そうとしていると、後ろからマリスさんの椅子攻撃!背中を思いっきり叩いてから頭にも!座るところが抜けてしまうほどに強烈な一撃!その場にバッタリと倒れてしまいました。すると、マリスさんがレフェリーをリングに上げると山田さんもリングに、ついでに自分もリングに上がって山田さんをボディスラム!いつの間にかコーナーの最上段に登っていたヘイトさんが前に跳びながら後ろに一回転するという器用な動きのボディプレス(※1)!!!


「山田さん返してーーー!!!」

一生懸命マットを叩き大声を出しましたが、それが届かず、かなりゆっくりめながらも3カウントが入ってしまいました。


「17分23秒、17分23秒ー、片エビ固めによりヘイト選手の勝利となりました。これにより明日の決勝戦は佐藤琴音選手対ヘイト選手となります!」

そんなことはどうでもいいの!リングに上がり山田さんに駆け寄ります。あ、額にちょっと傷がついて血が滲んでいるじゃないですか!その周りを悠々と歩きマリスさんがドヤ顔で自分の勝ちは当然!みたいに歩いています。なにこの人、あなたは関係ないでしょ!信じられない!


「おいおいどうしたドリームファクトリーとやら!こんなもんか、あぁー?」

BoooーBoooーBoooー

「ブーブーうるせーな豚ども、ここは選手も客も大したことねーなー、あぁー?」

BoooーBoooーBoooー

「明日にはよー、こんなぼろっちい工場もろとも私がぶっ壊してやるよ、あぁー?」


言いたいことを言ってヘイトさんはマリスさんを連れて控え室へ戻っていきましたがそれどころじゃありません。やっと山田さんが起き上がってきました。

「私としたことが、つい頭に血が上って、いつもと違うことをしてしまいましたね」

今はそれはいいんです、大丈夫ですか、立てますか?

「立野さんに勝ったことで、自分でも知らないうちに調子に乗ってしまったみたいですね。晴子さん、控室まで肩を貸してください」

もちろんです。ゆっくりリングを降りると控室まで山田さんを連れていきますが、あんなことが許せるわけがありません。明日の試合もあんなふうになってしまうのかと心配するよりも、どうしたら山田さんの仇が取れるのか考えなくちゃいけません。



※1 シューティングスター・プレスみたいな技だと思ってください

本日のBGMは「スパルタンX・ピアノ前奏ヴァージョン」です

次話は6月25日を予定しています

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