第18話
「へえ〜、みんな思ってたより上手くできてるじゃない」
なんて料理を作っている私たちの様子を見て周り、ちょっとしたアドバイスや味見をしている前田さん。ってことは私たちって料理できないって思われてたのかしら。まあ私に関しては間違ってないけど。
「あら、美味しくできてるじゃない。今度お店でもやってみようかねえ」
なんて冗談も飛び出すなんて、予想以上に美味しくできたんだろうね。これは食事の時が楽しみになってきたよ。
そういえばおじいちゃんから聞いたんだけど、ちゃんこ鍋って日本で最初にプロレスラーになった人がお相撲出身で、食事とか練習方法をそのまま取り入れた名残なんだって。しかもまとめて大量に栄養のバランスよく作れるお鍋は全員で食べられるからお相撲さんの食事に合ってるんだって。でもなんでちゃんこ鍋って言うんだろうね、諸説ありそう。あと、お相撲の勝敗は手をつくと負けになっちゃうから、豚とか牛とか4本足の動物のお肉は縁起が悪いってことで鶏のお肉しか食べなかったんだって。勝負の世界で生きてる人たちだからこそ少しでも勝ちたいと思って縁起を担いでたのね。今は豚でも牛でも食べるみたいだけど。
それにしても今日の料理のレシピって後で調味料まで細かく教えてくれないかしら。お母さんに教えてあげてうちでも作って欲しいなあ。
「はいできたわね、じゃあみんな座って。あなたはご飯をお願いね」
前田さんに言われ、私はみなさんの分のご飯をおちゃわ…丼によそう。これは普通のお茶碗くらいの量だとダメだよねえ。せめて上の方までふんわりとよそってみようかな。前田さんはこれまた大きなお玉でお鍋を取り分けてるよ。よくその量を片手で持てますねってくらいたんまりと。
「ちょっと、ご飯はもっと大盛りにしないとダメじゃない」
ええっ、そんなに食べられないですよ〜、食べられそうならおかわりすればいいじゃないですか〜、とか思いながら遠慮気味に大盛り気味にご飯をよそう。一部の他の人たちもそれは多いよって目で訴えてるようにこちらを見ないでくださいよ〜。
そんな私を尻目に前田さんはお鍋の方を盛っていく。それはもう腹ペコ体育会系の男子学生を満足させるかのような勢いで、これでもかというくらいに。いやいやいや、食べられる分は自分たちで分かりますから。それはちょっと盛りすぎじゃありませんかね。
「それじゃ席についていただきましょうか」
大盛りのお鍋とご飯を前に、半分くらいお腹が膨れたかのような私がいます。それにおかずとサラダもあるのよねえ。大丈夫かしら。
「びっくりした?これかあなたたちが食べなきゃいけない最低量よ。明日からの練習はこのくらい食べてもすぐ消化できちゃうから大丈夫。だからそのつもりで食べて体を鍛えて大きくするのが最初の仕事よ」
それはそうかもしれないですけど…それにしてもこの量はちょっと。残しちゃダメですよねえ。
「まあ今日は初日だから無理しなくてもいいけど、明日からはそうはいかないからね。さあさあ、冷める前に食べちゃいましょ、ではいただきます」
いただきま〜すとみんなで食事を始める。まとめて作ったからかどうか分からないけど家では食べたことない味でお鍋もソテーも美味しいのよ。でも量がねえ。ほんと見てるだけでお腹いっぱいになっちゃうのよ。でもよそわれた分はなんとか頑張って食べてみるよ。体を鍛えて大きくするのが仕事、なんて言われちゃったらねえ。行儀が悪いけどお鍋の残ったスープをご飯にかけてお茶漬けみたいにかき込んじゃった。ふー、なんとか食べきったよ。もう喉のところまでご飯が詰まってるのが分かるよ、もう何も入りません。
なんていうのは私をはじめ数人程度で、それ以外の人は平気な顔してばくばく食べてました。なんかおかわりまでしてましたよ。あんな大きなお鍋に入ってた具材がすっかりなくなりました。さすがいろいろな代表や選抜に選ばれるような人たちは食べる量も違ってくるんですかねえ。こんなに残しちゃって明日どうしよう、なんて思ってたけどなくなってよかったよ。
ご馳走さまをして後片付け、と同時に明日の朝ごはんとお風呂を分担して準備をしはじめる。たっぷんたっぷんしたお腹を抱えての準備はちょっと苦しいけど、これさえ終わればあとは寝るだけ。工藤さんと部屋に戻りながら「明日から頑張りましょうね」とお互いに励まし合ってお風呂に入り、大きな期待とちょっとの不安を抱えて眠りにつくのでした。
ウィキペディアを参考にしています
次話は1月25日を予定しています